2-6. 魅惑の・・・
野を越え山を越え、とはいうが本当に超えるのは一筋縄には行かないものである。
里を出発しておよそ半日、人間達の都市・ラグナシティに私達は到着した。
「何だか随分雰囲気が違うような気がする」
アイリスは町の変化に目を丸くした。
ラグナシティへの訪問は実に半年ぶりのこととなる。
当時は悪徳ギルドの暗躍により表面上は穏やかではあったが、裏では血生臭いことが繰り返されていた。
ギルドの消滅により治安は良くなり、経済面でもクリーンな状態となった。
中抜きや上納金なんていう仕組みはなくなり、誰しもが活発に経済活動が出来るようになったのか、町は活気に溢れていた。
「まさか半年でこうも変わるとは予想外だったよ」
あまりの変貌ぶりにさすがの私も驚きを隠せなかった。
「こんな僅かな時間だったのにこんなにも変わっちゃうなんて、やっぱり引き続き偵察は継続しないと」
アイリスは真剣な表情で呟いた。
私達は二手に分かれて偵察を実行することにした。
アイリスほどではないけれど、私もそれなりに情報収集は出来るようになっていた。
といっても、人目のつきにくい場所でこそこそ盗み聞きするのが関の山なのだが…。
黒いローブを目深にかぶり、私はこの町で一番賑わっている市場に突撃することにした。
これだけ人が大勢いるのなら一人くらい怪しいヤツがいても気にしないだろう。
木を隠すなら森の中。エルフを隠すなら人の中ってね。
途中アイリスが屋根伝いに移動しているのが見えた。
あちらもこちらに気付いているのか微かに視線があったような気がした。
◇◇◇
「安いよ安いよ~。今ならサービスしとくよ~」
「トレビン産のマコーンだ。今が旬だよ~」
賑やかな声が右から左から飛び交う。
そんな人ごみの中を私達は歩いていた。
見たこのない野菜や果物が店先に並ぶ。
どこもかしこも賑わっていたのだが、とりわけ賑わう屋台を見つけた。
何やら香ばしい匂いが漂う。
「ピックの串焼きだよ~。早くしないと売り切れちゃうよ~」
威勢のいい声と匂いにつられて次々と人が吸い寄せられて行く。
「あれって豚だよね。つまり豚串ってことか…」
ピックとは聞いたことないが屋台には豚の顔が飾られていた。
まるで沖縄の市場のような光景に少し似ていた。
「お客さん、一つどうだい?」
「ふぇっ!?」
突然店主に声をかけられ、変な声が出てしまった。
「もうすぐ軍人達がくるから今買わないと売り切れちゃうよ?」
「軍人!?」
物騒なワードに思わずドキリとした。
気をつけないと。気付かれたら一大事だ。
そう思っていたときだった。
「おいちゃん、ビック10本だ!」
「こっちも10本くれ!」
「俺も!」
威勢のいい声が背後から響いた。
振り返ると軍服を着た男が3人こちらに近づいてきていた。
「はいよ。一人1本サービスしとくよ」
店主は威勢のいい声を返すと串焼きを男達に手渡した。
すると一人の男が私の前にやって来た。
「サービスで貰ったやつだから一つどうぞ」
串焼きが私の前に差し出された。
「えっ、いいんですか?」
まさかの出来事に私は驚きを隠せずにいた。
「いいのいいの。冷めないうちにどうぞ」
男はニッと笑った。
「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」
私は串焼きを受け取った。
断ってもよかったのだが、下手に話を長引かせるのもマズイかもしれない。
単純にそう思ったからだ。
別にタダ飯が貰えてラッキーとか思ってはいない。本当だよ?
「なんだなんだ?ナンパか?」
そんな私達のやり取りに、冷やかしの声が飛んだ。
「そんなんじゃねぇよ。ウチの家訓だ。『女には優しくしろ』ってね」
男は冷やかしてきた仲間の軍人に家訓を説いた。
「それは確かに違いねぇな」
軍人の男の言葉に冷やかし男はどこか納得したような表情をすると、豪快に串焼きにかぶりついた。
「やっぱりここの串焼きは美味いぜ!」
冷やかし男は口いっぱいに頬張りながら叫んだ。
私もかぶりついた。
ジュワっと豚の油が口に広がる。
「うまっ!」
思わず口に出てしまった。
口にしてから気付いたのだが、エルフは肉や魚を食べることはしない。
なので肉を食べるのは本当に久しぶりのことだった。
懐かしすぎて少し泣きそうになる。
「だろ!ここの串焼きは美味いんだぜ!」
軍人の男はドヤ顔を決めた。
「焼いてるのは俺だぜ」
店主が静かに抗議した。
悪い悪いと男がバツの悪そうな顔をすると周囲にドッと笑いが起きた。




