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想いの声  作者: 友川創希
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第2話   日常【僕side】

  日常って一体なんだろう? と僕は思う。これは方程式の問題なんかよりもずっとずっと難しいものなんだろう。でも、その答えを教えてくれる人は多分いない。いたとしても何光年も先なんだろう。


 なんで自分の心の中は注射針が刺さっているようなのに、天気は不公平ぐらいに晴れているのだろう。不公平なくらいにいつもと変わりないんだろう。


 そういう気持ちになるのはやはりあの事故のせいだろう。


 不安しかない。明日には少し楽になるだろうか? 少しでもいいから心を閉めている紐をゆるくしたい。


 風が入ってきて壁に貼ってあるカレンダーがひらひらと揺れる。


「じゃあ皆さん、教科書は読み終わりましたか?」


 先生がそう言う。そうだ、今は高校の授業中で教科書の評論を読む時間だったんだ。なぜか制服をいつも通り着ているのに高校に来ているという感覚が全くなかった。


 到底今の僕には評論を読む気にはなれなかったが、とりあえず最後の文だけでも読むことにした。


『今、生きたいと思っているのに、生きられない人もいる』


 この1文に妙に共感してしまう自分。そうだな、そういう人も世の中にはたくさん存在する。別に生きてないわけじゃないけど母も……。


「えっーと、では授業の初めに質問した『なぜ生きることについて大切なのか』について考えられた人はいますか?」


 国語の八代やつしろ先生がそう生徒たちに聞くと、数えるほどもいない人が手を挙げた。その人たちが順番に指名されていく。


 ここまで繋いでくれた命だから、未来を創るため、社会の一員だから……。この3人の答え、どれも正しいと僕は思う。


 4人目のやつは、


「生まれてきたんだからしょうがねー」


 そう当たり前なことのようにサラリと言った。その言葉に生徒たちは少し盛り上がった。なぜだかわからないけど少しだけ救われたような気持ちになる。


「あっ、まあそうね……」

 

 先生はこんな回答が来ることを想定していなかったようで、なんとコメントしていいかと頭をフル回転させているようだった。


「先生、だって生きる意味って普段考えないんだから、こういう回答も別に悪くないですよね? 毎日頑張っていけば……」


 先生がなにかコメントする前にそれを言った生徒がそう言った。


「確かに、そうだと思うけど……」


 八代先生は少し困った様子だった。それはどうかな? という感じで少し反論したかった様子だけど、きっと出来なかったんだろう。




 自分にとってはいつもと全く違う授業が終わり(今の僕にはかなり救いとなる)10分休憩の時間になった。 


 チャイムが鳴るとすぐに嫌な気持ちを流したくて、トイレに行った。でも、トイレに行っても結局嫌な気持ちは少したりとも流れなかった。


 あー、2週間前の高校入りたてのウキウキしてた自分に言いたい。そんなウキウキしている場合じゃない、どんな未来が来るかも知らないでって。今思えばあの頃の自分が少し憎くもある。いや、憎みたい。


 トイレから出て、長い廊下を歩いていると、ちゃんと前を見てなかったせいか前から来た《《誰か》》とぶつかってしまった。お互いすぐにに立ち止まって小さく「ごめんなさい」と言と再び歩いていた方向に歩きだす。一瞬しかその人の顔は見られなかったけどあれは同じ中学の――。


 教室に戻ると、皆はいつも通り十人十色という言葉が使えるかのように色んなことをしていた。スマホを見ている人、友達と話している人、お菓子を食べている人、ただボッとしている人……。


「それ、どういう漫画?」


 漫画を読んでいる人もいた。


 僕は隣の席の蒼佳あおかさんという女の子にそう言う。今日学校に来てから何も話してなかったから、今話す話題があったので、話してみた。いつもは朝自分が先に来ている蒼佳さんに「おはよう」を言うのだが今日は何も言ってなかった(今日だけ何も話してないのもおかしいし、心配されても困る)。


「あっ、せいくん! なんかこの漫画は高校生の男女の同居もので、胸キュンシーンいっぱいなんだよ! 私の友達に三織みおりちゃんっていう子がいるんだけど、その子も好きなんだって!」


 蒼佳さんはそう言ったあと、三織ちゃんは隣のクラスの子と付け足しした。


「これ、よかったら読む?」


「いや、僕は大丈夫かな……」


「そうかー」


 蒼佳さんがせっかくそう言ってはくれたけど、興味がないわけではないが、今の僕に漫画を読むような気分はどこにもない。男女同居ものね……。


 早くいつもの日常がほしい。


 ――僕の日常はどこにいったのだろうか?

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