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想いの声  作者: 友川創希
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第25話   ちゃんちゃん焼き【僕side】

 自分の心がここまで自分の足を動かしたんだと思う。


 走ってきたのにあまり息は切れてなかった。

 

 三織の家に着いた。家に入ると真っ先に三織の部屋に向かう。


「三織、大丈夫?」


 少し三織の部屋のドアを開ける勢いが強くドン! と大きな音がしてしまった。


「そんなに急いで帰ってこなくても……大丈夫なのに。でも、だいぶよくなった」


 三織は少し驚いた感じだった。ドアをドン! って開けちゃったからかもしれない。でも、ひとまず君がいて安心した。


「じゃあ、今日は僕が夕飯作るから。食欲はどう?」


「お昼はフルーツゼリーと冷凍してあったご飯をチンしてお茶漬けにして食べたから食欲はあるかな。でも、気をつけてよー」


 食欲があるならなおさら安心。でも、三織の目は僕を心配している目だった。こんなときでも僕を心配するのか。そりゃ無理もない。だから、僕は――君に大丈夫って思ってもらえるようになりたい。


 とは言っても、あまり難しいものは作れないし、カッコつけすぎてやけどをしたら逆効果だ。それはカッコ悪い。まずはお米を力をかけすぎないように洗い、それを炊飯器にセットする。


 冷蔵庫の中には野菜とか肉とかがあったので、材料はたくさんあるみたいだった。でも、何にしよう。冷蔵庫をあけたまま考えていたが、電気代がもったいないと思い、冷蔵庫をパタリと閉めた。


「あ、そういえば頼希が最近ちゃんちゃん焼き食べて美味しかったって言ってたな」


 ふとそんなことを思い出すと、スマホでちゃんちゃん焼きを検索する。ちょうど材料が奇跡的に全部そろっていたので、材料たちをキッチン台に並べる。鮭、玉ねぎ、キャベツ、しめじ、バター……。


 まず検索した結果によると鮭に塩を振って、材料を切って、フライパンで鮭を焼き、いい感じに焼けたら野菜を投入して、鮭と野菜のパーティーをフライパンで開催する……こんな感じでできるみたいだ。


 今は切る作業中。切るのは三織に特訓されて(お手伝いだけど)だんだんうまくなった。自分が小5の林間学校の時は野菜が切れなくて、リーダーの女の子に手伝ってもらったな……。でも今ではもうけっこう上達してる。(別にバカにされてたとかではないけれど)その子に見返したいぐらいだ。


「あっ、いてっ!」


 少し気を抜いたのがいけなかった。どうやら小指を少し切ってしまったみたいだ。ちょっとだから特に大きなことにはならなかった。だけど気をつけないと指が何本かなくなってしまうかもしれない。それは困る。


「ふー」


 この後もスマホの情報を頼りに進めていった。なんとなく鮭も焼けて、野菜を投入した。いい感じの匂い。どこかの料亭みたいないい匂いが漂ってくる。見た目はザ・初心者がつくったという感じではあるが、匂いに関してはたぶん満点だ。味もけっこういけるんじゃないだろうか。


「三織、喜んでくれるかな……」


 僕なりだけど、三織にはまだまだ全然届かないけど、想いを込めた料理が届きますように。




「いい匂い」


 全て準備が整い、ご飯ができたことを知らせると、三織がダイニングルームへといつもよりややゆっくりとした足取りで、やってくる。いつもより少し早めの夕食だ。


 テーブルには本日のメイン料理のちゃんちゃん焼きと、ご飯と、三織が前に作った作り置きの小鉢が並んでいる。


「世、思った以上にすごいよ」


「まあね、少し手こずったけど」


 これで少しは――少しだけだけど三織に安心してもらえたんじゃないだろうか。


「あ、キッチンは後で片付けるから」


 三織にキッチンを見られてしまい、用意していた言葉を言う。キッチンは泥棒が入ったかのようにかなり荒れていて、使った道具も散乱してるし、色んな所にごみがある。


「そうだね、初めてやることを頑張ると人間は見えなくなる部分があるんだよね。私もそうだったから。頑張った証拠ということで」


 三織は優しい口調で僕を励ますように言葉をかけてくれた。三織、優しいな。悪いことも、いいことに捉えてくれた。


「これ、ちゃんちゃん焼き? 北海道の?」


「うん、そう、頼希が美味しいって言ってたから」


 三織はメインの料理をみて興味深そうに聞いてきた。そう、ちゃんちゃん焼き。これは三織の言う通り北海道の郷土料理である。でもすぐに出てくるなんて流石三織だ。


「私の家、7月11日に郷土料理の日なんだけど、去年これを食べたんだ」


「そうなの? 僕の家もその日に郷土料理食べるんだ。去年はお焼きを食べた」


 僕の家では7月11日に家族で郷土料理を食べる日と決まっている。理由はよくわからない。でも、僕が生まれてからその日ができたみたいだ。


「そんなことあるんだね」


 三織が席につく。


「じゃあ、いただきます」


「いただきます」


 僕らは「いただきます」をして料理を食べ始める。三織は箸でちゃんちゃん焼きの鮭を食べやすい大きさに切ってそれを口に運ぶ。


「うん、美味しいよ。初心者にしては上出来だよ。世は成長したね」


「成長しないといけないから。お母さんがいつ目を覚ましても、お父さんがいつ帰ってきてもいいように」


 いつ2人と前のような生活がまた始まってもいいように少しずつ成長しておかなきゃいけない。僕の使命だと思う。2人に成長した姿を見せたい。三織と共に――。そういうことをこの僕がつくったちゃんちゃん焼きを食べながら思う。味がしみている。


「君がいたからここまでこれた、ありがとう三織」


「私こそ成長させてもらってるよ。お互いお礼は成長で返さないとだね」


 三織も前より家事のスピードが明らかに早くなった。いつの間に終わったの? と僕が思ってしまうくらいだ。三織も成長してるんだな。僕と同じで。


 三織は僕の作った料理を残さずに全部食べた。体も元気そうだったし、この調子なら明日にはもう元のように戻ってるだろう。


 三織は明日のためにも早めに布団に入った。僕は夕飯の片付けをする。汚くしたのは自分だけど、少し前の自分を憎みたくなるな。まずゴミを捨ててそれから洗い物をする。出来るだけ節約しなければいけないので、水はいつものようにこまめに止めて洗い物をした。


 洗い物が8割くらい終わったところで、インターフォンが鳴る。出ないわけにも行かないかと思い、一旦洗い物を切り上げて、玄関へと向かう。そういえば誰かはインターフォンで確認してないな。でも、近所の人か宅急便の2択だろう。


 ――ガチャ。


 いつもより少しドアノブが硬かった。


 ドアを開く。


「――えっ?」


「えっ?」


 思わず両者とも声が出てしまう。えっ、なんで……。


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