第18話 本屋と頼希【僕side】
僕がバイトを終えると月さんと合流し、月さんに着いていくことになった。
付き合ってほしいとは2人でどっかに行く――とかではもちろんなく、頼希のバイト先に一緒に来てほしいということだった。確かに頼希のバイト先に行ったことはなかったな。たしか、あいつのバイト先本屋だっけ? それも昔ながらの。
「でも、どうして頼希のバイト先に?」
「頼希くんのバイト先で私、ポップを作ることになったから、それができたからついでに来てほしくて」
話を聞くと前に頼希のバイト先に遊びに行ったときに、頼希がお客さんの数が伸び悩んでいることを相談したらしく、月さんは「もう少し明るい感じにしたらお客さん来るんじゃない?」と提案したらしい。そうすると、頼希が「月に任せる」と言ったらしく、それで月さんはポップとかを作ることにしたらしい。月さんが頼希の手伝いというかそういうことをする理由、あるのかな。別に手伝うことが何とかでも、理由がなくても人のことを手伝うのはいいことなのだけど……。なんか紐に引っかかる。
「世くんはさ、どうしてバイト始めたの?」
「まあ、少しお金が欲しくて」
正直にそう言う。何の嘘もつくことなく。この暗い道の中。だれかに正しいことをいいなさいと言われているようだったから。
「何か欲しいとか?」
「それもあるかな」
僕がバイトしている理由はあまり詳しく言えない。欲しいものは三織と生きるための生活だろう。
「じゃあさ、話大きくてもいいから今世くんが一番欲しいものはなに?」
今、一番欲しいもの? 急に言われても、何が欲しいのかでてこない。お金?―― でも、今はまだ暮らせる分のお金はあるし……。じゃあいい性格?――このままでも(自分が言うのもあれだけど)まあまあいい気がする。
「何かはわからないけど、物じゃないかな」
「物じゃないのか。じゃあ恋……とか?」
月さんのイチゴみたいに甘い声が僕の胸に直撃する。甘いのに衝撃は強い。恋? 今は恋が欲しいのか? 恋って誰と? えっ……?
「どうだろう。欲しいものは、実は身近にある気もするけど」
「そういうものかもね」
身近にあるけど欲しいものに気づいていないような気もする。何が欲しいんだろうか。
「いらっしゃい、月と……世か」
頼希の店に来るとまるで待っていたかのようにそう声をかけた。
「世くんもついでに連れてきたよ」
ついでという言葉が少しツンときたけれど、月さんに悪気はないだろうし、何も言わないことにした。
「初めてきたけど、頼希のバイト先、こんな感じなんだな」
「まあな」
少し古いこの感じがいい。異世界に行っちゃうかのようなこの感じ。この木の感じが温かくて落ち着く。このたくさんある本の中からこれだと思った1冊を探すのが小さい頃凄く楽しかったな。小さい頃はわかるんだよな、自分が求めている本の出す力が。
「作ってきたよ、ポップとかその他諸々」
月さんはカウンター部分に持っていたものを出し始める。
「お、この絵本コーナーとかの看板ありがたい」
頼希が『えほんコーナー』と書かれた画用紙でできた看板を手に取る。
「月さん、美術センスあるね」
「世くん、そうでしょー」
他のポップも色使いがうまく、パソコンで作ったかのような完成度だった。僕も2人と混じって月さんが作ったものを貼るお手伝いをした。大体の場所は月さんや頼希が指示してくれたのでそう難しい作業ではなかった。
月さんと頼希の2人の後ろ姿をみて少し笑ってしまう。何もおかしくないのに。2人が虹を更に輝かすみたいに……。




