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想いの声  作者: 友川創希
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第35話   僕の心一日の変化【僕side】

三織のお母さんとお父さんのお見舞いに――伝えたいことを伝えに行ったあとは、次に2人で僕のお母さんの病室に行った。そこでさっき三織がやっていたように僕は三織を紹介した。


 そして母の病室には僕が母に向けて書いた1通の手紙をそっと置いていった。


『もうすぐあの出来事から3ヶ月が経つのかと思います。今、僕が言いたいことがあるならこれを言いたいです。何が言いたいのかって言うと、僕は何かを想うことが大切なことの1つだと母のいない間に感じました。どんなことでもいい、小さなことでも、大きなことでも。そしてそれを言葉で伝える。そのことが大切なんだって。


 今日は想ったことを伝えるために手紙を書きました。なんで、こんなことが起きるんだ、最初は自然って憎いって思ったときもありました。でも、今はそうじゃない。だって、自然に悪意があるわけではないです。それに人も自然を傷つけてます。だから僕は、憎んでるだけではダメで起きたことはできる限り受け入れる。昔ではなく未来を変える。そして沢山想うこと。忘れないこと……。


 お母さんも僕らみたいに頑張ってその世界で生きてください。


 今までありがとう。これからもよろしく。


 たとえこの手紙が直接届かなくても、必ずお母さんの心には届いてると信じています。

                                        

                                      世』


 そういえば最近――数日前から原因はわからないけど、消えたお父さんの声が耳の中から聞こえてくる感じがする。幻聴とかとも違う気がする。それは夜に聞こえることが多い。

 

 その声みたいのは昨日は「あと少し」って聞こえたような気がした。なんなのかていうのはもちろんわからないけど、あと少しでお父さんが帰ってきそう、そんな気がする。大きな理由を抱えて。


 お母さんたちと会った後、近くのショッピングモールで買い物することになった。普段のお買い物は三織に任せてるので2人でのお買い物は久しぶり。ましてやスーパー以外のところは初めて。


 100円で何回かできるというお得なUFOキャッチャーがあったので一回だけ僕がやった。そしたらうまい棒が2本取れた。それからスーパーでお買い物した。


「あ、はい」


『世くん? あのさ、ちょっと休日に悪いんだけど来てもらってもいい? できたらでいいんだけど誰か連れてきてくれると嬉しいな』


「あ、わかりました、大丈夫です」


 ちょうど買い物を終え、僕の家についたとたん、バイト先の店長から電話が来た。お呼び出しだ。ただ、何の用か聞く前に電話が切れてしまった。


「ん、誰から?」


「バイト先。来てほしいって言われて……。誰か他の人も連れてきてほしいみたいでさ、三織来てもらってもいい?」


「うん、いいよ」


 三織は快くOKしてくれた。頼希はこの時間に用事があるらしいので、一番いいのが三織だったのでお願いしたけど、OKしてくれてよかった。さっき買ったものを冷蔵庫とかに全てしまったあと、三織と共にバイト先の喫茶店に向かった。


 内容を言われていないからクビにされてしまうことも考えて少しドキドキして喫茶店に向かった。いや、クビにされるようなことはしてないはず(あ、でも最近わざとじゃないけど一回だけ店長さんの足、踏んじゃったんだよね)。


「失礼、します」


 緊張のせいか、変なところで言葉を区切ってしまった。ちなみに毎月第三日曜は休みで今日がその日なので店にお客さんはいない。


「あ、来てくれてありがとね」


 店長さんの顔を見る限りは僕の考えている状況にはならなそうだけど、まだ心配だ。こういう感じでクビというパターンも(たぶん)あると思うし。


「失礼します……」


 三織も僕に続いて入る。三織がこの喫茶店の中に入るのは確か初めてだ。


「あ、2人ともそこに座って」


 僕は前に頼希が座った席に案内された。ここに座らせるってことは何か大切な話があるってこと――クビじゃないよね。もしクビだったら生活に大きな支障をきたす。僕にとっては僕の頭の上に大きな100キロくらいの石が落ちてくるのと同じくらい大きなことだ。三織はもちろんいつもの表情だが、僕の表情は鰹節のように硬い。


「で、今日は……」


 僕はもう思い切って自分から聞いてみた。


「今日はね、今度の新作を試してほしくて。それを若い人にも確認してもらいたくてね。ちょうど連れてきてくれた子も若い子で参考になるよー」


 どうやらクビ――ではなかったようだ。そうだったのか。余計な緊張をしてしまったみたいだ。さっきまで少しかいていた汗が急に引いた。僕の心にあるさっきまで枯れていた木に桜が咲く。


「ほら、俺、けっこうじじいだから……」


 店長さんが少し笑いながらそう言う。


「いや、まだお若いですよ!」


 ここで黙るのは変な空気になると思い、思ってることを言う。もちろん社交辞令とかではない。本心だ。まだまだお若い。


「いや、ありがとう。で、お嬢さんお名前は?」


浜中はまなか三織です」


 三織は自分の名前を名乗った後、軽く会釈した。


「三織さんね。学生の大切な休日にこんなじじいのことで来てもらってゴメンね」


「いえいえ、友達の世くんがお世話になってるみたいですし、私も来てみたかったので」


 三織はいえいえのときに手振りを交えてそう言う。たぶん三織は僕のことを気遣ってくん付けで呼んだんだろう。


「あ、今から準備するので少し待ってて……」


「はい」


「わかりました」


 店長さんはそう言い残して店の奥の方に行った。2人だけになったところで三織が少し小さめな声で僕に話しかけてきた。


「世の働いてるところすごいなー、オシャレだね」


「なんか雰囲気いいでしょ」


 自分の店ではないのに、自分の店のように自慢してしまう。それほど親しみやすい店なんだろう。


「うん。店長さんもすごいいい人ぽいっし」


「いい人だよ〜」

 

 店長さんは僕のことをよく考えて仕事を与えてくれるし、話も聞いてくれるし気に入っている。この人がもし学校の先生だったら人気者間違いなしだろう。


 窓から爽やかな風が入ってくる。



 

 

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