1-24. 裏切りの真相その1
「最初は誰が裏切り行為を行っているのかはわかりませんでした。しかし、偵察部隊の話から先ほど見せた機械の存在を知りました。機械は探知係の探知エリアの外に設置してあったことから設置に気付かなかったんです。この機械の設置場所は園庭の穴を抜けたちょうど延長線上にありました。そのことから園庭の穴から『思念』を飛ばしていると推測しました。しかし、『思念』持ちのエライザによると、設置してある場所が遠すぎてとても一人だけの力では届かないというんです。ではどうしたら届くようになるのかと聞いたら、二人いればお互いの力が合わさるとこにより届く可能性があるとのことでした」
エルフ達は黙って私の話に耳を傾けた。
一方でノースフォレストのエルフ達はという拘束されうなだれたままだった。
「しかし先ほどミーシャさんがおっしゃったように、穴に向けて二人並んで『思念』を送っていたらすぐにわかってしまいます。では、どうしたらいいのか?答えは簡単です。誰にも気付かれないように送ればいいんです」
「気付かれないように?」
誰かが問いかけた。
「はい、彼らは自分のテントの中から『思念』を送っていたんですよ」
「テントの中から?」
驚きの声が上がる。
しかし同時に疑問の声も上がった。
「でも園庭の穴の正面って大テントへ繋がる通路だろ。そんなところに個人のテントなんて立ってないじゃないか!」
確かに園庭の穴の正面には一直線にレノン達のいる大きなテントへと伸びている。
これはかつてこの穴が洞窟へのメインルートだったころの名残だ。
なので園庭の穴の正面には何も建物はない。
当然の疑問だった。
「穴を背にすると正面に大テントが見えます。その大テントには気になるものが付いていました。それが部族標です」
「部族標?それが何だっていうんだ?」
「部族標は金属製で丸い円形をしています。綺麗に反射してくれそうな形をしてますよね?」
「反射!?ってまさか…」
エルフ達が騒然としだした。
部族標、エルフ族の存在を知らせるために作られた独自のマークだ。
国旗やロゴマークのようなものだ。
遥か昔の先人達が作ったエルフ族の部族標はかつてクロイツフォレストの森に住んでいたころから使われていたものだ。
エルフの里を象徴するものなので、よく見えるように高い位置に取り付けられている。
どこからでも見えるように…。
「そう、複数個所からあの部族標を目掛けて同時に『思念』を飛ばし、反射させることで園庭の穴から外へ情報を送っていたんです」
まさかの事実にエルフ達はあんぐりと口を開けたまま固まってしまった。
しかし、反論する者がいた。
「何かと思えば、そんな推測が根拠だなんて。残念ながらそれが根拠だというのなら、あなたの推理は成り立たないわ」
アトラの妻リズペットだった。
「どういうことですか?」
私は彼女に理由を訊ねた。
「だって私のテントからは他のテントが邪魔して部族標が見えないわ。だから部族標を目掛けて『思念』を送るなんていうことは無理な話よ」
自信満々といった表情だった。
ノースの里は最近になって加わった。
居住地は均等に分けられていたのだが、後になって加わったため、奥まった端の方となってしまった。
そのため彼らのスペースからでは他のテントが重なり邪魔をして部族標が見えないのだ。
しかし、そんなことはすでに織り込み済みだった。
「はい、だからあなた達は直接は狙わなかったんですよね?」
「!?」
自信満々だったリズペットの表情が曇った。
「そのほうが気付かれたとしても、今回のような言い訳が出来ますからあなた達にとっては都合がいいいですもんね。違いますか?」
「何を言ってるの?」
リズペットは搾り出すように低い声で呟いた。
手足がガクガクと震えていた。
「あなたは自身のテントから見える炊事場にある鍋に向かって『思念』を飛ばした。違いますか?」
「あっ、それは…」
それだけ言うとリズペットは黙り込んでしまった。
完全に敗北を認めた、誰もがそう理解した。
「何故だ。何故わかったんだ…」
アトラが悔しそうに呟いた。
「最初はささいな違和感でした。どうしてこんなところに鍋が置いてあるんだろうって。でもそれがあるとき強烈なものに変わったんですよ。それがきっかけで今回の可能性に行き着いたんですよ」
「あることだと?」
「はい。干しが、もとい、干しカーキンを作っていたとき近くにあった鍋を使おうとしたところ、リズペットさんに使わないよう注意されたんです。あの鍋は部族標の方向に反射するよう調節されていたんでしょう。触って位置がずれてしまうとまた調整し直さなくてはいけなくなる。調整している姿を見られれば不審がる者も出てくるかもしれません。そのリスクを避けるために私達を注意したのでしょう。その後の言い訳がもう少し上手かったら気付かなかったかもしれません」
リズペットはがっくりとうなだれた。
そんな妻の姿をアトラは憮然とした表情で睨みつけた。
「お前のせいで失敗したんだ」
まるで妻に全て責任があるかのように呟いた。
その態度が私には気に食わなかった。
ゆっくりと近づくと彼の前にしゃがみこんだ。
「アトラさん、リズペットさんの行動だけでなく、あなたの行動も私が気付くきっかけになったんですよ」
「何…だと…」
アトラは顔を上げると驚きの表情をした。
おそらく彼は自身はバレることなく完璧に行動していたという自信があったのだろう。
しかし私は見逃さなかった。
「私はずっと疑問だったんです」
「疑問?何のことだ?」
「それはあなたの私に対する対応の違いです」
「対応の違い?」
アトラはまったく思い当たる節がなかったのかポカンとした。
「昨日の朝あなたは私に親しげに挨拶をしてくれました。しかし4日前はというと、まるで汚いものでも見るかのような視線だけ向けて無視したんです。これはこのときだけではありません。親しげなときと無視されるとき。この違いはなんだろう。単に機嫌が良い悪いのことかとも思ったんですが、そのときのことを思い返すとある共通点があったんですよ」
「共通点だと?」
「はい。それは親しげなときは私一人もしくはエライザと一緒にいるとき、そして無視されるときは必ず近くにイリスがいるときなんですよ」
「!?」
アトラは何かに気付いたように目を一瞬見開くとすぐさま目線を私から逸らした。
「あなたにとって私はどうでもいい存在だった。あなたにとって重要だったのはイリスの存在です。そりゃ何でも見透かせるスキルを持っているんですから、警戒もしますよね。自分達のことも見透かされているんじゃないかって。イリスのことを警戒しすぎたあまり表情に出ちゃってたんですよ、あなたは。それに疑問を抱く者がいるとも気付かずに。あなたの態度の違い、そしてリズペットさんの行動。二人は夫婦ですから、何かあるのではと思って調べてみたら…。どちらがお一人だけならここまでのことはしなかったでしょう。ですから、あなたの行動も今回の件が明るみになる原因の一つなんですよ」
「……」
私の言葉にアトラは何も言えずに黙り込むとうなだれた。
真相の大部分は明らかになった。
私は最後の仕上げに入った。
「では最後に、ノースフォレストが裏切り行為をしていたわけですが、先ほど言ったようにこれはノースの方だけでは成立しません。その行為に加担した別の里の方がいます。出来ればご自身で名乗り出ていただけるとうれしいのですが…」
私は広場に勢ぞろいしているエルフ達に問いかけた。
エルフ達はお互いをキョロキョロと落ち着きなく見回した。
隣に裏切り者の協力者がいるかもしれない。
そんな不安からだろう。
誰の手も挙がることはなく、広場には騒然とした疑心暗鬼の空気だけが広がる。
「もう一度聞きます。名乗り出る方はいませんか?」
それでも名乗り出る者は現れなかった。
私はため息をつくとアイリスをチラリと見た。
その視線にアイリスは気付くとコクリと小さく頷いた。
「わかりました。では今からノースの方の処分を行います。まず最初は……そちらの女性からにしましょう」
私の言葉にアイリスが一人の女性エルフの腕を掴んで立ち上がらせた。
アイリスの手には鋭利な刃物が握られている。
「ひっ!ごめんなさい…。助けて…」
女性は小さく悲鳴を上げると命乞いをした。
しかし彼女の声を聞いても他のエルフ達は目を伏せるだけで誰も助けようとはしなかった。
裏切り行為は許されないという決意の現れだろう。
アイリスは刃物を彼女の首もとへと近づける。
まさに首元に刃物が食い込もうとしたそのときだった。
「待ってくれ!俺が協力者だ!俺が変わりに処分を受けるから、彼女は殺さないでくれ!」
一人の男性エルフが勢いよく立ち上がった。
そして私に向かって涙を流しながら土下座した。




