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想いの声  作者: 友川創希
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第17話   バイト先に来た人【僕side】

  喫茶店でのバイトは少し難しいと思うときもあるけれど、先輩や店長さんたちのおかげでやり遂げることができている。まだここでバイトを始めて今日で3日目。だけど、結構このお店の雰囲気になれたし、3日間とも来てくれた80歳くらいのおばあさんとも少し仲良くなれた(そのおばあさんは半月前からこのお店の常連になったようだ)。

 

 今の時間はまもなく午後6時30分。働いてから1時間30分ぐらいが過ぎた。お客さんが入ってくることを知らせるベルが鳴る。いつもより大きく聞こえたような気がする。


「いらっしゃいま――」


「えっ? 世くん!?」


「えっ、月さん?」


 お客さんは僕が想定していなかった人――月さんだった。他に誰かいる様子はなく、1人のようだ。約束の時間までここで時間を潰すみたいな感じだろうか。というかこの場所に喫茶店があることを知ってたんだ。


「世くんってここでバイトしてるんだ」


 月さんはこのお店を見回しながらそう言った。まあ、僕がメイド喫茶で「ご主人さま〜」っていう役をしてるわけじゃないし、月さんにバイト先を知られてもいいか(それが学校中に広まるのは困るけれど)。


「月さんはどうしたの?」


「んー、ちょっと時間潰し」


 僕の予想通り月さんが来た理由は、時間潰しだった。この後何か予定でもあるんだろうか。でも、首を突っ込むのはよくないかなと思い、やめた。


「じゃあ、お客様、こちらの席へ」


 僕は普通のお客さんと同じように、月さんを席へ案内する。


「少し違和感あるけど、失礼します」


 月さんは僕の案内した席に座った。今はあまりお客さんがいないので、変に見られることはなさそうだしよかった。


「じゃあ私、世くんの選んだものちょうだい」


 知り合いだとこういうことを言われることもあるんだなーと思いながら、テーブルの端っこにあるメニュー表を取って開く。


「コーヒーは飲めますか?」


「大丈夫だよ」


 うん、と月さんがうなずく。


「では、こちらの『こだわりのコーヒー』をお持ちいたします」


 僕のオススメである、こだわりのコーヒーを指さしてそう言った。昨日閉店後に先輩が入れてくれたけど、美味しくて一瞬で気にいってしまったコーヒーだ。普段はあまりコーヒーは飲まないけど、こんなに美味しいんだなって思ってしまった。だから月さんにも飲んでほしかった。


「じゃあそれで」


「かしこまりました」


 僕は注文が入ったことを中の人たちに伝える。なんか、少し気になるな、月さんがこの後何するのか。


「あの子、知り合い?」


 厨房付近で先輩が僕にそう聞く。あの子――月さんのことだろう。


「同じ学校で、少し仲いいくらいですけど」


 少し照れくさいなと思いながら僕と月さんの関係を言う。知り合ってから、たまに話すくらいの関係になっている。昨日は月さんから英語の課題を教えてほしいとラインで聞いてきたっけ。


「そうなんだ」


 先輩はへーという感じにうなずいた。少しあの子に興味があるような――いや、僕と月さんの関係に興味があるようなそんな感じだった。


「なんかあの子に世くんの秘密、見抜かれそうだね」


「へ、変なこと言わないでくださいよ!」


 先輩の言ったことに僕は思わずそんなことを言ってしまう。月さんに僕はなにかを見破られてしまうのか? 例えば――

 

「ごめんごめん」


 先輩は面白おかしく謝った。たしかに月さんは探偵かのように見抜く鋭い目をもっているのかもしれない。初めて会ったときも少し見抜かれてしまったし。


 少し経った後、僕はできたばかりの湯気が立つコーヒーを月さんにお持ちする。


「おまたせしました」


「ありがとう」


 月さんはそのコーヒーに砂糖とミルクを入れて、ゆっくりとお菓子を作るときのようにかき混ぜ、ゆっくり飲み始めた。スーと体の中に入れていく。


 再びベルが鳴る。新しいお客さんが入ってきて、僕は次にその人の対応にあたる。そういえば今日店長さんに聞いたことだけど、コーヒーの花の色は白色らしい。あのコーヒー豆からは考えられない色だな。人に例えると起こらないことと思ったことが起こる、そんな感じなんじゃないかな。


「落ち着く……」


 その人を席にご案内し、厨房の方に戻るため、月さんの前を通ると、そう小さく独り言のように呟いていた。そのコーヒーが月さんの心の中までゆっくりと温めているのだろう。




「あのさ、バイト終わったら時間ある?」


 月さんがお会計の際に僕にそう聞く。えっ、予定あるんじゃないの? 僕の時間はあるけど、三織が夕飯作ってくれるからな……。


「少しならあるけど……」


 でも自分はあまりそういうのは断るのはしたくない人なので、月さんにそう言った。


 月さんはちょうどのお金をキャッシュトレーに置く。それを僕はレジの中に入れて代わりにレシートを渡す。


「じゃあ、少し付き合ってほしいの――」


 レシートを受け取った月さんは僕の顔を深く覗くようにして、まるでみかんみたいな甘酸っぱい声で僕に向かってそう言った。




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