第14話 夜空【私side】
ベランダに出ると、真っ黒の空の中にはこの世界を包み込むかのように、そして僕たちを違う世界に連れて行くかのように美しく輝く星が出ていた。この場所からでもこん何きれいに見えるんだ。
久しぶりに見た星は何だか特別で、いつもの十倍綺麗で輝いていた。
三織はというとさっきからなにかしているというわけではないが、少しだけバタバタしている感じだった。
「どうしたの、三織?」
僕はちょっと気になってベランダから声をかける。窓は開いてるので、三織にも声は聞こえているはずだ。
「あのさもうすぐゴールデンウィークじゃん。2人でどっかいかない?」
何だそんなことを言いたかったのか。つまり家族旅行か。
三織もこそこそとベランダに入ってきた。家族になったとはいえ、そういうのはまだ恥ずかしいのかもしれない。
「なに、デートのお誘い?」
「そういうのじゃないよ。家族なんだから、仲、深めておきたいじゃん」
「ごめんごめん、冗談だよ」
三織の方を向くと普通の服なのに浴衣を着ているように一瞬見えてしまった。
少しだけからかってしまったけど、僕の思った以上に恥ずかしかったらしく、顔を赤くしていた。新しい輝く星かな。
「で、どこ行くの?」
「あまり遠くに行くとお金かかるから、箱根とかどうかなって思って。でも、具体的にはまだ決まってないけど」
箱根か。たしかにここからそんなに遠くもないし、お金もそこまではかからない。観光できるところもたくさんありそうだしいいスポットかもしれない。
「うん、箱根でいいんじゃない? 行くとこ僕が考えようか?」
「それだと世1人に背負わせちゃうから、午前中分は世が考えて、午後分は私が考えるっていうのは?」
「そっちのほうがお互い考えられていいかもね」
たしかにお互いが考えることで、負担も減るし、お互い相手のことも考えながら決められるからいいかもしれない。箱根か……。
「あ、ごめん」
旅行の雰囲気から一気に現実の世界に戻ってきた。電話の音が家の中から鳴る。きっとバイト先の店長さんからだ。家に入り電話をすると、内容は明日のことだった。
「そういえば、明日からか」
「うん、初バイトだね」
そうだ、明日からだ。自分で決めた人生が動き出すような感じがする。初バイト。転校初日かのように今から緊張する。知らない人たち。僕にどう接してくれるのか。いや、大丈夫。きっと。
「そういえば、世、面接のとき今回はダジャレ言わなかった?」
「言ってないけど――って! 誰から聞いたの!?」
いや、そのことは三織には言っていないはず。高校面接の時にダジャレ言ったこと。それを知ってるのは頼希と月さんと蒼佳さんだけのはず(ただ話すだけの会のとき勢いで言ってしまったやつだ)。
「月ちゃんが教えてくれたよ」
三織がさらりと答える。やられた。月さんにやられた。あのときこういうことを言うんじゃなかった。別に三織に知られて恥ずかしいとかではないけど……。でも! でも!
「面接の時にダジャレって」
「もういいだろう、終わったことだし」
三織は笑った。僕は初めて三織が笑った顔を見たと思う。その顔はなんだか少女だった。どこかのお話に出てきそうな少女だった。誰かに魔法をかけられたような、そんな感じがした。僕も思わず笑ってしまう。
「たしかに、そうだ。面白い」
僕のことで三織との距離がまた少し縮まった気がする。
夜は2人で小さな欠片をはめていくもの――パズルをした。それから三織はいつものように日記漫画を書いていた。そしてやっとかなきゃいけない勉強も教え合いながら(ある程度)した。僕は英語を三織は社会を教えながら。
どっちのほうが頭がいいのかというと、多分それは三織だろう。高校は同じ偏差値の学校だけど、僕は頑張って何とか入れただけ……。決してわざと見たわけではないけど、中学生の時三織のテストが少し見えてしまった。平均点が60点くらいで僕が82点の国語のテストが三織は90点だった気がする。
僕はもっと頑張らないといけないんだろう。
でも、また今日という1日も終わってしまうのか。




