1-14. エルフの恋事情?
「見苦しい姿見せてごめんなさい」
鼻を啜りながらアイリスは申し訳なさそうに耳を垂れさせた。
「仲直りしたみたいで安心したよ」
タマラは安堵の表情を浮かべた。
えへへとアイリスは笑うと私に抱きつく。
その様子にエライザは苦虫を噛み潰したような表情で私を睨みつける。
「しかしエライザだけじゃなくイリスも監視役やらなくてもよかったんじゃない?」
「だってエライザ一人だけじゃ大変そうじゃない?」
タマラの心配にアイリスは当たり前のことというふうに答えた。
「別に私一人でも大丈夫なのに。イリスは心配しすぎ」
エライザは不服そうに答えた。
「心配?それを言うなら私はエライザの方が心配だよ」
「私が心配?どういうこと?」
アイリスの発言にエライザが不思議そうな顔をした。
「だって、リーナはまだ里の中での役割が決まってないじゃない。ということは基本テントで過ごすことになるでしょ。婚姻の儀もしていない男女が一日中狭いテントの中で一緒に過ごすってなると、何か間違いが起こらないともかぎらないじゃない」
「「はい!?」」
私とエライザは同時に悲鳴にも似た声を上げた。
しかし綺麗なシンクロだった。
「い、今、何て言った?」
エライザは声を震わせてアイリスに聞き返した。
「ん?リーナはまだ里の中での役割が決まってないじゃない」
「そのあと!」
「婚姻の儀もしていない男女が一日中狭いテントの中で一緒に過ごすってなると…」
「ストップ!」
エライザは叫ぶとアイリスの両肩を掴むとうなだれる。
「どうかしたの?」
エライザの様子に驚きつつも、アイリスは不思議そうな顔をする。
「イリス…。その…、知ってたの?」
私は恐る恐る聞いた。
「知ってたって、何が?」
「あっ、いや。その…、エライザのこと…」
「エライザのこと?」
何を言ってるんだというような表情をアイリスは浮かべる。いや、わかるだろう。察しが悪すぎる。
わざとなのか?アイリスの反応に少し苛立ってしまう。
「あっ、もしかしてエライザが男性だっていうこと?」
やっぱり知っていたようだ。
アイリスの言葉を聞きエライザは膝から崩れ落ちた。
その様子をタマラが後ろから面白いことが起こったとばかりにニヤつきながら見ていた。
「知ってたの?」
「うん、当たり前じゃない」
私の問いかけに、いともあっさりと答える。
「どうしたの?もしかして、私が知らないと思ってたの?」
「あっ、うん。そう、聞かされてたから…」
えぇっ!?とアイリスは衝撃の事実を突きつけられたとばかりのリアクションを見せた。
「さすがに知ってるに決まってるじゃない。生まれたときからの付き合いなんだよ」
アイリスは足元でうなだれているエライザを見て言った。
「いや、だってイリスは一度も私のこと男扱いしたことなかったじゃない!」
「あれ?そうだっけ?」
「そうだよ。同年代の子達と遊んでるときもニーシャやトミーは男の子扱いしてたのに、私はキマラやメイニと同じ女の子扱いしてたじゃない!」
何だか知らない名前がたくさん出てきた。
どうやらアイリスとエライザの同年代のエルフ達のようだ。
同年代って言ってもエルフ基準ではどれくらいの年齢差があるのだろう。
そんなことはどうでもいい。
エライザの主張によると、アイリスはエライザを女子扱いしていたようだ。
それならそう思い込むのもわからないわけではないが…。
「あぁ、だってエライザちっちゃくって可愛かったから。それにいつも女の子の服装してたじゃない?」
「あれは私が生まれるちょっと前に生まれた従兄弟のお下がりをまだ着れるからもったいないって言って両親が着せてただけ。私の意思じゃないから!」
エライザは早口で捲し立てた。
「話し口調も昔から女の子みたいだったし」
「これはあんたが女の子扱いしてくるから驚かしちゃわないようにそうしてただけ!」
いやエライザ、めっちゃアイリスのこと気にしてるじゃん!
と私は心の中で突っ込みを入れる。
あれ?もしかしてエライザってアイリスのこと…。
でも違うって言ってたような気がするが。
でもあれが私の尻尾を掴むための嘘だったとすると…。
何これ、超面白い展開じゃん。
と謎の恋バナ野次馬心がざわつく。
「いいじゃないかエライザ。イリスはちゃんとあんたのことわかってるんだからそれでさ」
一連のやり取りを後ろで笑いながら見ていたタマラが会話に割って入った。
「それとも何だい、エライザはリーナに気があるのかい?」
意地悪そうな質問だ。
「あるわけないじゃない!こんなヤツと!」
エライザは瞬時に否定する。
「じゃあエライザ、あんたイリス気があるのかい?」
「はっ?」
エライザの動きが止まった。
「どうしてそんな話になるのさ」
搾り出すようにエライザが答えた。
「だって二人でリーナを監視するんだろ。私はあんたら二人がいい感じになっちゃって任務をおろそかにされちゃったら大変だと思ってね。イリスの叔母として、姪っ子にもしものことがあったら大変だから」
「んな!?」
エライザは声にならない声を上げた。
そしてタマラは何故か私の方に謎のアイコンタクトを送った。
謎のアイコンタクトの意味がわからず一瞬ポカンとなるが、すぐにある可能性に至った。
もしかして、タマラはエライザがアイリスに気があることを知っているのだろう。
そして二人をくっつけようとしているのではないか。叔母という生き物はよくお節介で人をくっつけようとしたりするのがベタなドラマのよくあるセオリーだ。
そしてあのアイコンタクトの意味、それはずばり私に二人をくっつけるアシストもしくはキューピット役になれ、という意味なのではないだろうか。
確かにアイリスには精神的に支えとなる相手が必要なのかもしれない。
そのことは今日の出来事ではっきりと露呈した。
姉に似ている特長を持つ私はその相手として相応しくはないだろう。
となると、相手はおのずと限られてくることになる。
これは大仕事になりそうな予感がする。
というか、タマラがアイリスの叔母だったということの方が私には衝撃的ではあったのだが…。
「大丈夫だよ、タマラさん」
私が情報を理解し言葉を発するより先にアイリスが答えた。
「エライザといい感じとか、ないない。ありえないよ。ねっ、エライザ?」
アイリスは屈託のない笑顔をエライザに見せた。
「えっ、あっ…、うん。そう…だね…」
エライザは答えた。
しかしその顔はまるでこの世の終わりを迎えたかのように真っ青だった。
「ほら。エライザもこう言ってるし、何にも心配ないよ」
アイリスは満面の笑みを見せた。
私とタマラは視線を合わせると、こりゃダメだという合図を送りあった。
エライザは焦点の合わないうつろな表情ではははと感情のない笑い声を上げていた。
このときばかりはエライザのことを抱きしめてあげたいと心から思った。




