第65話 助けたいその命【僕side】
衣海ちゃん待ってて。僕は三織の言葉に押されて衣海ちゃんのもとに行く。さっきできた傷が少し痛む。でも、僕は2人に比べればその傷は全然痛いものではない。
何かわからないものがたくさん落ちている。電車の先頭部分は元々の部分がわからないくらい損傷していた。まだ警察とかの姿も見えない。ただ、周りには乗っていた人たちが倒れ込んだりしている。赤いものを流している人が何人もいる。
衣海ちゃんはあそこにいた。誰かの声が衣海ちゃんを呼んでいるような気がする。衣海ちゃんの家族だろうか。
僕の足を更に早くさせる。でも、三織も僕に選択肢を与えてくれなかったのはずるいよな。いや、ひどいよ。だって選択肢が1つしかないようなものだから。三織を助けたら、そうではなかったというのと同然だから。想いなんて伝えられないから。
「今、助けるの手伝います」
僕はそこまで行くと、衣海ちゃんを助ける手伝いをした。衣海ちゃんのお母さんらしく人は怪我はしていたものの、自由に動けるようで、衣海ちゃんを必死に助けようとしていた。今、僕が助けなければ。もし、助けられなかったら、三織のことが好きというのは嘘になってしまうから。
僕は今は衣海ちゃんを助けることだけを考えて必死に体を動かしていく。待ってて、衣海ちゃん。
「うっ、うっ……」
「もう少しだから。君の人生は守るから。三織も君のこと守ってくれるから」
衣海ちゃんの苦しそうな声が聞こえる。大丈夫。きっと。まだまだ衣海ちゃんの道は続かせる。楽しい人生を歩む義務を与える。
どんな方法が一番早く助け出せるのかはわからない。でも、今、自分が動くようにやるしかない。だんだんと挟まっている衣海ちゃんにも出られるような空間ができた。これなら!
「待ってて!」
僕は様々な想いを込めて「待ってて!」という言葉を自分の声で出した。僕はできた空間から挟まっていた衣海ちゃんを引っ張り出した。今までで一番の力が必要だった。いつもなら出ない力を出して衣海ちゃんを無事に救出した。この力はたぶん君の――三織のせいだろう。
「はぁ、う、お、お兄ちゃん、ありがとう」
衣海ちゃんは弱々しい力で僕を抱きしめてきた。衣海ちゃんの手からは赤いものが出ていた。きっと僕にはわからないくらいものすごく痛いんだろう。でも、そんなのを気にする様子もなく、僕に抱きついてくる。離したくないという風に。
「あのさ、衣海ちゃん、まだやらなきゃいけないことがあるから僕は行くね」
「うん、わかった」
衣海ちゃんは僕がやらなければいけないことは本当に大切なものだって感じたのかはわからないけれど、僕を抱きしめていた手をゆっくりと離してくれた。まだ、終わってない。まだ、君の人生も終わらせない。もし、君の人生の道が今崩れかけているのなら。僕が創ってあげればいいんだ。
――これで君のことを好きということが証明できたとしても、僕にはまだそれ以上の好きがあるから。




