第41話 隆先輩【私side】
世の誕生日パーティーの準備は月ちゃん、蒼佳ちゃん、頼希の3人を中心に進めてくれている(もちろん私も進めている)。明日はついに世の誕生日だ。世は明日、16歳になる。私より1歳年上になるんだな。嬉しいけど、先に越されて少し悔しいかな。なんてね。おめでとうをたくさん伝えたい。人へ想いを伝える方法はいくつもある。でも、一番は声なんじゃないかと私は思う。でも、私の想う声は決して口から出すものだけではない。
私が外を見ると少し雨が、音楽を奏でるように降っていた。そういえば世は今日バイト先に傘持って行ってなかったな。持っていってあげないと世が困るかも。そう思い、私は傘を世に届けるために、外に出た。今から行くとバイトの終了時間に間に合うか少し不安。だから私は少し早歩きで歩く。
いつもバイトを頑張ってくれている世。ありがとう。
そういえば私が頼まれたストラップのデザインも決まったから、ついでに店長さんに見せに行くのもいいかもしれない。その紙は家だけど、スマホにも写真で記録してあるのでそれを見せよう。
それにしてもこうやって歩くと、なんかいつもの景色より少しだけ特別に見える。なんか、この景色がなにかを私たちに知らせているかのよう。
世のバイト先に着いた頃にはお店はお店には『close』と書かれた小さな看板がドアの部分にかけられていた。もう帰ったのかな? でも、世とすれ違わなかったからまだいる可能性は大きいと思う(違う道から帰ってる可能性もあると思うけど)。
「あ、ごめんなさいもう閉店で――えっ、三織?」
チリンと優しい音が鳴ったあと世が厨房の方からでてきた。
「あ、雨降ってきてるから傘」
そう言って世に傘を見せると、世がニコッと笑う。ありがとうという意味だろう。
「あ、帰るのは少し待ってて、隆先輩が僕に用があるみたいだから」
「わかった。店長さんいる?」
「呼んでくるね」
世はすぐに店長さんを呼んできてくれた。私は店長さんにストラップのデザインの案を見せる。いや、っていうか緊張するじゃん、この展開!
「おー、いいじゃないの」
店長さんの目が懐中電灯をオンにしたときみたいにピカンと光る。気に入ってくれたみたいでなによりだ。
私がデザインしたのは(少し漫画風の)モンシロチョウ。なんでかと言われるとんーって感じになってしまうけど、幸せを運んでくれそうだと思ったからだ。
「隆くん、少し来てみな。ストラップの案だって」
店長さんが次は隆先輩を呼びに行く。さっきからなんか似たような感じの動作。人が人を繋いでる感じ。
「えっとー、三織ちゃんだっけ?」
「はい」
初めて生で隆先輩のことを見たけどすごく優しそう。確かにこれは世が憧れてもおかしくはない。世にとっては王様みたいな感じに見えてるんだろうな。
「お、いいじゃん。すごく素敵。僕のよりいいかも」
「ありがとうございます。でも、隆先輩の考えたほうが素敵だと思いますよ」
「ありがとう。じゃあ、まだ仕事が残ってるので僕は失礼します」
隆先輩はあっという間に消えていった。すごい、あの人。なんか、よくわからないけど。社交辞令だとしてもそのアイデアを褒めてくれたのは漫画家志望の私としては活力になる。
その後、店長さんとラインを交換してその写真を送らせてもらった。そうしてから隆先輩が何か箱を持って戻ってくる。
「世くん、1日早いけどお誕生日おめでとう。僕らからの感謝の贈り物」
――その箱には、贈り物が。
世のために少し悪いなと感じてしまう。でも、優しいな隆先輩たち。私たちは明日あげるんだ。
「開けてもいいですか?」
「うん」
隆先輩から世は箱を受け取り、その箱を一旦机において箱を開け始める。ラッピングがされていたけれども、それを丁寧に剥がしていく。
「あっ! えっ、すみません。なんか……。高そうな靴なんていただいて」
中には高そうな靴が入っていたみたいだ。世がそれを持ち上げたとき少し見えたけど、確かに高そうだしオシャレだ。多分5000円はしそうな。
「世くんに前に何個もあっても困らないもの聞いたでしょ? そのとき靴って答えたじゃん。それでさり気なく『僕、サイズ26なんだけど、世くんは?』って聞いたじゃん」
「たしかそんなことがあったような……。帰りに小さな女の子とあった日だった気がする……」
世は頭からその記憶を出そうとしていた。たぶんその女の子は衣海ちゃんのことだろう。すごいな聞き方も隆先輩、一味違う。多分だけど靴って世が答えたのは住む場所が2つもあるからだろう。
「ありがとうございます」
世は箱にさっきのように靴を入れる。
「うん、じゃあまた」
「はい」
世が店を先に出たあと、私は2人に「失礼します」と言って店を出た。今更だけど多分この2人には私と世の関係を恋人とか思われてるだろうな。だって隆先輩の顔、2人で頑張ってねっていう感じだもん。恋人、か……。そんなんじゃないと思うけどな――。




