1-20. 裏切り発覚、里の危機
私が里のエルフ達に認められ始めてから数か月が経ったある日、レノンに呼び出された。
数日前から人間達の偵察に出かけたアイリスはまだ帰宅していない。
いつもなら報告を終えると一目散に帰ってくる彼女が帰還予定日を過ぎても帰ってこず、心配の日々を過ごしていたときのことだった。
最悪のことが頭をよぎり、どのようにレノンの元まで行ったのか記憶にない。
「失礼します、リーナです」
「……入りなさい」
少し間があったのちレノンから入室の許可が降りる。
ふぅっと息を吐くと意を決して入室した。
「えっ!?」
入室した私は思わす自らの目を疑った。
正面に座るレノン、その傍らにはアイリスの姿があったからだ。
「イリス…。よかった」
思わず泣きそうになる。
「突然のことで悪いがリーナ。この世界以外の理を知る者として、お前の力を貸してほしい」
レノンが頭を下げた。
エルフの里長として絶対的な権力を持っているレノンが他人に頭を下げるところなど見たことがない。
「あの、一体どういうことですか?」
私はレノンに訊ねた。
「エルフの里に裏切り者が出た。そして里は近いうちに攻撃を受ける」
「えっ!?」
裏切り者、攻撃される。
レノンの口から出たのは信じられない言葉だった。
「一体誰が裏切ったんですか!」
思わず柄にもなく叫んでしまう。
私ってこんなに熱血漢だったっけ?
「落ち着きなさい。誰が裏切ったのかはまだわからん。しかし里の内部情報が人間達に筒抜けになっていることがわかった」
「内部情報が筒抜けって…。一体どうやって…」
「その方法はわからん。しかしイリスの偵察の結果、確実に里の情報を人間達が把握していることが判明したんだ」
一体どうやって情報を伝えたんだろう。
様々な可能性を思案する。
「里の外に出た者が犯人なのでは?」
「それはありえん。お主も知っているように、外に出ることが出来る者は限られておる。そして出る場合には厳格な監視の目がある。監視役によるとここ数年は誰も人間との接触はないそうだ」
ということは外に外出したものが情報を渡しているという可能性はなさそうだ。
「里の中から情報を外に飛ばしているということは?」
「それもありえん。この洞窟は分厚い岩盤で出来ている。『思念』を飛ばしても全て岩盤によって吸収されてしまって洞窟内部ならまだしも外までは届かんのだ」
『思念』つまりはテレバシーのことだ。
確か里の情報が外に持ち出されないようにするためにあえてこの場所にしたと言っていたっけ。
となると、この可能性もないということになる。
「イリス、偵察で何か変わったこととか、気付いたこととかない?」
まったく可能性が見えないとなれば僅かなことでもいいので情報が欲しいところだ。
「変わったこと…。関係ないかもしれないけど、探知範囲よりも遥かに遠い場所に人間達が変なもの置いていったとか、それくらいかな?」
「変なもの?」
「うん。何か棒と丸いお皿が前後についたものなんだけどね。別に攻撃用とか言うわけでもないみたいなんだ。ただそこにおいてあるだけなんだけど」
「お皿がついたもの?」
何だそれ?
私は首を傾げた。
「えっとね、こんなんなんだけど」
そういうとアイリスは地面に絵を描いた。
箱のようなものを挟んで片側にはお皿のようなものが取り付けられている。
お皿の中心部分に重なるようにして棒のようなものがぶら下がっている。
棒の反対側は真ん中の箱へと繋がっていた。
もう片方はというと、お皿の上に取り付けてあるような棒が箱から飛び出していた。
「あとね、同じようなものが転々と森の中にあってね、最終的には人間達の里の近くまで続いてるんだ」
お皿にぶら下がる棒。
そして転々と連なっている…。
「もしかして…」
私の反応にレノンとアイリスが顔を見合わせた。
「イリス、それって置いてある場所を繋げると一本の線になったりする?」
「えっ。あぁ~と、うん、確かに一直線上に並んでいるかも」
この答えから一つの可能性に行き着いた。
「ちなみになんだけど、一番里に近い場所ってどこかわかる?」
「えっ、里に一番近いのは…、ここだよ」
アイリスは簡単な地図を先ほどの絵の隣に描き、その地図上に指し示した。
その場所はかつて入り口として使っていた、現在は使われていない園庭にある旧入り口からまっすぐ伸びた直線上の位置だった。
「何かわかったのかね?」
レノンが前のめりで訊ねてくる。
「まだ確定はできませんが、ある可能性が一つ考えられます」
「何!?」
レノンは驚きの表情をした。
「しかしまだ誰が行っているのか、どうやって外に情報を持ち出したのかはわかりません。一度調べてみていいですか?」
「もちろんだ」
レノンは頷き調査に協力することを示した。




