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想いの声  作者: 友川創希
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第56話   父の存在【僕side】

 まだ涙が止まらない。三織が起きていたら、こんな顔を見られてしまうのに。でも、今歩いているこの道は誰もいないので静かだった。


『――本当に好きなら自分の想い、その声で伝えてこい! 言わないなら――いや、言えないのなら、お前はあいつのこと本当に好きなんじゃない!』


 この言葉がさっきから耳の中で何度も聞いたことある音楽のように反復する。こんな言葉がこの世の中にはあったんだ。頼希が僕だけに宛ててくれた、世界で1つの手紙なんだろう。頼希はただの人間じゃないな……。


 僕は三織が好きなんだろう。でも、まだ本当の恋というのは証明できてない。それを証明するかはもちろん僕の自由だ。だけど、頼希の言葉を無駄にしたくない。頼希の想いを。僕のために頼希はああしてくれたのだから!


「明日、その想いを証明してみせるからな」


 僕は、僕の上に広がる空を見てそう決心するようにつぶやく。


 たぶんそこには未来が待っているんだろう。


 


 家の鍵を開ける。


 静かに。


 でも、リビングに行くと――三織がいた。


「あれ、どこか行ってたの?」


「うん、ちょっと……」


 自分の心の中を変えてくれるような神様とも違う、そんな人のもとに行っていた。そのことは言わなくてもいいかな。


「三織は?」


「なんかいつの間にか寝ちゃったみたいだけど、眼が覚めちゃって」


 三織はいつものように漫画日記を書いていた。今日の誕生日パーティーのことを描いているんだろうか、それともあの過去のことを……。でも、どちらにしろ今日という日は永遠に刻み込まれるんだろう。色々な意味で。というか今日、僕の誕生日パーティーやってたな。さっきのことがあったり、三織との過去が見つかったりしてそのパーティーの出来事はもっと過去のことだと思ってしまってたみたいだ。


「うっ……」


「どうしたの? 大丈夫?」


 急に僕は頭を叩かれたような感じがした。それから頭が急に痛くなり思わずうずくまってしまう。でも、痛いとも別な感覚がする。そんな僕をみて三織が心配そうにして、僕の元へ駆け寄ってきてくれた。


 ――お父さんは……もうすぐ……君のもとへ。君が見つけてくれるなら……。


 お父さん? 


 僕の頭の中にはお父さんが出てきた。あの時から何歳も老けた顔のお父さんが。


 それから僕の山の中の絵……? 山の中に家が、小さな茶色の屋根の家がある。そこにお父さんみたいな人がうずくまっている。


 お父さん……?


 それからなぜかスマホのニュース画面みたいな絵が頭の中に出てくる。なんのニュースかはぼやけていてわからない。でもニュースタイトルのすぐ下にある写真にはさっきの出てきた森と少し似ているような気がした。いや、違う……?


 ……そうなんだ、世。


「はっ……」


 一気に現実に返されたそんな感じがした。さっきの痛みも嘘かのように消えてしまった。なんだったんだ? あれは?


「大丈夫?」


 三織のまるでハープみたいに優しい声。その言葉が僕を包み込む。


「あっ、うん」


 僕は大丈夫だ。でも……。


「ごめん」


 僕はテーブルにあった自分のスマホを取り、ロックを解除して、ホーム画面を右にスライドする。僕のスマホはホーム画面を右にスライドするとニュースが出てくる仕組みになっている。


 これじゃない、これでもない。さっきのはやっぱ幻? 僕の見た景色はただの……?


「あっ……」


 さっき僕の森の中で見たニュースと同じようなものがあった。


『神奈川の山中で女性を監禁した疑いで男3人逮捕』


 そのニュースをクリックしてみる。


「どうしたの?」


 三織が僕のスマホを心配しながら覗いてくる。確かに僕はさっきから変な行動しかしてない。


「もしかしたら、父さんが! わかるかも……」


「えっ……? 父さん?」


「うん」


 詳しいことは後で三織に説明しよう。とにかく今はこの真実を探したい。


 このニュースを速読していく。内容を要約するとこうだ、容疑者に監禁されていた30代女性が、容疑者のスキを狙い警察に通報し、事件が発覚。女性はいたる部分に傷があり重症。それにこの女性は3年間もの間監禁されていたそうだ。容疑者の1人は調べに対して『辛い人生を与えたかった。男でも女でも誰でもそんなのは関係なくつらい思いをさせたかった。自分より幸せに暮らしている人が俺らの心を痛める存在だった』と言っているらしい。


 もしかしたら、そこに父が……? 自分のさっきの景色と合わせるとおかしくはない。それに容疑者は『男でも女でも』と言っていることろからありえない話ではない。もちろん証拠なんてないけど、もしかしたら……。


 僕はこのことを「自分の想像にしかすぎないけれど」という言葉を冒頭において三織にも話した。


「それなら、明日行こう!」


「でも、あくまでも僕の想像というか……」


 三織は明日行くことを提案してくれたけれども、これはあくまでも僕の頭の中に出てきた絵から想像したことに過ぎないし……。


「でも、お父さんがメッセージをくれたんでしょ。それを少し信じてみようよ。もしかしたら、その真実をつかめるかもしれないでしょ。世のお父さんなんでしょ。探してみようよ」


 たしかにこれはお父さんが与えてくれたメッセージなんだろう。何年も会ってないけど、繋がっている……。三織がここまで言ってくれている。僕がその真実を逃しちゃだめだ。


「うん、じゃあ。探しに」


 お父さん、まだ生きてるのかな。明日会えるのかな……?


 待ってて僕の大切な人とお父さんを探しに行くから。


 





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