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想いの声  作者: 友川創希
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第20話   輝く世界【私side】

 もうすぐGWか。あっという間に日々は過ぎていくんだな。街の人達が一斉に動き出す儀式のようにも見えるGW。母はまだ、起きる気配は微塵もない。でも、その間に私と世は近づくことができたのかな? 本当のきょうだいみたいに(どっちがお兄さんかお姉さんかなんて決めなくていいと思うけど。そうなら双子かな)なれたかな。


 そういえば最近書く漫画の内容は世のことばかりになってるな。世のことよく書いちゃうんだよな、私って――。昨日のも世のことだったし。あれみたいに……。




「もうそろそろ行こうか」


「うん、そうだね」


 時の流れはいつの間にか訪れる。あっという間にGWになり観光地が子供連れなどで賑わっている映像がニュースで沢山流れていた。そういう場所に私たちも訪れる。元々決めていた箱根に、世と。


 家の電気を消して、窓を閉めたことをしっかり確認して、外へ出る。あの頃よりも外の日差しが強くなってきた。


 まず始めにJR平塚ひらつか駅に行き、そこから東海道とうかいどう線に乗り、小田原おだわら駅で箱根登山はこねとざん鉄道に乗り換える。そうすると君との初めての旅行場所――箱根に着いた。


 そういえば途中の電車で、友達からもらった平塚からも近い秦野はだのの落花生のお菓子を食べていると、世からも少しちょうだいって言われてその顔が可愛かったので少しあげたな。


 箱根は予想通りどこもかしこも人が多く、お祭りが開催されているように賑わっていた。まずは世の決めてくれた美術館に予定通り行くことにした。


「わー綺麗だね!」

 

 私は思わず、遊園地に来た子供のようにはしゃいでしまう。――想像していた以上の景色で、新しい世界にいるような、私たちが生きていきたい世界のような、こんな世界があったらいいなって思うような、そんな美しい世界だった。


「ほんと、きれい……」


 白いライトが周りを覆っている橋を私と世は渡っている。何だか少しお嬢様になった気分、なんちゃってね。


「三織、写真撮らない?」


「なに? 私の写真欲しいの?」


「いや! 記念だよ!」


 別にそれぐらい分かってるけど、記念で撮りたいことなんて。私は世に写真を撮ってもらった。私も世の写真を撮った。そして世と2人で(あまり得意じゃないけど)自撮りもした。この世の表情いいな、待ち受けにしよ。でも、それだと見られたときにあれか。とくに月ちゃんとかには見られるかもしれないからやめておこう。


「じゃあ、次はあっちだね」


「うん」


 世と次は建物スペースに行った。中にはガラスでできているさまざまなものが美しく展示されている。どれもガラスという同じものから生まれているでも――


「全部ガラスだけど、人と同じように個性があるんだね」


「そうだよな、三織の言う通り」


 なんかロマンチックだな。1つ1つ鑑定員じゃないのに長く見てしまう。そんな私に世はペースを合わせてくれた。ゆっくりと進んでほしいこの時間。


「これなんて輝きがすごいよね、三織みたい」


「ありがとう、私も世のためにもっと生活を輝かしたいな」


「いや、十分輝いてます」


 そうなのかな、どうなんだろう。私もこの生活はこの彫刻のように輝いているように思える。でも、まだ輝きたい気持ちもあるし、これ以上いらない――望まなくていい気もする。




「あっちに鐘みたいなのがあるみたいだよ、行かない?」


「いいよ、行ってみようか」


 世はこの美術館の下調べをしてきたらしく、小さな鐘らしきものが外のスペースにあるみたいだ。私は世についていく。途中にあった階段を上ったところに(意外と段数があったけど)、鐘があった。それを鳴らすために何人かが並んでいて、順番がくると2人で紐を持ち、そっと鳴らした。


 カン、カン。


 その音は宇宙とか遠くに飛んでいくかのように広がった。その音を聞いた後、手を紐から離した。


「なんか、あれ2人でやるの場違いだったかな?」


「たしかに2人でやるとカップルに見えるかもね」


 世の言う通り少し場違いだったかもしれない。さっき鳴らしてた人は家族だったり、もしくはカップルだった。でも、あの優しい音が数分たった今でも耳に残ってる。


「でも、カップルも悪くないかもね」


 少し顔が赤くなってしまう。世の言ったことに。カップルも悪くない……。


「なんてね、僕らは家族だよね」


 世はすぐに訂正した。


「うん! そう、家族!」


 体が反応したせいか、言葉も少しおかしくなっている。日本語を覚えたての外国人みたいだ。もう、世は!


「でも、前よりも少し僕と三織は家族らしくなれたかな」


 私たちはこの半月間、共に過ごし、少しかもしれないけど成長した。まだまだ『家族の形』には少し程遠いかもしれない。お互いに遠慮しちゃってるってとことか。私はいつか――


「私はいつか『家族とも違う特別な私たちにしかわからない』関係にしたいな」


「僕も」


 家族とは違う特別な関係なんて家族になれてないのに少し図々しいかもしれないけど、わかるときがきっと来るんだろう。この四季が進む間に。


「もし、僕らがこのままでも嫌じゃない。それに――」


「……」


「――それに僕らはこういう形でもやっていけるし、幸せを掴めると思うから」


 この生活がいつまで続こうが、終わろうが、君のことは言葉に表せないくらい大切な存在。世とならきっと大丈夫。きっと楽しく、求めていた世界を創れる。世、よろしくって……。


「僕がこうだからこうなったのに、なんか少し偉そうに言っちゃってごめんね」


「いや、私も――」


 私は君と……。


「――そう思ってるから」


 この世界に私と世だけしかいないような、そんな感じが、した。そんなはずはないのに。


 

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