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エルフの里は焼かれがち  作者: 北川やしろ
1. エルフと私
25/58

1-25. 裏切りの真相2

 「わかりました。では今からノースの方の処分を行います。まず最初は……そちらの女性からにしましょう」

 私の言葉にアイリスが一人の女性エルフの腕を掴んで立ち上がらせた。アイリスの手には鋭利な刃物が握られている。

 「ひっ!ごめんなさい…。助けて…」

 女性は小さく悲鳴を上げると命乞いをした。

 しかし彼女の声を聞いても他のエルフ達は目を伏せるだけで誰も助けようとはしなかった。

 裏切り行為は許されないという決意の現れだろう。


 アイリスは刃物を彼女の首もとへと近づける。

 まさに首元に刃物が食い込もうとしたときだった。


 「待ってくれ!俺が協力者だ!俺が変わりに処分を受けるから、彼女は殺さないでくれ!」

 一人の男性エルフが勢いよく立ち上がった。

 そして私に向かって涙を流しながら土下座した。


 「タツヤ…」

 処分されようとしていた女性エルフは男性エルフの名前を呟いた。

 同時に彼女の頬を涙が伝う。

 アイリスは刃物をしまうと女性を元の場所に座らせた。


 「どういうことだ、タツヤ。お前が裏切りに加担していただなんて…」

 男性エルフ・タツヤ の周囲にいたエルフ達は一応に驚きの表情で彼を見つめていた。


 タツヤ。

 アイリス・エライザと同じイーストフォレストのエルフでスキル『思念』を持っている一人だ。


 そもそも今回の情報漏えい行為は『思念』持ちでないと実施出来ない。

 つまり実行犯は『思念』持ち、それも最低2人が必要だ。

 一人はリズペットで確定。

 ではもう一人は誰だろう?


 リズペットとエライザを除いた『思念』持ちは残り4人。

 一人一人について調べるのにそう時間はかからない。

 すぐに協力者は判明した。

 その理由も…。


 「彼はノースの里の女性と恋仲だったんですよ。惚れた女から懇願されれば、どんな無理難題だって断ることはしないでしょう。もし断られるようなことになったとしても、最悪多少過激な色仕掛けでもしかけれれば喜んで引き受けてくれるでしょう。まったく、男って単純ですからね」

 私はそう言うと拘束されている女性エルフを見つめた。


 この女性エルフとタツヤは恋人同士だったのだ。

 彼女に懇願され、タツヤは裏切り行為に加担することになったのだ。


 「どうして、わかったんですか?」

 偵察部隊によって拘束されながらタツヤは私に問いかけた。


 「先ほども話したように、外への情報伝達には複数の『思念』持ちの力が必要です。そうなると自ずと容疑者は限られてきます。一人はリズペットさん、ではもう一人はと考えたとき、大テントの部族標へ『思念』を送ることが出来ない位置に住んでいる『思念』持ちの方が最有力候補となりました」

 「ちょっと待て!出来ない位置だと?出来る位置の間違いじゃないのか?」

 私の説明に先ほどまでタツヤの隣にたエルフが反論した。

 おそらく彼の親族なのあろう。


 「出来ない位置で間違いありません。逆に出来る位置だとダメなんですよ」

 「出来る位置だとダメ?」

 私の答えに反論したエルフは理解不能という表情をした。


 「今回の行為は放たれた『思念』が同時に重なり合わないと成立しません。片方は反射させて、もう片方は直接狙うとなるとタイムラグが出来てしまう。それだと力を十分に発揮できないんです。だからあえて両方とも一度反射させることでタイムラグが出来ず同時に届くようにしたんです。タツヤさんとリズペットさんのテントから大テントまでの距離はほぼ同じ。であればタイムラグが生じる可能性は他の場所と比べて低くなります。リズペットさんの位置からは直接狙えない。だから鍋を利用した。だからあなたも同じように鍋を利用して『思念』を送っていた。園庭の隅に鍋が置かれていますが、あれはあなたが置いたんですよね」


 彼のテントは園庭の近くにある。

 元々は別の場所に住んでいたが、1年ほど前に突如今の場所に引越していたことがわかった。

 本人は気分転換と説明していたそうだが実際はこの計画を実行するためだったのだろう。

 そして以前園庭の壁に不自然に鍋が立てかけててあったのは彼の仕業だったのだ。


 鍋は常にあるわけではなかった。

 だからアイリスとエライザに鍋の有無、どの方向を向いているのかを確認してもらったところ、外への『思念』の発信があったときには必ず園庭に鍋が確認された。

 二つの『思念』が重なっているため、発信されている延長線上であればある程度近づけば『思念』持ちなら感知出来るらしい。

 近づきすぎると激しい頭痛に見舞われるらしく、以前あったエライザの原因不明の頭痛の正体はこれが原因だったのだ。


 「すべてあなたの言う通りです。ですが、彼女は私にいかがわしい行為はしてません。私が彼女のことを思って勝手にやったことです。彼女はそんな淫らな女性ではないということだけはわかっていただきたい!」

 タツヤはがっくりとうなだれ、自らの行為を認めた。


 純愛だったのはわかっていた。

 彼を煽るようなことを言ってしまったことは謝罪しなくてはいけない。

 しかし恋は盲目とは言うが、自らの行為が里全体を滅ぼす行為だということを彼はどれほど理解していたのだろうか。


 事の真相が全て明らかとなりエルフ達は動揺を隠せずにいた。

 とりわけ内部からの裏切り者の出現は彼らにとってショックが大きかった。


 「どうしてノースは裏切ったんだ…。私達は仲間ではなかったのか…」


 ミーシャが悔しそうに呟いた。

 「……」

 その言葉にアトラをはじめノースのエルフは黙ったたままだった。


 「人質ですよね」


 「!?」

 私の呟きにアトラはハッとした顔で私の方を見た。


 「人質だと?どういうことだ?」

 ミーシャは私に詰め寄った。


 「ノースの方は人間達に里の大半を人質にされているんですよ。人質を殺されたくなかったら、開放して欲しければ自分達の言うことを聞けと脅されていたんです。その一つが里の情報を伝えろというものだったんですよ」


 「すべて、わかっていたんですね…」

 アトラはそう呟くと今度こそ観念した。


 「そうです。私達の里は人間達によって完全に敗北したんです。本来ならば全員で死ぬ選択を選ぶべきだった。しかし、それが出来なかった。結局その判断が更なる悲劇を生んでしまった…」 

 「全員が捕虜として捕まってしまったんですよね?」

 私はアトラに静かに訊ねた。

 「その通りだ。ヤツらは私達に言ったんだ。大人しく言うことを聞けと。さもないと人質を殺すと。少数を開放する代わりに、この計画を実行しろと脅されたんだ。私達にはそれをするしか道がなかったんだ…」


 アトラは号泣した。

 今までどれほど罪悪感を感じていたのだろう。苦しかっただろう。

 しかし私はそんな彼にあることを告げなくてはならなかった。

 それを知ったとき、彼はどうなってしまうのだろう。

 そのことが気がかりだった。


 「アトラさん。あなたにお伝えしなければならないことがあります」

 「伝えなけばいけない、こと?」

 涙で目を真っ赤にしてアトラは私を見つめた。



 「残念ですが、あなたの里の人質はすでに全員死亡しています」



 「……はっ?何を……言って……」

 「嘘だったんですよ。人間達は人質になんてしてないんです。あなた達を解放した直後に全員殺されてしまっているんです。あなた達は騙されていたんですよ」


 心が痛い。

 しかし伝えなければなかなかった。

 これは彼のためにも…。


 「う、嘘だ!そんな、そんなことは!」

 「残念ですが本当です。あなた達の里を襲ったのは残虐な行為をすることで知られている盗賊集団だということがわかりました。そこでイリスの『神眼』で調査したところ、すでに全員殺されているということが確認されました」

 「いや、しかしヤツらはエルフは貴重な存在だと。エルフの力を使って豊かになるんだって。エルフを殺してしまえばその力が手にはいらなくなってしまうじゃないか!だから、そんなことは絶対にない!ありえない!」


 アトラは絶叫した。

 やはり彼には受け入れられないことだったからだ。

 しかし、これは真実だ。

 何故なら彼は大きな勘違いをしているからだ。


 「アトラさん、よく聞いてください。実は今の人間達にはもうそんなものは必要ないんです」


 「必要、ない?」


 「はい。人間達は今エルフの力なんか使わなくてもエルフと同じことが出来るようになったんです。人間達はそれを科学技術と呼んでいます。先ほど見せた機械もその科学技術で出来たものです。これ一つ見ても、彼らはエルフしか持っていない『思念』の力をエルフの力を使わずに実現させたんです。つまり今の人間達にはエルフの力はもう必要ないんです」

 「では、ヤツらは私達の何の力が必要だったんだ?」

 アトラは青白い顔をして震えながら呟いた。


 「一部の人間達の間でエルフの血や肉や内臓が万病に効くとか不老不死になれる薬として高値で闇取引されているようです。豊かになれると言うのはおそらく薬にして高値で売り捌くことで盗賊達に莫大な儲けをもたらしてくれる、という意味だったんでしょう。もちろん、エルフの血肉にそんな効果はありません」


 「そ、そんな!でも殺す必要なんてないだろう。労働力くらいにはいくらでもなるはずだ!」

 淡々と答える私にアトラは叫んだ。

 しかしそんな彼の僅かな希望を私は否定しなければならなかった。


 「以前であればそれもありえたでしょう。ですが人間達にはすでにエルフを使うよりもはるかに格安な労働力を手に入れています。スイッチ一つ押すだけで文句も言わずに朝から晩まで働き続けてくれる便利が機械が発明されているんです。エルフは食事が必要だったり、病気にかかったりと維持管理するのにある程度の費用がかかります。それにいつスキルを使って反撃してくるかわからない。今の彼らにとってエルフを生きたまま所持することは損でしかありません。だから、さっさと金に換えてしまうのが得と考え、あっけなく殺されてしまっているんですよ」


 「では、私達は…一体何のために……、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 アトラは絶叫するとバタリと倒れる。

 口からは泡を吹き白目を剥いている。失神だ。

 すぐに医者のマルクが駆けつけすぐに処置をすると医療用テントへと搬送されて行った。


 周りのエルフ達はその姿をただ黙って見つめていた。

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