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想いの声  作者: 友川創希
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第26話   月の心【僕side】

「どうして世が……?」


「いや、あの月……」


 ドアの向こうにいたのは――月だった。


 まさか月が来るなんて少しも考えてなかった。自分は今、何も考えられない。月も思ってもいない人が目の前にいる……という感じで驚いているようだった。


 どう対応すればいいか、頭をフル回転させて言葉を探す。


「えっとね……」


 なにかないか、三織の家に来たいい理由! 頭が考えるのを拒否しているのか全然考えられない。腕から汗が出てきた気がする。あっ! これなら……!


「あの、お食事に誘われまして……」


 いい理由があったじゃないか! これなら完璧だ。天才的。


「えっ? 三織ちゃん風邪でしょ?」


 あ、そうだった三織は風邪だった! じゃあ今の理由はおかしいじゃないか。だめだ、僕。なんかいい理由はないのか!


「私は三織ちゃんのお見舞いのために……」


 僕が何も言えずにいると月さんが逆に今日来た要件を言った。


「そう! 僕もお見舞いです!」


 日本語を覚えたての外国人みたいな発音になってしまったし、少し早口になってしまった。何が言いたいのか自分でもよくわからない。頭がもうグチャグチャだ。とにかくここを乗り切ればなんとかなる。あと、少しだけ。


「お見舞いなの? えっなんかよくわからないんだけど、その靴は、世の?」


「そうだけど……」


 月は僕が今履いている靴を指した。よくわからないが自分のなので間違えないよというふうに僕は言う。


「じゃあ、あの靴は?」


「僕のだけど……」


 今度は玄関の端っこの方にあった今日学校に履いていた靴を指す。それも僕のだ。一体なにが言いたいんだろう。


「やっぱなにか隠してるでしょ。お見舞い行くのに靴、2足もいらなくない?」


 やばい! 大きなミスを犯してしまった。雨も降ってないのに、お見舞いのために靴2足もいらない! 月の言うことは最もだ。もう、だめなのか。


「――どうした、世」


 よくないタイミングで三織が気になったのかこっちに来てしまった。




「別に、もっと早く言ってくれればよかったのに……」


「だってさ、心配かけたくないし、秘密にしたいことだってあるじゃん」


「そうだよ、学校で広まっても困るし」


「大丈夫、大丈夫、広めないから」


 もうここしかないと思い、僕らは月に今までの経緯を簡単に説明した。でも、今、月に打ち明けることができてよかったんじゃないだろうか。僕の心も落ち着きを取り戻してきた。


 学校でこのことが広まったら少し大事になりそうだし、居づらくなるけど、月がそう言ってくれるのならその心配はあまりしなくていいだろう。


「でも、蒼佳ちゃんと頼希には言ってもいいんじゃない?」


「そうだね」


 月の言う通り2人にはもうそろそろ打ち明けたほうがいいのかもしれない。信頼できる人たちだから。支えてくれる人たちだから。


「でも、自分から言うの気が引けるな……」


 三織が小さい声でそう言う。たしかに、何って始めればいいんだろう。「実はさ……」的な感じで自然と入ればいいの? それともどこかに呼び出して?


「じゃあ、私が代わりに言おうか?」


「考えておく」


 これはかなりの重大発表。簡単に言えるものではない。テレビで言うとコマーシャルが挟まるだろう。


「まあ、とりあえずこれからは私も2人のためになるよう協力するから」


「月ちゃん」


 もっと早く月に打ち明けておけばよかったのかもしれない。こんな心強い仲間が近くにいたなんて。人に助けを求めることは別に何も怖くもない。怖くはない。


「なんか前から少し怪しかったけど、私の想像を越すことが起きてたとは……」


「前からなんかおかしかった?」


 僕はそういう感じには見えないように過ごしたつもりだったけど――思い返してみればそうだったかもしれない。僕の表情も、旅行のときも、学校のときも……。


「うん。何となく感じてた。でも、こういう形もあっていいのかもね。2人とも本物の家族みたいだよ。いや、夫婦? それともきょうだい?」


「家族でいいです」


 僕がお願いする感じでそう言う。夫婦なんてとんでもないし、きょうだいもよくわからない。今の僕らには家族という言葉が一番似合ってるような気がした。夫婦か……。三織はきっと僕よりもいい人を見つけて将来幸せに暮らすんだろうな……。まあそんなの先のことだ。


「で、どっちから住もうって話になったの?」


 月が「どっちから告白したの?」っ的な感じで聞いてくる。


 「じゃあ、一緒に暮らす?」って言ったのは三織だけど、そのきっかけを作ったのは僕だし……。もうあの時の記憶はあまりないな。でも、三織が空と海をつなぐ1本の光のように見えた、その時は鮮明に残っている。そしてあの言葉も。たまに夢でもそれが出てくる。ずっと忘れられないんだろうな、僕は。


「どっちも……かな。でも、お互いあの時は自分をコントロールできてなかったしね」


 僕が答えを出す前に三織が答えをだした。たしかに、その通り。そうかという風に月はうなずいていた。


「で、これお見舞い。もう元気そうでよかったけど、もってきちゃったからどうぞ。今度食べて」


 月は一口サイズのフルーツゼリーがいくつか入っている袋を僕と三織の前に置いた。


「ありがとうね、月ちゃん」


「これからちょこちょこお邪魔するかも。あ、でも2人の時間つぶしちゃうからほどほどに来るよ。じゃあ、また」


 月は帰ると言った後、準備をして玄関の方に行った。僕は月を玄関まで送った。


「じゃあね、世」


「うん、バイバイ」


「バイバイ」


 月はドアをゆっくり閉めた。


 ――バタン。


 僕は月の心の中は勿論だけど、見えない。でも、月の心を感じることができたように思えてしまう。月の心は温かいオレンジ色だった。


「ふー。なんか、月に心配かけちゃったかな?」


「でも、いえてスッキリしたな。私たちには支えてくれる人がいるって再確認できたし」


 支えてくれる人――きっと頼希と蒼佳も……。月が支えてくれるんだ。だから。怖がることはない。考えることはない。自分のあったことをそのまま伝えれば何も怖くはない。


「こんど頼希に言ってみるよ」


「私も、蒼佳ちゃんに」


 だけど、なんて伝えれば、いいんだろう……。



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