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語り継がれる詩《ウタ》  作者: アルエルア=アルファール
第一章 紡がれる詩
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炎の詩


赤黒い瞳を爛々と燃え上がらせ、赤熱していく鱗が陽炎に揺れる。


極東を包んだ破壊の炎は、勢いを落とすこと無く空を焼いていく。

明星を焼き尽くし、遙か遠方にまで真紅を滲ませるドラゴンの炎。


尽きることの無いその炎は、空へと向いたままだった。


苦しみの元を取り除こうと、構えた爪を自身へと突き立て――。

苦痛に満ちた咆哮を上げて炎が途切れる。


その様子を見てオルネアは構えを解いた。

満身創痍の身で、炎はとうに尽き果て、帯びる武器は一振りの剣のみ。


苦痛に藻掻くドラゴンは眼前に佇む脅威を再認識する。



剣――、それを持つヒト――。



魂に焼き付いた黒色(こくしょく)が眼前の脅威を許さなかった。


防御を無くした剣士に対して、巨躯の体重全てを乗せた五爪を振り下ろす。

底が見えぬ程に切り裂かれる大地――。


炎の力無くしては、防御はおろか身躱すことすら不可能な絶対なる死だった。

だが、オルネアの目には死など見えてはおらず。


深く深く息を吐き、吸い込むと同時に剣を構え……。



握り込む剣に、心を重ねる――。



刹那――、完全な無音の後、続けざまに響く五つの衝撃音。

切り裂かれゆく大地は空間が揺らめくと同時に止まり、地響きだけを残す。


咆哮――、赤熱する喉からは炎が熾るが……。

それは単なる炎の息吹では無かった。


魔を崩す炎の力、それに因って紡がれるドラゴンの理であった。


魔力が結ぶように炎が理を結び――。

亡くした片翼の代わりを果たすかのように炎の翼が生え――。

亡くした尾には炎の槍を、両腕の爪には炎を纏わせ――。


崩れゆく身体を燃やしながら、オルネアへと襲いかかる。


巨躯が生む極大質量攻撃――。

空中で放った時の数倍の重さを宿した攻撃だったが……。

そんな攻撃を受けてもオルネアの立つ大地は沈まず。

炎が生み出す熱さえも最早効き及ぶことが無かった。


打ち合う度に音が断たれ、その後に鈍色が響くのみ。


翼から生み出される逃げ場のない熱波を切り裂き、

大地ごと抉りながら迫る尾を弾き、

爪から放たれる炎纏う斬撃を叩き伏せ、


オルネアはドラゴンへと歩み寄る。


如何に炎を駆使し理を結ぼうとも、その歩みを止めることは出来ない。


――死の定め。

――滅びの運命。



魂に焼き付いた黒色が唸りを上げる。



赤熱した全身が更に熱を帯び、叫び声に炎を乗せ、一斉に放たれる。

直近の海さえ燃やし、蒸発させる熱量――。


真紅の炎の直撃を受けた剣士は、無音を響かせ炎を伏す。



『――――』



止まらぬ歩みに、死が出迎えたのだと。

いつの日か垣間見た郷愁が、(つるぎ)を携えて出迎えたのだと。



黒色の奥で真紅が瞬く――。



狂乱の淵で相見(あいまみ)えた安らかなる終焉に。

大いなる者は命の源を曝け出した。


心臓――、世界そのものを巻き込んで音を鳴らす暁の雫。



「もう、いいんだな……?」



『――――』



気高き魂の応えに。

全力と全霊で以て踏み込み、――刃を突き刺す。



解ける狂乱、抜けゆく力、世界へと融けゆく炎――。



全身が迸る炎と化した大いなる者は、

叫ぶでも無く、咆哮を上げるでも無く、静かな響きを漂わせる。


猛る炎である筈だった。

触れれば炭化し、舞い上がる灰となって世界を燃やし尽くす筈だった。


そう在る筈の炎は音色の様な響きを放ち。


その様はまるで、歌を唄っているかの様で……。



迸る炎が、その熱さえも消え失せた頃、仰向けに倒れ込むオルネア。

真紅に染まった空は、夕日の茜に色を落とし……。


龍狩りの剣士には、世界が少しだけ色褪せて見えていた。


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