1-13. リーナとアイリス
レノンと共に里の広場で挨拶するまでの間は何とも気まずい時間だった。
「まぁほら、リーナはもう少し休んでなさい」
タマラは努めて明るく振舞った。
「はい。すいません」
その配慮に申し訳なくなる。
ベッドに横になろうとすると、視界にアイリスの姿が映った。
「イリス、ごめんね」
「……」
アイリスからの返事はなかった。
あれほど私のことに気を使ってくれていたのに、結果として彼女を裏切るようなことをしてしまっていたことに心が痛んだ。
「イリス。むくれちゃってもしょうがないじゃないか。リーナだって苦しかったからこうして謝ってるんだ。そんなことがわからないわけじゃないだろ」
タマラはアイリスを諭した。
「だけどイリスを騙してたのは本当じゃない」
エライザが嫌味ったらしく言う。どうしてこんなに嫌われているのだろう。
私のことを恋敵だとでも思っているのだろうか?
「エライザもいい加減にしなさい!」
タマラはエライザを叱る。
「でも私が指摘していなかったらずっと黙ってるつもりだったんでしょ。そんなのイリスに対する裏切り以外の何者でもないじゃない」
確かに真実を話すきっかけとなったのはエライザだ。
レノン達と直接言葉を交わしたとき、もしくは昨夜の眠る前にでも思い切って話せばよかったのかもしれない。
いや、それを言い出せば、アイリスに出会った瞬間に「異世界から来ました。ここはどこですか?」と聞けばよかったのかもしれない。
後悔先に立たずである。
「信じてもらえないと思ったんだ。理由はわからなかったけど、見ず知らずの私にとてつもなく優しく接してくれた。助けてくれた。必死になって里長達を説得してくれた。私ならそんなこととても出来ない。でもイリスはそれを当たり前のようにやってくれた。嫌な顔一つせずに。感謝しかなかった。もしかしたらイリスは私の話を信じてくれたかもしれない。でもそれはイリスにも一緒に嘘をついてもらうことになる。イリスはすごくいい子。だから困らせたくなかった。嘘をつかせたくなかった」
私は思いの丈を語った。
アイリスやエライザに届かなくてもいい。
でも伝えておかなくてはいけないと思った。
この言葉に嘘はないから。
「ごめんね、リーナ!」
「イリス!?」
突然アイリスが私に飛びつき抱きしめられた。
何が起こったのか瞬時には判断できず驚きの声が漏れた。
「ごめん。私、リーナのこと何も考えてなかった。自分のことしか考えてなかった」
「どういうこと?」
泣きじゃくるアイリスに私は問いかけた。
「私、リーナを見つけたときお姉ちゃんが帰ってきたって思ったの。確かに肌の色とかは違ってるけど、そんなことは関係なかったの。何でそんな風に思ったのかはわからない。髪色とか瞳の色とかちょっとした仕草とか、話し方とか。どれもがお姉ちゃんに見えた。また一緒に居られると思った。離したくなかった。離れたくなかった。だから必死に里長達を説得したの。リーナの気持ちとかは…正直、考えてなかった…」
予想に過ぎなかったものが確証となった。
どうしてあれほど私に優しかったのか、親身になってくれたのか。
彼女は私に姉の姿を見ていたのだ。
「勝手に思い込んで、勝手に懐いて、勝手に失望して…。本当に身勝手だよね、私…」
頬を伝う涙を拭いながらアイリスは頑張って笑顔を作った。
しかし笑顔は今まで見た彼女の笑顔の中でもとびきり痛々しいものだった。
見ていて辛かった。
気持ちの整理はまだ付いていないだろう。
それでも笑顔を作る彼女に今の私が出来ることはこれくらいしかなかった。
「身勝手で何が悪いの。そんなこと言ったら私だって身勝手だよ。だってイリスの親切心に甘えてばかりで何もしていないんだもの。自分から本当のことを言い出せなかったのも、私の身勝手な考えからだもの。だからそんなのお互い様。私はお姉さんのように立派なエルフではないかもしれないけど、アイリスにとって大切な存在になりたいと思ってる。だから、もっと身勝手に私のこと使ってよ」
アイリスを抱きしめた。
相手の方から抱きしめられることはあったが、自分から誰かを抱きしめるのは初めてだった。
「ごめん。ごめんね…ううう」
アイリスは私の胸の中で再び涙を流した。
「私の方こそ黙っててごめん。それと、ありがとう。これからもずっとよろしくね」
アイリスはうんうんと何度も頷き泣きじゃくった。




