第23話 頼希と私【私side】
「ねー世くん、こっちで写真撮ろう!」
「あ、別にいいよ」
今いるのが箱根関所の富士山がきれいに見える丘みたいな場所。ここからもう私は動きたくないと思った。世たちは少し私の今いるところから離れたところに写真を撮りに行ったみたいだ。
「あのさ、世が前よりも成長してるように思えるんだよね。気のせいかな?」
僕の隣りにいる頼希は私を見ず、目の前に広がる景色だけを見て私に聞く。
「なに、唐突に……。でも、そうかもね。私もそう思う」
私も頼希と同じように目の前に広がる景色だけを見てそう言う。少しチクリとした。
「そして、なんか連鎖するように三織も成長してるような」
「そうかな……」
言葉を濁したが、私はそう思う。世に助けられたと思う。
「まあ、同じ中学の仲間として必要なときは俺を頼ってもいいぞ。まあ、月とかでもいいけどよ」
「うん、わかった」
必要なとき、か……。今は必要なとき、なのかな。その時はもう来ているのだろうか。
たしか世は言っていた――お母さんが事故で重体になったことを一番初めに知らせようとしたのは、頼希だったて。でも、世は頼希のことを信じてるからこそ伝えたくなかった。このままでいたかった、支えてくれるのは影だけでよかった……って言っていた。
「今動いてる雲みたいに日々ってどんどん動いていくじゃん。でも、生きてるだけでその感覚、よくわからないよなー」
「……」
空を見上げてみたがたしかに頼希の言ったとおり雲は少しずつ確実に時の流れに沿って動いていた。
「何かをしないと。テストで時間を気にするのも、旅行に行って時間を気にしてるのも、なにかしてるからじゃん。何もしないと自分の中の時間は止まっちゃうんだよ」
自分の中の時間が止まった。親が事故で重篤になったとき、世と会うまでは。自分は何もしていなかった。この世界の時間は知らぬ間に進んでいくけれども、自分の時間は止まってしまうんだ、何もしないと。
「あのさ、頼希は世のお父さんのことについて知ってる?」
「あー、まあな」
今度は私の方を向きながら聞いてきた。頼希はポケットに手を突っ込んでいた。
「三織もか。なんかあいつ、三織に頼り始めたな」
「別に迷惑じゃないから、そこは気にしてない」
「あれだろ、行方不明中。でも、あいつはさ信じてるから。何かを感じてるんだよね。心が何か言いたがってるような感覚とか言って」
世は父も母も、この世で生きていると信じて、母の止まった時計を動かしたい。そして急に終わった僕のお父さんとお母さんとの人生。これを再生させたいんだろう。
「あ、来たぞ2人とも」
「あ、うん」
もう少しだけ頼希と話していたい気持ちはあったけれど、2人が来たので私はここまでにしておいた。




