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想いの声  作者: 友川創希
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第66話   君を守りたいから【僕side】

 僕は君の元へ駆ける。救急車の音が近くまで聞こえてきているような気がする。でも、まだまだ足りない。何人も怪我してるこの状況で、救急車が1台、2台到着しようが状況は大きくは変わらない。助けを待つのでは遅いかもしれない。だからこの手で。待ってる人の元に。


「三織!」


 僕は叫んだ。三織がいる方に。たぶんこの声は三織にも届いているはず。きっと君は僕を待ってくれていたはず。僕だって待ってるから、三織――君のことを。


「世……」


「三織……」


 三織の元までたどり着いた。でも、三織の状況はさっきよりも悪化している。三織は持っている力を使って手を伸ばしていた。僕はその手を掴もうとする。必死に伸ばす。でも、ここからじゃ届かない――あと1センチ、届かない。君の心には届いてるはずなのに、君の手は届かない。もう少し三織に近づかないと。


「いてっ……!」


 三織に近づこうとしたとき、なにかにつまずき近くに落ちていたガラスの破片に腕が当たってしまった。血が垂れてくる。だめだ、痛い。痛い……。思わずその部分を押さえる。


「世……」


 でも、痛いけど、三織はもっと痛くて苦しいはず。さっき僕に選択肢のないお願いをしたけど、でも、本当は自分の未来を閉じたくなかったはず。だから、その未来は……! 


 僕は立ち上がり三織に近づく。そしてさっき衣海ちゃんを助けたときのように、三織を助けられるような空間を作っていく。でも、力がさっきよりも入らない。なんで……。なんで……。悔しい。


「世、もう、いいよ。世までだめになったら」


「弱気になるなよ!」


 まるでもう自分はいなくてもいいかのような言葉に僕は三織を叱るような少し強い口調でそう言う。そう自分はいらないって言って僕は頼希に怒られたんだから。弱気になると色んなことを考えたくなるかもしれない。でも、三織……。それは違うんだ。


「さっきあの子を助けてよとは君は言った、でも、君を助けちゃダメなんて一言も言われてない!」


「せ、い……」


 君はさっき言った、『私のこと、本当に好きなら、あの子を助けてよ!』と。そして僕は衣海ちゃんを助けた。でも、君を助けちゃダメなんて君は一言も言ってない。だから君を助けるかは僕の自由なんだよ。だったら助けさせてよ。僕に選択肢を与えてよ。ずるじゃん。好きな君を。僕の想いの恋はこういう恋なんだよ。


 僕はさっき、三織に先に帰ってほしいって言って先に帰らせた。それはなんでか――昨日三織からもらった手紙を読んでいたから。読みたくなってしまった、どんなことが綴られているのか。この数ヶ月で失われたものはいくつもある。でも、失ってないもの得たものもある。そんな君が書いてくれた数十分前に読んだ手紙の内容が頭の中で再生される。


『世、16歳のお誕生日おめでとう。私よりも先に大きくなっちゃったけど、私も追いかけるから待っててね』


 僕は必死にただ三織を救いたいという想いだけを頼りに体を動かしていく。もうこの体は想いだけでできている。


『今日まで世と過ごせたことは、たぶん私がこの先どんなに大人になろうともきっと必要なものだったって感じてしまうんだと思う。それくらい大切な日々を、自分にはなくてはならない日々を君は創ってくれた』


 必要なのは、こっちのセリフだよ。それに、なんだよ『君は創ってくれた』って創ったんじゃない、2人で創ってしまったんだよ。


『世は最初の方は全然料理はできなかったし、他の身の回りのことも私がだいたいやった。でも、最近の君はあのときの君がわからないくらい成長している。もう1人でやっていけるのかもしれない。でも、私はまだまだ君が思ってるより強くない。だからもう少しでもいいから君といたい』


 僕も君といたい。三織といたい。三織いない未来は考えられない。三織といない未来は自分にとっての未来ではない。だから……!


『今日まで本当にありがとう。君は私を強くしてくれたよ。君はまるで流れ星みたいだった。でも、まだまだ2人で成長していこうね』


 三織……。……。


『そして、これからもよろしく、世』

 

 うん、そうだ。「これからもよろしく」が言えないとだめなんだ。それが今、自分が一番求めているものなんだ。想いなんだ。


「三織!」


 自分のどこかにしまわれていた、封印されていた力が今、三織とともに生きる未来のために、その力を出すことができた。


「世……」


 さっき届かなかった手が、今届いた。しっかりともう離すことができないくらい三織の手を掴む。三織……君は僕の……。


「三織、もし君がいなくなったら自分が自分じゃなくなっちゃうよ。君といないとだめなんだ!」


 僕はゆっくりと三織を、できた空間から引っ張り出していく。もう、君は……。三織がいなくなったら僕にも被害が及ぶんだから。ずるいじゃん。それに、あの時――僕は小さな君を助けたんだよ。今助けられなかったら、それが無駄になっちゃうじゃん。なおさらずるいよ、三織。


「ずるいよ、自分のことだけ考えるなんて。僕は三織を離さないから」


「私も、世を離さない!」


 三織は僕と握っていた手を三織が今持っている力を全ての力を使ってもっと強く握ってきた。


 もう、何も恐れる必要はない、恐れることはない。君がこんなにも近くにいるのだから。離すことはできないんだから。


「それにこれからも僕の想い、受け取ってよ。この世界で、受け取ってよ」


 好きという想いは伝えられた。でも、まだこれからも伝えたい想いがたくさん出てくると思う。だからそれをこれから少しずつ三織に伝えていきたい。この世界で。


 その時、三織のポケットから何か紙が出てきた。何か書かれてる。人が二人、仲良く、未来に向かって歩いているよな描写。お互いを思っているような姿。


 ――三織だって。


「三織だって、この絵」


 そういったときにはもうその絵は風でどこかに飛ばされていた。でも、さっき僕ははっきりと見た。この目で。


「これが、私の想いの声……。見てわかる?」


「うん」


 やっぱ君だってその想いは強いんじゃないか。これが君の想いの声か。絵で好きという気持ちを伝えているのか。三織らしいな。絵が声だからな、三織は。はっきりとこの絵の意味がわかったよ。僕は三織の想いを今、受け取った。じゃあ、僕がお返しに。


「でも、いいの? 本当に世は私でもいいの?」


「どんな怪我してようが、どんな服着てようが、どんなことしてようが三織は僕の大切な三織だ。それに、君の心は会ったときから何も変わらない。その心が好きだから……」


「じゃあ、私、生きる道しかないじゃん。勝手に道、創らないでよ。ずるいよ……」


 僕の言葉を聞いて三織は泣いていた。さっき君に衣海ちゃんを助ける道を創らされた。だから僕は君に生きる道を創ってあげた。お互いにずるいんだよ。でも、想いの恋をしているならずるくはないんだと僕は思う。


 僕が三織をこの世界から離すことは一生ないんだろう。


 明日も君とこの世界を創るために。


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