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エルフの里は焼かれがち  作者: 北川やしろ
1. エルフと私
16/58

1-16. 穴があったら…

 「いくぞー!」

 あれから1ヶ月。今日も元気な声が響く。


 あの日以降私達はたまに園庭へ行くことが多くなっていた。

 気分転換もあるが一番は子供達だ。


 最初は手品を見せていたが、最近では一緒なって走り回ったりしている。

 「相変わらず黒ねえちゃん下手だなぁ」

 盛大に弓矢で的を外し子供達が笑う。

 弓なんてしたことないんだからしょうがないだろう。

 「どうやらこの弓が私についてこられなかったみたい」

 私は弓のせいにした。

 決して私の腕がないからではない。いや嘘です。私の腕がないからです…すいません。


 「何言ってんだよ!そんな訳ないじゃん!黒ねえちゃんやっぱ面白いわ!」

 ケラケラと子供達は笑う。


 いつの間にか子供達には「黒ねえちゃん」と呼ばれるようになっていた。

 最初はあんなに気味悪がっていたのに、今ではすっかり懐かれてしまった。

 私を警戒していた子守役のジニーも、私と子供達との関係を見ていくうち、態度に変化がみられるようになった。

 最初はまともに会話もしてもらえなかったが、今では気さくに挨拶してくれるようになった。


 「リーナおねえちゃん。今度は私と遊んで」

 弓矢を置くと同時に裾が引っ張られる。

 黒ねえちゃんと呼ぶ子供が多い中、唯一リーナと呼んでくれるのがこの少女ルーナだ。

 最初に私に声をかけてくれたのもこの子で、今の関係を築くことが出来たのはルーナが声をかけてくれたからだ。

 とはいえルーナは今年で65歳になる。エルフの世界ではまだまだ子供の年齢なのだが、元の世界の両親より年上というのが何とも複雑な気持ちになる。


 「いいよ。何する?」

 「んとね、玉投げ」

 にっこりと笑う。

 玉投げとは的に向かって小さな玉を投げる遊びだ。最初に手品で使った玉を使う。

 ルーナはこの遊びが大の得意だ。なので自分が優位に立てるもので私よりも上の立場に立てるこの競技を選んだのだろう。そして、私はもちろんこの競技も苦手だ。


 「よぉ~し。負けて泣いても知らないぞぉ~」

 私は腕をグルグル回す。

 そして玉を投げる。的を外す。うなだれる。はい、ここまでがセットです。


 「全然ダメじゃ~ん」

 その様子を見ていた別の子供が野次を飛ばす。

 「今日は前よりも惜しかった」

 洞窟の壁まで転がって行ってしまった玉を取りに行く。

 玉を拾うと目の前の壁に×の形に木材が貼り付けられているのに気が付いた。

 こんなものあったっけ?

 木材の隙間を覗くと外の風が吹き込んでくる。

 どうやら人一人が通れるほどの通路になっているようだ。

 おそらく外と繋がっているのかもしれない。


 「ダメだよ、リーナ」


 突然声がかけられ、思わず飛び跳ねてしまう。

 「イリスか、びっくりしたぁ」

 親しいエルフの姿に私は胸を撫で下ろす。

 一方アイリスは腰に両手を当ててどこか怒っているように見える。

 「リーナ、その穴に入っちゃ絶対にダメだからね」

 アイリスは珍しく強い口調で注意した。

 「どうして?っていうか、こんなところに穴なんてあったんだね。初めて知ったよ」

 アイリスの普段とは異なる態度が気になり、私は穴のことを聞くことにした。


 「その穴は一番最初にここへ来たときに使っていた通路で、外に通じてるんだよ」

 「外に?出口って一つだけじゃなかったんだ」

 今まで外に繋がる通路は広場の傍にあるものだけだと思っていた。

 しかし何故今は使われていないのだろう?

 「もともとはこの通路がメインだったんだけど、すぐ出たところ周辺に人間達が現れたことがあってね。あのときは居場所がばれないか本当にヒヤヒヤしたよ」

 「えっ?ここまで人間が来たの?」

 随分森の深いところだと思っていたが、案外人間の領地は近いのだろうか。

 様々な疑問が湧き上がる。


 「うん、でもすぐに帰って行ったよ。どうやら木が欲しかっただけみたいで、こちらのことにはまったく気が付かなかったみたい」

 「木が欲しい、ってどういうこと?」

 素朴な疑問をぶつけた。


 「人間達の国では20年に一度大きなお祭りをやるみたい。そのときにある程度の幹周りがある木が数本必要だったみたいなんだけど、人間達は身近にある森林はほぼ切り倒しちゃってたから、そんな条件に会う木が近くになかったんだよ。だから遥々危険を冒してまでこんな森の奥深くまで来たみたいなんだ」

 「じゃあ、木を切り倒した後はもう来てないんだ」

 「うん、もう見ないね。でもここまで人間は来ることができるっていうことがわかった以上、もしかしたらっていうことで、この出口は使わないことにしたんだ。出入りしているところを見られたら一大事だから」

 なるほど、そういう理由があったわけか。

 随分慎重だとは思うが、用心するに越したことはない。

 「でも子供の遊び場の近くは危なくない?気になって入って遊んじゃいそうだけど」

 「口酸っぱく言われているからね。それに外に出たら怖いことが起こるよって言い聞かせてるから絶対に外には出ないよ。大人たちでも限られた者しか外に出ることは許されてないからね。ここにいる子達の親も出ることは許されてないからね。親が太刀打ちできないような危ないものに子供が太刀打ちできるわけないじゃない。恐怖心が好奇心よりも上回ってるからそんなことにはならないんだ」

 一応ちゃんとした対策はとってあるようだ。

 しかし限られた者しか外に出れないとは初耳だった。


 アイリスは偵察の任務があるから外に出ることが出来たということだろうが、限られた者に名を連ねているということは、やはりすごいエルフなんだと改めて実感する。

 「外、気になる?」

 アイリスが問う。

 気になるかと言われれば気にならないはずがない。

 「気にはなるけど…」

 「出てみたい?」

 「えっ、出れるの?」

 私はそもそも監視対象だ。

 それにアイリスのように特殊なスキルがあるわけでもない。

 もし人間や魔物とかち合ってもどうすることも出来ない。

 「もしかしたら…、行けるかもしれないよ」

 「本当に!?」

 アイリスは意味深なことを言った。

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