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ふぃりあ  作者: ましらな
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第弐話【ヂンカクノ果テ】弐 女ノ家ヘ

「女の家へ行こうかと思うぞ 」

『イッショニマイリマス 』

覗き趣味があるわけではないのだが、又八郎よ?

何故死ぬ事を選んだのだ?

その家はな、門構え立派で、不自由など無い暮らしが見て取れる家だな。

私はこの身分でな、身構えたのは門構えではなく親の方よ。

「久我のショロクイの方が、何故に我が家へ参られる? 」

男も女もお前が死んだ事も分かっておるのだろうな。

この焦りというのは悲しいものに感じるな。

私の権利など、アヤカシと罪人の生殺与奪権しかないものを……

『アキツグ様ノチカシイ人ガ亡クナリ、伝達在リト判断ノ上参ッタ所存。 コノ家ハ陰陽寮ノ使イヲ門前デ払ウ礼儀ガアルノカ? 』

アーニャの言葉もこう言う時は冷たく感じるな。

極寒の国で生きた存在だからかな。

無言のままに小雪と言う娘のいる部屋に案内された私は、繰り返される鼻歌を少しの間聞き入ったのさ。


とんてんしゃん、とんてんしゃん、ちんとんたんてんしゃん。

とんてんしゃん、とんてんしゃん、ちんとんしゃんてんとん。

人形浄瑠璃の何処かの旋律か?

疎い私には、それと判断出来る材料もなくな。

私達の存在に気付く事無く、鬼の華に囲まれて人形を手に歌い、両手を忙しくする女を見ていたのだ。

私達の姿とは少し変わった格好を女がしていたな。

又八郎の言う浄瑠璃世界の格好と言うのは、人形服を真似た服装に身を包む事だったかと今納得したわけだ。

とんてんしゃん、とんてんしゃん、ちんとんたんてんしゃん。

とんてんしゃん、とんてんしゃん、ちんとんたんてんしょん。

女は気付かぬまま暫く一人で人形劇をしては笑い止り、歌いだし繰り返した。


都合ノイイ女




「小雪か? 」

とんてんしゃんてんたん。 とんてんしゃん、とんてんしゃ……

「又八郎様のお友達ですか? 」

私達の顔を確認もしない、振り返る事もしないのさ。

『無礼デス、顔ヲ合ワセヌ者二返ス必要モ無キ事! 』

美しい中に愛らしさが残る顔を見せてくれるのさ。

黒と赤の着物の袖がアーニャの怒りで、重力に逆らうほど揺らめくな。

私はまず話を聞いてみたいのだ。 私が聞こう。

「あいつは死んだのさ。 知っておるだろう? 」

お前は何故あいつを葬った?

「又八郎様は私の趣味を奪おうとしました 」

多くを語るまでも無く、身体の一部である事を捨てられず。

私は又八郎様とお別れせねばならなかったのです。

まさかお亡くなりになると思いもしませんでした、今はこうして誰とも関わってはおりませぬ。 私は又八郎様だけの人でいます。

最初も最後も真ん中も……

『何ヲ都合良ク作リ上ゲルノカ? 』

アーニャは又八郎の事も好かんようだったが、小雪の事も好かぬものか?

話が見えてこないのでな、こんな物を出してみようか……

「小雪よ、この石は水晶と言うのだ 」

私達の小指ほどの大きさでしかないのだが、お前の姿見にこれを打ち込ませてもらうぞ?

「お前達の本当は今ここに映されるのだ。 済まぬが友人が自分で死んだのでね? 」

真実を見せてくれよ。

不思議だろう? 姿見に打ち込んだ水晶も鏡も砕けぬところが……

これを陰陽寮では浄瑠璃鏡というらしいな。

青い靄の向こう側に偽り無い世界が私に何をくれると言うのか。

「…… 」

脅える事などない。

又八郎もお前を無くすかも知れないと覚悟はしていた素振りだった。

何故死ぬ事を選んだのか見せてもらおうと思うのだ。

お前の世界、あいつの世界、見えるものが大きく違う事など当たり前であろう?

お前たちの馴れ初めなど知らぬし、そこは大きくも私にとってはどうでも良い。

まずお前の奇行振りが見えるやり取りをみたいのだ。

「小雪よ、又八郎は何故死んだと思う? 」

「知らない…… 」

そう答えてもな、悲しいほど真実だけが鏡に写るのさ。

「家族になるのです 」

「一生傍に居ます 」

「苦しいも辛いも半分子、素敵と思いませんか? 」

「又八郎様と一緒に居ることが幸せです 」

出るわ出るわと美辞麗句だけのお前の表現とでも言うのか……な?

又八郎の顔が幸せを聞くまでも無い顔で浮かんでおるな。

「体の一部と思うものを捨てられませぬ 」

「家族になりたいと申しましたが子は望めませぬ 」

「あなた様の子を産むと決めました 」

と思い出を辿り鏡の中でぐるぐるぐるぐると行ったり来たりするやり取りが繰り返されるわけか……

『ゴミダナ…… オマエノ様ナ存在ハ無責任極マリナイ 』

「…… 」

最終的にお前を信じ又八郎はお前との間に子を望んだのか……

嘘と隠し事の無間地獄の果てで又八郎が壊れたのだな……

趣味と思う事を捨てろと言われ小雪よ、お前は友人宅へ秘密で逃げたのか。

又八郎はさぞ心配し不安にもなろうな。

お前を信じ病める時も支えようとした男か……

「あなた様の子を絶対産むのです 」

お前も覚悟を決めた台詞が鏡には映るのだがな……

これまでの嘘。

隠し事。

日に日に変わる行動と発言が又八郎を追い込んだのか……

「本当に我の子なのか? 産まぬなら今しかないぞ 」

これは又八郎よ。

地獄の門をお前も望んで開けてしまったな……

試してしまったのだな?

本当に産むのか産まぬのか……

「部屋に広がる鬼の華。 その根に胎の子を殺す作用があるのを知っておるな? 」

「…… 」

鏡が割れる前に最期、又八郎が絶望の中白い縄に首を……

頭の中小雪の台詞のどれが本当か解らないまま死ぬことを選んだ影絵が見えたわけさ。

「一生一緒に居るのです 」

「又八郎様と一緒に居るためにこうしました 」

鏡は割れた……

これ以上は見る必要もあるまいし、二人は嘘と隠し事の地獄の中で二人の子供を殺しただけだったのさ。 寂しいな、悲しいな。

死ぬことでお前は冥土の子に会いに行ったのか?

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