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想いの声  作者: 友川創希
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第38話   天架くん【月side】

「じゃあねー」


「また明日〜」


「うん」


「バイバイ!」


 服も買えたので、皆とバイバイをする。そういえば、今、何時なんだろうと思いスマホで時間を確認すると、もう夜の8時だった。


 いつも夕飯の時間は7時30分なので、私のおなかが「なにか、食べたい〜!」と悲鳴をあげている。一刻も早くチャージしてあげないと。皆はもう帰ってしまったので1人でフードコートに行って食べることにした。


 フードコートにはいくつかお店があるけれど今の私のおなかは「うどんが食べたい!」と言っているので、とりあえず席もさっきより埋まっていた感じなので、席を確保したあと、うどん屋さんに行き、ざるの並と鮭おにぎり、さつまいもの天ぷらを注文した。普段ならうどんとおにぎりのセットで十分だけど、今日は大仕事をしたからさつまいもの天ぷらを追加し、グレードアップさせた。


 確保しておいた席にそれをもっていき小さくいただきますして、まずうどんをすする。うん、これ。このつるっていく感じ。やっぱうどんにして正解だった。100点。いや、120点。


 なんかうどんをすするとこれまでの3ヶ月の高校時代の出来事が少し蘇ってくるような感じがする。


 あの二人は誰が何をしようと切れない糸で固く結ばれている。そんな硬い糸があるということを私は初めて知った。でも、2人は意図的に作ったんじゃなくて、自然とその糸ができた――いや、できてしまった。


「あっ」


「あっ」


 誰か聞いたことのある声だと思ったら、天架くんだった。あの飛地先生の募金事件の関係者だ。


「おなかすいちゃって今食べてるんだけど、天架くんも?」


 天架くんの手には美味しそうな黄色い卵が、食欲をそそるお肉を優しく包んでいる親子丼が乗ったトレーを持っていた。


「そんな感じです」


 天架くんとは同じクラスだけどあまり話したことはなかったなと、今思う。少し相手は緊張してるみたいだ。


「よかったら隣どう?」


 なんとなくの気分で私は天架くんを誘ってみた。彼も1人でいるみたいだから。私がさそうと天架くんは、じゃあといって私と対面になるよう座った(私がいたのは4人がけの席だった)。美味しい親子丼の匂いが更に漂ってくる。食欲が余計にわいてくる。


「今日はお買い物?」


「えっとねー、私たちの隣のクラスに小浜世っていう子がいるんだけど、その人のお誕生日プレゼントを買いに。で、終わったから今充電中。天架くん、世のこと知ってる?」


「ごめん、多分わからないや」


 天架くんが世のこと知らないとは思ってたけど、やはりそうだった。クラスが違うから知らないか。


「どんな人?」


 どんな人かを言葉で説明するのは違うかなと思い、前に5人で撮った写真を見せることにした。これはたしか学校の校門の前で撮ったな。


「この中央の少年」


 真ん中にいるのが世。私は世をさしてそう言う。


「……」


「世はね、どんな人かって言うと、すごく頑張り屋さんなんだよね。うちのクラスに居る三織ちゃんみたいに。だから無理しちゃうんだよね、いろいろと」


 私は世に対し思ってることを天架くんに言う。素直な気持ちだ。頑張り過ぎちゃう――。届かないものも、近づこうと、する。


「ん、この人もしかしたら知ってるかも」


「そうなの?」


 天架くんは名前はしらないけど、似たような人と最近少しわけあって少し話したらしい。実はどこかであってたパターン。お話を作るなら結構いい感じになりそう。


「前にカフェに行ったとき、同じくらいでこんな感じの人――それが世くん、かな? なんか大人っぽかったかな。で、そのとき『お父さんの誕生日が近いんですが何かやってあげたいのですがなんかいい案、ありませんか』って聞いちゃったんだよ。それで世くんが案だしてくれたんだよ」


「そうなんだー、どんな案?」


 世はカフェで働いてるし、天架くんの今、話してる人が世なんだろう。


「想いを込めた料理――『例えばオムレツを作ってメッセージとかをケチャップで表すのはどうですか?』って出してくれたんだ」


「へぇー」


「作り方とかも教えてくれて……世くん料理が得意なんだね」


 たぶんその案を出したのも、作り方を教えてあげられたのも三織ちゃんとともに成長したからだと思う。優しいな、世……。君はわかったのか。私より、わかってるのか。


「なんか、世くん、神様みたいだったな」


 天架くんが独り言のように――でも、私の方を向いて柔らかな口調でそう言った。神様か……。三織ちゃんを支える神様でもあるのかもしれない。


「世くんにありがとうって伝えておいてくれる? あと、お誕生日おめでとうも」


「うん、もちろん」


 伝えるに決まってるじゃん、人の想いの声。天架くんから想いの声、いただいた。この想いも伝えないとな。


「あのさ、ちなみになんだけどこの端にいる蒼佳ちゃんって知ってる?」


 知ってるのかな? と思い蒼佳ちゃんのことについて聞いてみた。


「あ、知ってるよ。まあ、まだそこまでだけど」


「そうなんだ」


「まあ」


 多分部活とかそんな感じで知ってるんだろう。人のつながりは複雑だ。食物連鎖みたいに。


「あ、そういえば最近のボードも色々書かれてるよね」


 なんか話す内容ないかなと思い、クラスにあるおもいを伝えるボードについてなら盛り上がるかなと思い、その話をしてみることにした。このボードは学年の中でも有名になっている。


「あ、僕今日撮ったよ」

 

 そう言って天架くんはスマホからアルバムを開き、ボードを撮った写真を拡大して私の方に向けて見せてきた。


『マックのベーコンレタスバーガーセットとアップルパイの組み合わせはお腹の中の細胞が踊っちゃうくらいうまい!』


『雨が降っても心の中は晴れにできる! 雨の日も皆で心晴れにしよう!』


『天架氏初めてのオムレツを作った記念! おめでとう!』


 こんな感じで今も様々な話題が書かれている。今回も心に安らぎを与えてくれるような楽しい内容ばかりだ。言葉で人を楽しませる、か。


「天架くんも乗ってるじゃん!」


「友達に言ったらいつのまにか広まって……。なんかクラッカーでおめでとうって言ってくれた人もいて」


 天架くんは嬉しそうな口調で言う。小さいことも大きくしてしまうこのボードはすごいな。


「うちのクラスも今度導入されるみたい」


 私のクラスでもこのボードを望む声が多く、今度導入される予定だ。クラスによって違う内容が書かれるから、そういうところを見るのも楽しいかもしれない。


「これとか結構長い間あるよね」


 私は一番上に目立つように書かれているものを指した。そこには、『飛地先生、お小遣いの減額なしに! おめでとう!』と書かれていた。もう2ヶ月くらい前のことだけどまだ残っているみたいだ。


 先生は頼希からもらった食事券で奥さんと豪華な料理が並ぶレストランに行き、お互いにお互いのことを思ったことで減額はなしということになり、減額されていた分ももらえたようだ。


「あれ、こんなのあったけ?」


 私は下の方に書かれているものを指した。他のとは文字のフォントが少し違う。今日の朝見たときにはなかったはず。そこには、


「『みんなはこれからの人生、何を大切にしたい?』」


 私が読み上げる前に、天架くんが読みあげてくれた。


「簡単そうで、難しい質問だね」


 一見簡単に思えるかもしれない、でも「なに?」って言われると少し詰まってしまうかもしれない。何を大切にしたいか。


「天架くんはなんか答えある?」


 私は思いつかなかったので、天架くんならいい答えがもう見つかってるかもと思い、聞いてみる。


「人を想うこと、かな」

 

 思いついてないって言われるかもと思ったけど、天架くんははっきりと噛みしめるようにしてそう答えた。そうか、人を想うことか。


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