第34話 病室で君と【僕side】
「お母さん、お父さん、こちら世。今、私と一緒に暮らしてる人」
私は目を閉じている2人に手振りを交えて世を紹介した。
ここはお父さんとお母さんが目を閉じている病室。今、私と世とお母さんとお父さんの4人だけの空間。
私は病院の独特な何とも表現できない匂いが苦手なのだけど、2人の周りだけはほのかに甘い匂いがした。
今日は2人に会いにいくことと、世を紹介するということの2つの目的があって来たけど、無事にその目的は果たせた。2ヶ月以上も前なのに今日まで直接2人に世を対面で紹介できてなかったから、今日それができて少しほっとした。
「ねぇ、2人はどんな世界を見てるの?」
私はお母さんにそう聞く。たぶん私には想像もできない世界を見てるんだろう。もちろん2人は無言。
でも、2人は今、生きている。あの日と変わらずに。
もし、今2人が何か私に言っているのなら、お母さんからは「私がいなくても頑張ってるのね、世くんをこれからも大切にしてね。私もいつかもう一度会いにいくから」って言ってそう。
そしてお父さんからは「三織も成長したな。三織が頑張ってることそれだけで嬉しいんだ」なんて言ってそうだ。
「今日まで世と頑張ってきたんだよ。だから2人も頑張って。2人が頑張らないと、私たちも頑張れないから……。私たちだけ頑張れっていうのはズルだからね……」
そう考えるとなぜだか瞳の辺りが少し熱くなる。涙は出てないけど、もう少しで出そう。でも、世もいる中泣いたら世までも悲しませてしまう。私は頑張って泣くのをなんとか抑えた。
「世、なんか2人に言っておきたいこと、ある?」
これ以上2人と話してたら涙が本当に出てしまうと思い、世に話を振った。
「じゃあ……」
世は椅子から立ち上がり、2人の近くに行く。世は大きく深呼吸をした。
「……三織のお母さんとお父さん。僕のお母さんもお2人と同じようになってしまい、お父さんも今どこにいるかわかりません。でも、三織は僕の閉じられた世界を広くしてくれました。そして光の希望を輝かせてくれました。お2人にはこんな人を三織といさせて大丈夫って思ってるかもしれませんが、三織さんといればきっとお互いやっていけます」
「……」
「それでも、こんな僕がダメダメだと思ったら、お2人の見ている世界でたくさん叱ってください。お願いします」
世は最後に頭を深く下げた。ここに全部の気持ちが含まれているんだろう。
「そんな、世は全然頼りなくなんかないよ。頼もしいから今、こうやって君といるんだよ。君は頼もしいよ」
別に世を励ましたかったわけでも、なかったけど自然とそういうような言葉が出ていた。私の心の声が漏れてしまったんだと思う。
「三織は……三織も、すごく頼もしいから」
世が私の目をしっかりと見てお返しだと言う感じで言った。今、心の中まで見られてしまったかもしれないな。




