2-9. アイリス・ニードル・ソルガム
私は目の前の光景に開いた口が塞がらずにいた。
ダークエルフは絶滅したしたと聞かされていた。
しかし今目の前には確かにダークエルフがいた。
一体何がどうなっているのか理解ずにいた。
まるで狐につままれたような気分だ。
「あのね、私偵察を終えて戻ろうとしたんだ」
アイリスが手をバタバタと動かしながら説明を始めた。
とりあえず聞くことにした。
「屋根伝いに移動していたとき、裏路地に黒いローブを着た人が見えたんだ。ローブのフードを脱いだら銀髪が見えたから、リーナだって思ったの。そのときちょうど向かい側から軍人が路地に入ってくるのが見えたの。ローブを着た人は軍人が近づいていることに気付いてないみたいだったから、このままじゃ正体がバレちゃうって思って、慌てて捕まえてここまで急いで移動してきたの」
「で、ちゃんと見てみたら私じゃなかったっていうこと?」
「あっ…うん」
アイリスは説明し終えると耳を垂れさせた。
私達が話している間、連れてこられたダークエルフは私達のやり取りをただ黙ったまま見つめていた。
「でもほら、ダークエルフだよ!リーナのことについても何か知ってるかもしれないよ?」
「私のことって…」
私は元人間でありダークエルフではない。
だからダークエルフに聞いてもしょうがないと思うのだがと思ったが、おそらくアイリスは何故私がダークエルフになったのか知っているかもしれないという意味で言ったのだろうと勝手に解釈した。
私達は黙って目の前のダークエルフを見た。
「あの、大変申し訳ないのですが、私はダークエルフではございません」
「「……えっ!?」」
突然発せられたダークエルフの言葉に私達は同時に驚きの声を上げた。
「どういう…ことですか?」
私は恐る恐る訊ねた。
「お初にお目にかかります。私はアイリス・ニードル・ソルガムと申します。一応この国の第3王女、序列6位の王族の升席を務めさせていただいております。以後お見知りおきください」
ダークエルフの少女は自己紹介すると、纏ったローブの裾を軽く摘んで持ち上げると片方の足を引いて軽くお辞儀をした。
「「お、王族!?」」
とんでもないことになった。
作法のスムーズさから見ても上流階級の出身で間違いないだろう。
だとすると、とんでもないことになった。
大事なことなので二度言いました。
私とアイリスは呆然として目の前の王女を見つめていた。
「やはりエルフ族の方はまだ生きておられたのですね?これはすぐにセバスチャンに伝えなくてはいけません!」
戸惑う私達には気にも留めず、王女は目を輝かせると手を組んでまるで神にでも祈るように歓喜の声を上げた。
「あの、興奮しているところ失礼なのですが、いくつかお伺いしてもよろしいですか?」
「はい、何でしょう?」
色々と聞きたいことはあるが、突然の出来事にまだ頭の中が整理できていなかった。
とりあえず真っ先に浮かんだ疑問を訊ねてみることにした。
「この国ってエルフを滅亡させようとしてましたよね?どうして王族にエルフがいるんですか?それとも王族ってみんなエルフなんですか?」
この国ではエルフは災いをもたらすとされている。
だからエルフは滅亡させなければならないとして、壊滅作戦が行われたのだ。
しかし王族にエルフがいるとなると話がわからなくなってしまう。
彼女は一体何者なのだろうか?
「ソルガムの王族は皆人間です。そして、私もこんな見た目をしておりますが、正真正銘、人間なのです」
「えっ!?人間!?って言われましても……」
見た目は明らかにダークエルフではあるのだが、彼女は自身は人間だと言う。
そういえば私も同じようなことを言っていたような気がする。
これがデジャヴというやつなのだろうか?
「ねぇ、どういうことなの?リーナと同じってことなのかな?」
「いや。私のときとは何か違うような…」
私達は大いに困惑していた。
「あの、少し私のお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
私達の様子を見かねたのか王女の方から声をかけてきた。
「話ですか?」
「えぇ。きっとお二人が今疑問に思っていることがわかると思います」
そう言うと王女は自らの生い立ちについて話し始めた。




