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想いの声  作者: 友川創希
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第32話   私たちの世界【私side】

「衣海ちゃん寝た?」


 ドアが静かに開けられた後、世が入ってくる。どうやら衣海ちゃんの様子を窺いに来たみたいだ。


「うん、もう寝たよ」


 起こさないように世と同じくらい小さな声で世と会話する。衣海ちゃんはもう夢の世界にいる。


「よかった」


 世は衣海ちゃんに近づき、トイプードルみたいに可愛いい寝顔をそっと見守るかのようにして見た。


「あのさ、さっきのことだけど……」


 世の声の調子が少し変わる。あっ、あれのことか。


「あ、あれね。別にわかってるよ。言わされたみたいな感じだったし」


 さっきのこと――世が「どちらかというとそう、かな」って言って私のことをどちらかというとかわいいって言ってしまったことだろう。別に、言わなくても気遣ってくれたっていうのはわかってるのに。言う必要ないのに。


「や、必ずしも嘘ってことではないかも……」


「また、変なことを……」


 なんで世がこんなことを言ったのかはわからない。でも、仮にそうだとしてもかわいいと好きはイコールではない。だからそう気にすることでもない。


「そうかもね」


「そんなことはいいからさ、これからもよろしく」


「なに、急に――」


 急な私からのお願いしますに世は少し戸惑っていた。


「――でも、よろしくお願いいたします」


「急に敬語使わないでよー」


「ほんとだ」


 ちょっとだけ笑ってしまった。急に敬語なんだもん。そういう世、少しかわいいかも。


 今の私たちの会話で少しうるさくなってしまった。でも、衣海ちゃんはぐっすりと気持ちよさそうに、幸せそうに寝ているみたいだったので起きる気配はなかった。


「私たちが衣海ちゃんくらいのとき……どうだったかな」


「もう随分昔だから覚えてないけど、どっかに家族でお出かけしたこととか、幼稚園で劇やったこととかは覚えてるかな」


「そうだよね、思い出せるものは少なくなっていくよね」


 昔の記憶なんてもうでてこなくなってしまったものもあるけど、強い思い出はかすかに残る。それが不思議。何か、大切なこと……。


「じゃあ、おやすみ」


「うん、おやすみ」


 世は衣海ちゃんを起こさないように忍び足で戻っていく。今何時かなと思いスマホを見てみると蒼佳ちゃんからラインがきていた。


『三織ちゃ〜ん、今日は本当にありがとう。大変だったでしょ? 明日9時くらいに行くからそれまでよろしくです!』


 私は「大変なんかじゃなかったよ」と伝えるために文字を打つ。文章がパズルのように完成していく。


『大変じゃなかったし、すごく楽しかったよ! 今もう寝てるけど、寝顔もすごくかわいい笑!』

 

 私がもう一度衣海ちゃんの寝顔を見た後、すぐに既読が付き、更に蒼佳ちゃんから返信が来る。


『それならよかった。そういえば世の誕生日も近づいてきたから準備、皆でしようね!』


 そうか、もうすぐ世の誕生日か。初めて迎える特別な人の誕生日。きっと世はお母さんとお父さんと16歳の誕生日を迎えたいはず。たとえそれが叶わなかったとしても、私は世の家族として、月ちゃんや、蒼佳ちゃん、頼希も家族の一員として皆で温かく迎えたい。




「んー」


 目が覚める。体を起こし、カーテンを開けるとまだ暗い世界。夜みたいだ。時計で確認するとまだ12時過ぎ。ラインをしてから寝て、それからかなり眠っていた感じがしたけれどあまり時は進んでいなかった。


 少し喉が渇いたなと思い、1階のリビングに行く。


「あ、三織どうしたの?」


「喉が渇いちゃって」


 リビングの明かりがついていたから世がまだいるのはわかっていた。世は椅子に座っていて、テーブルに置いてあるなにかの紙を見ていた。私は冷蔵庫から水をだし、コップについでそれを飲む。


「世は何やってるの?」


「ん、ああ。インタビューカードをちょっと見てて2人の」


 世に近づくとたしかにそこには衣海ちゃんと私のインタビューカードがあった。


「インタビューって聞くやつなのに書かせるのって言うのもかわいいな」


「それ、さっき私も思った。でも、楽しかったよね」

 

 私は世のインタビューカードを見る。


「世の好きな食べ物って、いちごだったんだー。一度も食べさせてあげられてないな」


「いいよ、別に」


 世の好きな食べ物がいちごというのは初めて知った。頭の中にしまっておこう。たしかにいちごはあの甘さと酸味がたまらないんだよね。いちごってケーキとかの洋菓子にもなるしいちご大福みたいな和菓子にもなる、そこもなんか興味深い。


「今度買ってきてあげようか?」


「いちごって美味しいけど、普通の果物よりは高めだし。いいよ機会があったらで」


 たしかにリンゴとかバナナとかのよく食べる果物と比べると少し高い。でも、好きなものだからいつか食べさせてあげたいな。


「それより衣海ちゃんが服のデザイナーになりたいって、すごいよね」


「そうだね。世は夢、なんなの?」


 世が夢の話をし始めたので世にそう聞いてみた。


「んー、何かはわたらないけど人の役に立つ仕事かな」


 私が世のインタビューカードを見る前に世が答えた。


「人の役に立つ仕事って広すぎない?」

 

 私はなぜか少しつっこんでしまった。


「んー、そうだけどー、今のバイト先も仕事にしてもいいよなって思う」


 たしかに、世はバイトについて私に話してくれるとき、いつも笑顔で、私も嬉しくなってしまう。私は今、コンビニでバイトをするとき生活のためっていう考えが大きいけど、世は来てくれる人のため……とかを考えていて私よりもっともっと上にいるんだろう。働くことの価値を見つけているんだろう。


「うん、いいと思うよ。じゃあ、おやすみ」


「おやすみ」


 私は2階に戻って再びベッドに入る。そして目を閉じる。



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