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エルフの里は焼かれがち  作者: 北川やしろ
1. エルフと私
27/58

1-27. 炎竜の棲み家

 「なるほど。では私達は一体どうしたらよいのだ?」

 ノースフォレストの裏切り判明の翌日、私達は一ヶ月に亘る調査結果をレノン以外の里の幹部達に報告した。


 偵察の結果とひそかに進められていたエルフ壊滅作戦の存在を知り、幹部達は頭を抱えた。

 「リーナはこの後どうしたらよいと考えている?」

 幹部達から解決策が導き出されることはないとみたレノンは私に今後の展望を訊ねた。


 「そうですね。ここに留まっていてもすでに居場所はバレているわけですし。となれば、ここから出るしかないかと」

 「ここから出るだと!一体どこへ行けというんだ?」

 私の言葉にすぐさま幹部の一人が反論した。


 「それはすぐ近くに広がる森の中が最適かと思います」

 「すぐ近くの森?…ってもしかして、炎竜の棲み家のことを言っているのか!?」

 幹部エルフは驚きの声を上げた。


 「お前はわかっているのか?あの場所がどれほど恐ろしいところなのか!」

 「炎竜の怒りを買ってしまったらどうするんだ!」

 他の幹部エルフ達も口々に反対を表明した。


 「皆さんのご意見はわかります。しかし、皆さんは勘違いしています」

 「勘違いだと?」

 私の言葉に幹部エルフは眉を顰めた。


 「はい。そもそも炎竜なんて生き物はこの世界にいません」


 「はっ?……何を言ってるんだ?」

 幹部エルフは私の言葉を瞬時に理解出来ないようだった。


 「ですから、炎竜というのは作り話なんですよ。そのような生物はいませんから、あの森に立ち入ってもまったく問題はないんです」

 「炎竜は……いない?」

 幹部エルフはまさかの事実にポカンとした表情をした。


 「ちょっと待て!それは本当のことなのか?」

 別の幹部エルフが慌てて真偽を問いただした。

 「はい、間違いありません」

 私ははっきりと答えた。

 「その根拠は?」

 なおも幹部エルフは追及した。


 「まず採取役のエルフ達はこの森を隈なく見て回っています。それはどこにどんな植物が自生しているのかを知るためです。すでにこの森で数年活動しているにも関わらず、彼らは一度も炎竜に出くわしてはいません」

 私は問われた根拠の一つを答えた。


 「しかし、まだ出くわしていないというだけの可能性もあるだろう?」

 返された根拠はそれだけでも十分納得しうるものだった。

 しかし、幹部エルフはしつこく食い下がった。


 「それもあり得ません。何故なら1500年生きているライザさんですら炎竜を見たことはないと言っているからです」

 「ライザばあさんだと!」

 幹部エルフはその名前を聞くと黙り込んだ。


 ライザばあさん。

 1500年という長きを生きるエルフの生き字引だ。

 私は彼女から事前に炎竜の話を聞いていたのだ。


 「ライザさんの話では炎竜とはドラゴニア火山の激しい噴火の様子を伝えるために作られた比喩表現だとおっしゃっていました。ですので彼女も炎竜などという生物は見たことはないとおっしゃっていました」

 「……なるほど」

 もう反論する者は誰一人いなかった。


 さすがに里の生き字引である重鎮ライザばあさんの言うことは私のような小娘の発言よりもよほど信用されているようだ。


 炎竜の棲み家について聞いたとき、なんとなく想像はついていた。

 地面に堪った有毒ガス、突然噴出す熱湯の泉。

 どれも火山由来の自然現象だ。

 そして豪快に噴火する火山の様子はドラゴンが火を噴いているように見えなくもない。

 一見穏やかに見える背後にそびえる山は今もなお活動を続ける活火山なのだ。


 「だが、森に逃げても人間達は追ってくるのではないか?」

 今度は別の切り口で反論してきた。


 「それも大丈夫です。何故なら彼らは森には来れないし来る必要がないからです」

 「来れないし来る必要がない?」

 どういうことだと不思議そうな顔で私に問いかけられた。


 「はい、まず森には有毒ガスが漂っている場所が多数存在しています。そこを避けながら移動するのは大変です。調査には膨大な時間とお金が必要になります。そこまでして我々を追いかけても得られるモノはほぼありません。一時的な感情論で積極的な調査に乗り出す可能性はありますが、その熱量がいつまでも続くとは限りません。お金の無駄ということになれば途端に国民は事業の中止を求めるでしょうから、そうなれば森の奥地にまで到達するのは一体いつの頃になることやらですよ」

 私はやれやれという風に首を左右に振った。


 「では、来る必要はないとはどういうことだ?」

 「その前にまず整理しなければいけないことがあります。それは私達を狙っている人間には2つの集団があるということです。一つは商業ギルド。何が何でもエルフを捕まえたいという集団です。もう一つが政府と軍です。こちらは商業ギルドとは異なり必ずしもエルフを捕まえようとする意思はありません。彼らはエルフが自分達の領域から見えなくなればよいというスタンスです。炎竜の棲み家は人間達が立ち入るよう場所ではありません。ですからそんな場所に我々がいる限り、あえて危険を冒してまで追いかけてくることはないでしょう。となると、問題は商業ギルドをどうするかですが、彼らが私達の元に来ることはおそらくないでしょう」


 「いや待て、何故商業ギルドは私達のところまで来ないと言い切れるんだ?」

 「それは商業ギルドはエルフ壊滅作戦で政府と軍によって消されてしまうからです」

 「消される?」

 私の断言に幹部エルフは驚きの声を上げた。



 「そもそも政府は商業ギルドが悪事を裏で働いていることを知っているんです。そしてエルフ壊滅作戦が成功した暁には、商業ギルドならびに母体である盗賊集団が今後自分達でも制御できないほどの大きな影響力を持つ可能性があるということも理解しています。そこで政府はエルフ壊滅作戦に乗じて商業ギルドと盗賊集団の両者を消し去ろうと考えてたんです。だからエルフ壊滅作戦が実施されれば、同時に商業ギルドの壊滅作戦もおこなわれるんです」

 衝撃の内容にエルフ達は呆然とした。


 「しかし、商業ギルドもそんな作戦が裏で動いているのに気付いているんじゃないのか?」

 すぐに我に返った一人がすぐさま疑問を投げかけた。


 「それはどうでしょう。私達の調査ではこのことを知っているのは政府と軍幹部のごく一部だけのようです。エルフ壊滅作戦の指揮を取る幹部はどうやらわざわざ首都から派遣されるようです。ですのでラグナシティに滞在している関係者は誰もこのことを知らないようです。それほど取り扱いに慎重になっているということでしょう」

 私の説明にエルフ達は渋い顔をした。


 「外に出れたとして、その後のことは本当にそう上手く事が運ぶのか?」

 「かなりの好条件が揃わなければならないのではないか?」

 口々に消極的な声が飛ぶ。

 「しかしこのままではいずれにせよ時間の問題」

 重苦しい空気が流れた。


 「本当に商業ギルドは壊滅するのか?」

 レノンは私に訊ねた。

 「おそらくあることをこちらがすれば、かなりの高確率で成功することになるかと思います」

 「何!?」

 私の発言に再びエルフ達は驚きの声を上げた。


 「あることとは何だ?」

 そこが重要なポイントだ。

 全員が前のめりに身を乗り出した。


 「それは虚偽の情報を流すことです」

 「虚偽の情報?」

 私は作戦の全貌を説明した。


 ◇◇◇


 「はい、例えば『エルフの里で病気が蔓延。戦闘力が大幅に低下。死者多数確認』というような偽情報を流すんです」

 「そんな情報に食いつくとはさすがに思えんが…」

 何だそんなことかよ、とばかりにエルフ達は呆れた顔をした。


 「それはどうでしょう」

 「どういうことだ?」

 私の不適な笑みにエルフ達がいぶかしんだ。


 「間違いなく人間達は食いつくと思います。何故ならこの情報が本当だったとしたら、商業ギルドかなり前のめりで作戦の実行を進言するはずだからです。彼らにとってエルフは金の成る木です。少しでも金にするため、大勢が死んだとなると遺体が腐ってしまう前になんとしてでも確保したいと思うでしょう。政府もエルフに対する国民の怒りの感情が高ぶっている今の時期であれば実績を大々的に宣伝することが出来ます。実行するタイミングとしてはバッチリなんですよ」

 「なるほど、でも政府が実施を拒んだらどうするんだ?」

 レノンが質問してきた。

 なかなかに鋭い質問だ。

 しかし質問が上がるのは想定済みだった。


 「その可能性は低いと思います。むしろ政府にとっては商業ギルドが勝手に動いてくれれば、エルフ討伐の実績と商業ギルドの壊滅という目的を同時に達成することが出来る。すべてが万々歳なんですよ。むしろ商業ギルドを動かそうと積極的に動くかもしれませんよ」


 私の説明をエルフ達は黙って聞いていた。


 「私は彼女の提案に乗るのがいいと思う」

 一人の幹部エルフが私の提案を支持した。


 「彼女の案は理にかなっていると思うの。それに他に案が思い浮かばないというのもあるけどね。それにこのまま座して死を待つよりもはるかにマシだわ」


 この発言を受けて他の幹部エルフも私の提案に次々と賛同の声が上がり、承認されることなった。

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