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語り継がれる詩《ウタ》  作者: アルエルア=アルファール
第一章 紡がれる詩
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東の果てへ


「あそこの岩は36年前に山頂から転がり落ちてきたもので~――。

ミカケ苔が繁茂したあとそれを食べにくるラグアが14匹で~――。

元はサンザの牧場から逃げ出した個体が数を増やしたもので~――」



「分かった。お前、オレを狂わせたいんだろ?」



アーヴァンを出立してまだ半日。

エルフの止まらないお喋りに早くも疲れてきた。



「狂っちゃいそうですか?安心して下さい。

心身ともに快気する《パナミーア》を唱えて直ぐに正気に戻してあげますよ~」



楽しそうなのが鼻につく。


だがそれも生活限域の内側で、比較的脅威の少ない今だけのものだ。


一度外に出ればどうなるか。


……それを知っているから、だったりするのか?



「お~っと、もうヌフロゥドの支流まで来ましたか。

この川沿いに南下していけば城塞都市フラーに辿り着きます。

今日はそこまで行きましょう~!」



「東の果てが目的地なんだろう?何故わざわぜ南下するんだ?」



「……オルネアさん。

もしかして、東に向かって真っ直ぐ行けば目的地が出てくるとでもぉ?」



これ見よがしな憐憫の目。

ぶった切ってやろうかな。



「地理のことなら!……それ以外でもですけど。

私に全部お任せ下さい!

安全な道順を辿って見事導いてみせますよ~!」



リトヴァーク王からの依頼。――ヒト側戦力の補強、補給。


未開を進めば進むほど、生活限域を押し上げれば押し上げるほど強力になっていく魔物、魔獣。

徐々に拮抗していく戦力は、いつあちら側に傾いてもおかしくはなかった。


その差を埋めるための力。

力を繋ぎ止めるための依代。


その依代探索こそが彼の王からの依頼であった。



「既に目星がついているのか?」



「依代と聞いていくつか候補は浮かびましたけど、

東の果てという言葉を聞いてひとつに絞り込めました。


王が行おうとしているのは並の召喚魔法ではありません。

恐らくはその儀式を完遂させるため方々に協力者を募っていることでしょう。


莫大な魔力、綴られる詠唱、注がれる魔法陣……。

その為に高位の魔女を用立てるはず……。


そんな大規模儀式に応えられる品は、東の果てに於いてひとつしかありません」



「勿体付けるな」

「その品とは!」



「……すまん、被った。続けてくれ」



「ゴホン!……それは、刀です!」



――刀。


反りがある片刃の剣。

特徴的なのはその鋭さだ。



「流石は剣士、既に知ってたみたいですね」



「そりゃ一通りはな。……扱いの難しさもあって、物として知っているだけだが……」



「一応は手に持って振ってみたんですか?」



「ああ。……粉々になってしまって弁償したんだ。……高かった」



「あ、あららぁ……。

と、とにかく!

私達が向かうべき場所は東の果て、別名、極東の灰島。

そこにある刀こそが依代として耐えうる逸品な訳です」



「そうか。…………持った瞬間崩れるとかはないよな?」



「ないですよ~!…………多分」



正しい事しか呟かないエルフの口から出た()()という言葉。


旅の前途を憂い重くなる足、それでも歩みは止まらず。

川を南下することさらに半日。


――城塞都市フラー。

前線都市としての役割を終えた街は、堅牢な防壁を築き、

輸送、貯蓄、補給線としての役割を担う城塞都市へとその姿を変える。


中央都市に近いこともあり、フラーの防御には魔法が惜しみなく施されていた。

しかし、その防御力を称える門構えとは裏腹に、

常駐している騎士や兵士、冒険者などは穏やかに過ごしているようだった。



「外門近くの宿で構いませんか?」



「お前の宿を展開するんじゃないのか?」



「あれはとっておきです!」



「疲れるから嫌なだけだろ」



「えっへへー!」



宿のベッドで張った気を緩め眠りに就こうとした時、お喋りが始まった。

無視して眠らなかったのはその語り口が興味深いものだったからだ。



「刀の起源って知ってます?」



「知るわけ無いだろう……。どうせお前は知ってるんだろうがな」



「えっへへ……、実は私も知らないんです。

一説によるとある日突然、空から降ってきたと……」



「……何?」



「降ってきた刀を元に複製品や再現をしようとして至らず、

その結果としてこの世界にある刀は殆どが粗悪品なんです。


降り注いだ刀。

言い換えれば始源の刀とも言うべき代物は、

ヒトやその他の勢力が秘匿しその存在を追うことは私でも困難を極めました。


そんな中で、極東の灰島に始源の刀が降ったという話を辺境村のヒトから聞いたのです」



半ば独白の様な……。

バツの悪さを真摯に表しているような。


その理由を察するに、

『…………多分』、と似つかわしくない言葉を発していた事を思い出す。



()()()()()()()()()、か……。


要するに、だ。

お前は自分の知的好奇心を満たすために極東の灰島を選んだんだな?」



「……はい」



「ってことは……、実際その刀が在るかどうかも分からない、と?」



「……はいぃ」



バツの悪さで静かになるのは大変に良いことだ。


だが……。



「別に構わんさ」



「え……?」



「在っても無くても既に目的地は決定済みだ。

()島、なんだろ?


灰ってことはつまり――」



「炎の、ドラゴンの痕跡……?」



「そういうことだ。

依代である始源の刀があれば少しだけ得、それだけのことだろう?」



「……はい!」



気まずさの沈黙に耐えるより、

止まらないお喋りに耐える方が幾分かマシだった。


妙な言い訳を不思議に思いながら、夜のお喋りはもう少しだけ続くのだった。


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