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想いの声  作者: 友川創希
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第4話   君と一緒に【僕side】

「えっ……?」


 あの言葉……。あのように見えた君。あのとき感じた特別な感じ……。あの景色。……!


「ごめん、変な提案した……。私もなんか1人じゃ寂しいと思って。でも、そんなのあれだよね。深く考えずに言っちゃっただけだから、気にしないで」


 三織さんはすぐに訂正するようにしてそう言った。


 いや、別に何も変じゃない。三織さんは僕を気遣って言ってくれたんだ。こんな僕に言ってくれた。こんな何もできない僕に! だから、嬉しかった。


「いや――」


 僕は三織さんの目をしっかりと見る。


「――よかったら、これからよろしくお願いします」


 気づけば僕はそう言っていた。そして三織さんの手を無意識に握っていた。何も考えることなく。これしかないんだという風に。僕の選択肢はこれなんだという風に。自分の体じゃないみたいに。


「――世くん、うん。どうなるのか分からないけど、これから2人で頑張っていこう!」


 三織さんは優しい声で――まるでなにか綺麗な花が咲くようにそう言った。そして僕の手を少し強く握ってきた。


「うん」


「よろしく」


 三織さんが少し微笑んだ。僕はなんだか照れくさくなってしまう。




 三織さんと別れた後、あるところに少し向かうことにした。それにしても三織さんと一緒に暮らすのか……。あのときは何も感じなかったけど、今は変な感じがする。15歳の少年と15歳の少女が一緒に住むなんて……。とは言っても三織さんとは親が退院できるまで。


 平日は三織さんの家、金・土・日曜日は僕の家で暮らすことになった。どっちかの家にずっといると郵便物もたまるだろうし、近所の人に怪しまれたり心配されるのを防ぐためだ。ただこの秘密というかそんなのが学校に広まったら色々と面倒な事になりそうだ。1週間くらいはこの話でもちきりになるんじゃないか。まあそんなことを考えたらきりがない。とりあえず明日は三織さんの家だ。


 僕は向かっていたスーパーに着いた。


 夜のスーパーは(もちろん)空いていた。飲み物やお菓子などはいつも通り並んでいるが、お惣菜系はもう少なかった。カゴを持って必要なものを入れていく。


 明日初めていくし、手土産的なものを持っていった方がいいかなと思って、お菓子を買っていくことにした。ちょうど全国のお菓子の物産展なもの(と言っても小さいけど)をやっていた。じゃがポックル、草加せんべい、鳩サブレ、かるかん……等々が並んでいる。なにがいいかなと少しの間考えていたが、結局僕は小さい頃よく食べていた山梨の信玄餅をかごに入れた。これは母が好きだったな。


「あ、世くんじゃん!」


「あっ、蒼佳さん」


 蒼佳さんには信玄餅をちょうどカゴに入れたときに声をかけられた。振り返ると蒼佳さんと他に1人女の人がいた。えっと……。


「どうも、桑本くわもと月です」


 誰だろうと思って聞こうとする前に、その人が桑本月と名乗り軽く礼をしてきたので、僕も同じように自分の名前を名乗り軽く礼をする。たしかさっき三織さんが月さんについて少し言ってたような……。えっと、隣のクラスの人……?


「世くんどうしたの? なんか明日から誰かと同居するんだ! みたいなものばっか買って」


 ギクッ!


 服の間から急に冷たい風が入ったかのようになる。それ、事実なんだけど。でも、流石さすがにそんなことは言えない。三織さんと住むことなんて……。蒼佳さん鋭いな……。


「いや、別にちょっとあって……」


 鋭い蒼佳さんにバレるわけにはいかない。


「いやー、今のは学校のとき私が読んでた漫画に引っ張られてるだけでもちろん冗談だけど……何か世くん少し元気になった? 3日前から少し元気なかったから」


 そうなのかと思い少し安心する。でも、僕が元気ないことを蒼佳さんは気づいていたようだ。やはり鋭い。


「うん、まあいいことが少しだけあって」


 別にこれは嘘ではないよな。新しい道が築けたから神様もこの嘘は許してくれるはず。

 

「よかったねー」


「あのさー世くんってなんか小さいことまで気にしちゃうタイプ?」


 月さんが突然に、でも自然にそう聞いてくる。


「どちらかといえば、そうかな……」

 

 月さんはなぜだか僕の性格を見破った。意図はわからなかったが本当のことなのでそう答える。


「だと思ったんだー。第一印象的に。まあ、隣のクラスだから気軽に声をかけて」


「うん。ありがとう」


 声をかける機会があるかはわからないけど、流れ的に僕はそう言う。もしかしたら今後関わることになるのかもしれないな。というか月さんも鋭い。


「じゃあね」


 僕はこのままじゃ2人のどっちかに秘密が見破られるんじゃないかと心臓がバクバクしていて今にも空気を入れすぎた風船のように割れてしまいそうだったが、とりあえず割れなくてよかった。流石にこれだけでは見破られないか。


「あ、世くん――」


 月さんが忘れ物をしたかのように僕に声をかける。




 月さんに言われたことが「世くんが三織ちゃんと暮らすの?」と言う内容ではなかったことはよかったがそうなんだな……と月さんに言われたことに関して思う。でも、僕にはあまり関係のないことなのだろう。


 スーパーでの買い物が終わり、家に帰ると三織さんの家に行くための準備(持っていくものの整理など)を始める。でも、明日からどうなるんだろう……。想像もつかない。ただ1つだけ言えることがあるとすれば三織さんがいることはとても頼もしい。準備の間に同じようなことを何度もスマホで検索してしまう。


 準備が一段落したとき、三織さんから何の前触れもなく電話が来た。


「もしもし……」


『あのさ、なんか変な感じだね』


 三織さんも僕と同じようだった。


「うん、確かに。でも、何でああ言ってくれたの?」


『何か恥ずかしくなるじゃん! まあもう決まったことなんだし……。とりあえず明日からよろしく』


「うん」


『一応このことは秘密って形にしておこうよ』


「僕もその方が助かる」


『で、もう1つ。お互いにさ、もう家族みたいな関係になるんだから呼び捨てにしよう』

 

 そうか、これから僕らは家族みたいな関係になるのか。関係が急にジェットコースターみたいに上がるのか。


「そうだね」


『じゃあ、世、おやすみ』


「うん、三織、おやすみ」


 僕がそう言い終わると三織が電話を切ったので通話は終了した。やべー、少し三織って言うの緊張した。少し脇汗が出ている気がする。これ僕にとってはかなりのやつだぞ。というかこれから色々ありそうだけど僕の心臓、もつかな?


 ――でも、明日から君と新しい生活が始まるんだ。


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