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エルフの里は焼かれがち  作者: 北川やしろ
1. エルフと私
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1-17. いざ外の世界へ

 「まさか本当に外に出ることになるなんてね」

 エライザは少し興奮気味にはしゃぐ。

 「エライザ、遊びに来たんじゃないんだからね」

 「わかってるって」

 アイリスはエライザに注意するが、エライザの興奮は収まるどころかさらに膨れ上がっているように見えた。


 アイリスの提案からすぐ、私とアイリスそしてエライザは里長(さとおさ)の元へ呼ばれた。

 「お前達に食料採取の任を与える」

 レノンはそう告げた。

 「食料採取ですか?」

 私はレノンの言葉にポカンとしながら聞き返した。


 「里では野草や薬草、それに果実やきのこなどの知識を持った者だけが食料採取のために外に出ることが許されている。リーナはまだ知らない植物知識があるかもしれん。新しい食材の発見は里にとっても大きいからな。なので調査のための一時外出を許可する、ということだ」

 そういうことで私達は採取役の一人であるシュモライザと共に洞窟の外に出た。


 「はい、これ。ちゃんと着けてね」

 シュモライザはミサンガのようなものを手渡してきた。

 「これ何ですか?」

 「これは探知の護符だよ。私達がどこにいるのかという位置情報を上にいる探知係が探知出来るように知らせるためモノだよ」

 どうやら発信機とでもいったところのようだ。

 「迷子にならないようにとか、なっちゃったときの捜索用とかね。他にも意味はあるけど…」

 ビーコンやGPSといった救難用の意味合いが強いようだが、おそらくそれ以外のところが一番大きいだろう。

 それはズバリ裏切り行為だ。

 里の情報を外に流出させないための監視機能といったところだろう。

 探知係は護符だけ探知するのではなく、護符周辺の生物もおそらく探知出来ると考えた方がよい。

 護符を身に着けたものが別の生き物と会っていたり近づいたりしたらすぐにわかるようになっているのだろう。

 「それほど遠いところまでは行かないようにって言われてるから、今日は近いところでするからね」

 シュモライザはそう告げると、ぴょんとジャンプして近くの木の枝に飛び乗った。

 あぁ、すっかり忘れていたけど、あれをしないといけなんだった…。

 初めてこの世界に来たばかりのときを思い出す。

 「行こう!」

 アイリスが私に手を伸ばす。

 頷くとその手を掴んジャンプするとフワリと木の上に降り立った。

 さあ、冒険?の始まりだ!



 エルフの里では名前の最後3文字を愛称として呼び名とするのが一般的だが、例外もある。

 それは同じ文字のエルフがいた場合だ。

 この場合年長者が3文字呼びされ、それ以外はフルネームで呼ばれることになる。

 エライザもその一人でライザとならなかったのは、1500歳になる最年長エルフのライザばあちゃんがいるからだ。

 採取に同行してくれているシュモライザもエライザと同じ理由だ。しかし1500歳とはさすがエルフ。



 そんなことを話しながら移動する。

 時計がない世界なので時間はわからないがおそらく5分か10分ほどが経過したと感じたころだった。


 「じゃあ、この辺で採取しようか?」                                                                                                                                                                      

 シュモライザの足が止まった。

 すぐ近くの木には赤い果樹が鈴なりに実っていた。


 「リーゴンじゃない。こんなにたくさんあるの初めて見た」

 エライザが目を輝かせて喜びの声を上げた。

 「ちょうど今が旬だからね」

 シュモライザは一つもぎ取ると私へ投げ寄越した。

 驚きながらも何とか受け止めた。

 ほのかに甘い香りがする。まるでリンゴだ。


 「皮ごと齧ってみて」

 アイリスは私に食することを勧める。

 「いいの?」

 「うん。だってリーナは食べたことないでしょ?」

 言われるがままに齧ってみる。

 シャリっという食感とともに甘い果汁があふれ出す。

 完全にリンゴだった。


 「どう?おいしいでしょ」

 アイリスが嬉しそうな顔をする。

 「うん、すごく甘くておいしいよ」

 その答えを待ってましたとばかりにアイリスはそうだろそうだろと言う様に頷いた。


 「だったら、こっちはどう?」

 そう言うとエライザが今度は橙色の実を投げてきた。

 「それもそのまま食べてみて」

 ニヤリと笑う。

 嫌な予感しかしない。


 それはリーゴンと呼ばれた実よりも少し楕円形をしており、果肉も少し硬かった。

 枝についていたヘタの部分には硬い葉がくっついている。

 これってもしかして…。


 「これ、そのまま食べたら絶対渋いやつだよね?」


 「!?」

 エライザは何故わかった?という罰の悪そうな顔をした。

 「こんなの食べたら舌がしびれて大変なことになっちゃうよ」

 私は少し怒りの表情を浮かべてエライザに指摘する。

 「リーナ、カーキンのこと知ってたんだ?」

 「カーキン?」

 それのことだよ、とアイリスは私が手に持っている果実を指差した。


 「鳥や獣たちは食べることもあるみたいだけど、私達は渋くてとても食べられたものじゃないからね。いっぱいあるのに残念だよ」

 シュモライザが肩を落とした。


 「えっ、これおいしく食べられますけど?」


 「はぁっ?おいしく、食べられる…?」

 私の発言に全員が唖然とした表情をした。

 「どどどど、どういうこと!?」

 シュモライザは私のいる枝に飛び移ると肩をがっしりと捕まえ、前後にゆさぶる。

 「おおおおお、落ち着いてください」

 アイリスがシュモライザの行動を止めさせる。

 ふらふらしながら私は答えた。


 「今の状態で収穫して加工する方法があります。あとは今は取らずにしばらくこのまま置いておくことです」

 「このまま置いておく?」

 「はい。今はまだ熟していなので。柔らかくなってきて、鳥達がついばみ始めるころには渋さも抜けてかなり甘くなっていていうはずです」

 「えっ!?そうなの?」

 シュモライザは驚きのあまりあんぐりと口をあけて固まった。

 「あんなに渋いんだよ。それがなくなるなんて…。信じられない…」


 カーキン、つまりは柿。

 彼らは渋い柿はどれだけ時間が経ってもずっと渋いままだと思い込み、今まで採取する対象から除外していたのだ。

 柿がその後熟して甘くなるということを知らなかったようだ。なんとももったいない。


 「あと、渋い今の状態のヤツは干して乾燥させると日持ちもして甘くなりますよ」

 もちろん一度茹でるなど渋抜き処理は必要だが。

 「そんなことって…。じゃあ、もしかしてリーゴンも日持ちさせられたりするの?」

 「りん、いや、リーゴンですか?」

 再びシュモライザが詰め寄ってくる。

 いや、顔が近い!

 「リーゴンってすごくおいしいけど、すぐに痛んじゃうんだよね。収穫期の今くらいから長くて20日くらいしか食べられないのよ」

 アイリスが残念そうにする。

 そんなに好きなんだな、リンゴ。

 「乾燥させるという方法もありますけど、一番はジャムとかにしちゃうとか?」

 「ジャム?」

 アイリスとエライザ、そしてシュモライザは聞いたことがない単語に顔を見合わせた。


 「ああ、ジャムっていうのは、果物を砂糖と一緒に煮詰めて瓶などに入れたものですよ。パンとかにつけたり、お菓子にしたり、お茶に入れたりしてもいいですね」

 「何それ…。そんな方法考えたもないんだけど…」

 そもそも砂糖があるのか、保存用の瓶があるのか、それすらわからない。

 しかし反応を見る限りもしかしたらあるのかもしれない。

 「それ、すぐに作れたりする?」

 血走った目でシュモライザが詰め寄る。

 だから顔が近いって!


 「物がそろっていれば、大丈夫かと…」

 「わかった。じゃあ収穫を始めましょう」

 何だろう。今までにないくらいの闘志を感じた。

 本当に食べ物って恐ろしい…。


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