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想いの声  作者: 友川創希
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第37話   世へのプレゼント【月side】

「悪いね、桑本さん」


「いえいえ」


 今私は、彦坂先生のお手伝い――といっても授業で使うためにコピーしたプリントを運んでるだけのお手伝いをしている。


「用事とか大丈夫だった?」


 私と同じくらいのプリントを抱えている彦坂先生がそう聞く。


「なくはないですけど、まだそれまで時間があるので大丈夫です」


 このあと三織ちゃんと蒼佳ちゃん、頼希と約束はあるのだけれど、その時間はもう少し先なのでまだ大丈夫だ。それに彦坂先生はすごく生徒思いの優しい先生だから自然と手伝いたくなってしまう。


「前から思ってたけど、桑本さんの名前――月っていう名前、輝いてるみたいで素敵だね」


 先生が私の名前――月という名前を素敵と言ってくれた。私も自分の月という名前が気に入っている。たしか月のように周りを照らせるようにっていう由来があった気がする。


「先生の夏珠七かずなっていう名前も素敵だと思いますよ」


「ありがとう」


 彦坂先生の下の名前は夏珠七という名前だ。結構珍しい名前なんじゃないだろうか。先生の名前から動物がいる木々が生える森を想像してしまう。


「あ、ここまででいいよ。ありがとうね」


「いえいえ」


 私は職員室の前まで来ると、持っていたプリントを先生に渡した。


「気をつけて帰ってね」


「はい」


 学校の先生なら誰でも1度は言ったことがあるであろう言葉を私にかけたあと、先生は職員室に入っていった。私は昇降口の方へ行く。一度振り向くと先生が誰かはわからないけど男の先生と何かを話しながら昇降口がある方とは逆の方に歩いていった。


 それより今日の用事というのは3人でもうすぐ誕生日の世のプレゼントを買いに行くこと。世の誕生日は休みの日なので、盛大に祝ってあげるつもりだ。

 

 私は待ち合わせ場所の商業施設であるららぽーとにバスで向かう。ららぽーとに着くともうすでに着いていた頼希と合流した。


「おまたせ」


「あー、おつかれー」


「2人は掃除があるから少し遅れるらしい」


「そうか」


 さっき2人から掃除があるという趣旨のラインが来た。きっと私の乗った次のバスで来るだろう。たしか私の乗った次のバスは数分後くらいにあった気がするから、もうすぐ2人も来るだろう。


「そういえばさー、三織は世のこと、どう思ってると思う?」


 頼希が急にそういう質問をしてくる。急すぎて頭がついていけない。三織ちゃんが世のことをどう思っているか、か……。


「うん、難しいね――」


 これは難しいこと。三織ちゃんのことは結構知ってきたつもりだけど、まだまだ三織ちゃんの心の中は読めない。それにどう思ってるかなんて知恵の輪を解くよりも難しい。


「――でも、世は優しいし、きっと支えてくれてる人って思ってるんじゃないかな」


 そして世も三織ちゃんに支えられている。そして優しい。三織ちゃんも世も特別。私たちが思ってる以上にお互いに支え合っているんだろう。


「そうかもな」


「そして世をこの手でずっとずっと握っていたいと思ってるんじゃないかな」


 世のことを離したくない――それはたしかなこと。本人から聞いたわけではないけど、これだけは自信を持って、そして胸を張って言える。


 三織ちゃんが世を、世が三織ちゃんを好きなのかは私にはわからない。でも、お互い好きではなくたとしてもそれに近い感情はもってしまうんだろうな。私はそんな2人が好きだ。


「頼希は三織ちゃんが世のこと、どう思ってると思う?」


「んー、大切なものを見つけられたと思ってるんじゃないかな」


 たしかに、それもそうだ。大切なもの、を。私は――。


「あ、おまたせ」


「あれ、早いね」


 蒼佳ちゃんと三織ちゃんが姿を表した。思ってたよりも早かったので、少しびっくりしてしまう。


「少し急いで来たから」


 私の乗ってきたバスは少し遅れてたし、トイレに寄ってから来たからそう考えれば2人が早く歩けばこの時間は妥当なのかもしれない。


「ところで世のプレゼント、なに買う?」


「んー、上にファーストフードあるからそこで座って決める?」


「そうだね」


 ここで長い時間いても(端には寄ってるので、通行の邪魔にはならないと思うけど)少しあれなので頼希の提案にのることにした。


 3階にあるファーストフードでとりあえず飲み物だけ買って、席に座った。この時間というのもあって席はけっこう空いていた。ちなみに私はメロンソーダを買った。最近メロンソーダに少しはまってるんだ。あー、生き返る。外が暑かったから余計に美味しい。夏のスイカみたいにメロンソーダは爽やか。


「で、どうする?」


 三織ちゃんが皆の顔を見回した後、そう聞く。流石三織ちゃん、しっかりしてるな。


「世のこと一番知ってるのは三織ちゃんか頼希なんだよな。だから2人を中心に」


「たしかにそうだけどー」


 蒼佳ちゃんの言ったことに対して頼希がゆるーい感じで答える。たしかに急にそう言われても困るよな。


「4人で出すと結構大きいものを買えるもんね」


 4人でお金を出すなら普段はあげられないような少しこったプレゼントもできると思い、そう言ってみる。


「イヤホンとかは? 今の人って結構使うから」


 頼希がイヤホンはどうかという案を出す。たしかに今の若者にとってイヤホンは必需品の1つなのかもしれないから(私はあまり使わないけど)いいのかもしれない。


「でも、世まだ新しそうなもの持ってたよ」


 三織ちゃんが言うなら間違いないんだろう。世への誕生日プレゼントを何にするかの会議は再び振り出しに戻った。やっぱ三織ちゃんは世のこと、よく見てるなと思う。


「んー、三織ちゃんは何がいいと思う?」


 世との距離が一番近い三織ちゃんに私は聞く。世のことをよく知ってる三織ちゃんならなんかいいのが思い浮かぶかもしれない。


「んー、そういえばあの日から服買ってないかも。服とかどう?」


 たしかに世のプレゼントに服、いいかもしれない。あのことがあったから自由にお金が使えないから服なんて買えてないだろうし。それに世、どちらかというと(頼希よりは)オシャレは気にするタイプっぽいし。


「やっぱ三織ちゃん、世の近くにいるだけあるね!」


「いや、まあまあ」


 蒼佳ちゃんにそう言われてほんの少しだけ三織ちゃんは恥ずかしそうだった。でも、世の近くにいるだけあるな。


 私たちは買った飲み物を飲み終えた後、ららぽーと内にある洋服店からいいなと思ったものを頼希と蒼佳ちゃんと私でそれぞれ1人ずつ決め、最終決定は三織ちゃんに任すことにした。何にすればいいのか駄菓子屋でお菓子を買うみたいに悩んでしまい、結構時間がかかった。時計はもう何回もチクタクと音を立てたのだろう。というか男子の服を選ぶなんて生まれて初めてなんですけど! よくわからない。でも、世をイメージすればなんとなく……?

 

 皆が決まると三織ちゃんは、頼希の選んだ青いチェックの入った服を選んだ。やっぱ頼希も世の近くにいるだけあるな。別に私は決めた動力が無駄だとかそんなの思わない。だって、誰かのことを思って何かを決めるのは素敵なことだから。


 その服を購入した後、三織ちゃんが持って帰るのはバレてしまうおそれがあるため代表して(じゃんけんで決めたんだけど)蒼佳ちゃんが持つことになった。


 世の誕生日まで1週間。世が1つ大きくなるのか。きっと世のお母さんやお父さんが今の世を見たら驚くだろうな。こんなにも成長したのかって。三織ちゃんが言ってたけど料理もだいぶできるようになったし、家事もだんだんと。それ以外に私は心も成長したと思ってる。楽しみだな世のお母さんやお父さんが世を見る日。いつかはわからないけど、きっと来ると信じてる。もうそのときは大きくなってるかもしれないけど、来るんだ。

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