表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

職業安定所安定職員

作者: わらりてる

 早朝から容赦なく照り付ける陽の光を浴びながら、私は営業開始ちょうどに間に合うよう近所のハローワークへ出向いていた。

 開始すぐなので、まだエアコンもそう効いておらず、中へ入っても止まることのない汗とこんな思いをしなくてはならない自らの境遇に嫌悪感を覚えた。

 

 まず受付へ行き必要書類を受け取り希望する職種・企業や退職理由等を記入し提出、半ば困り気味の表情で書類と悪戦苦闘する御同輩たちを横目に昔の自分を思い出しつつ、今や随分と慣れてしまったと思わず苦笑してしまう。

 

 しばしの待機後、呼び出され職員の方と面談、記入内容について詳しく聞かれ、こちらも事前に考えていたことを喋る。

「それでは次に希望されている企業に関する質問ですが、何故これらをお選びに?」

「はい、自宅から近いところを選びました。」

「……それだけですか?」

 馬鹿かコイツ、と言いたげな顔をしている。実際にどう思っているかは知らないが、私自身、答えながらそう考えているのだから多分思ってるだろう。

「……通勤に時間をかけたくないという声は多いので、そのこと自体は分かります。しかし、これらの企業は職種も就業形態もバラバラで、仮に就職できたとしてもあなたにとって満足のいく結果になる可能性は低いように思えます。別の条件でも絞り込み、それらとの慎重な比較の上で選んだほうが良いのではないですか?」

「いいえ、家から近ければ何でもいいんですよ。早く就職したいんで」

「……前職は半年、その前は三か月、さらにその前は五か月…早期の就職と退職を繰り返されているようですが、原因はあなたのその仕事というものと真剣に向き合おうとしない態度から来ているのではないですか?」

「うるさいなあ、私はすぐにでも職を求めてる。だからあなたたちはそれを紹介する。それだけでいいじゃないですか。」


 帰ろうと外に出たのはお昼ごろ、陽の強さはピークに達しておりすぐさま汗が噴き出てきた。

 …………あの職員さんには悪いことをしたなあ、私の将来を考え真摯な対応をしてくれた。なにも言わず私の希望をホイホイ受け入れてくれる事務的な人も多いというのに…

 彼女の言っていることは何も間違っていない、就職というものは本来ならそれぐらい真剣に取り組まなければならないものなのだ。しかしながら私の目的は近所の楽に通勤できる場所にとっとと就職する。これでしかないのだ。どうせ半年以内に辞めなくてはならないのだから行き帰りに時間のかかる場所は望ましくない。

 

 就職難の続く世の中、民間の間でも数多の就職・転職の手助けをする職業紹介事業者が増えてきた。就職先だけでなくそれを斡旋する側も増えたのだから当然それに比例してハローワークの需要は近年下がりつつある。

 しかしながら国がお抱えの施設なので利用者が減っています。残念。では済まされない、事業は維持していきたいが、利用者の少ない施設をそのままにしておくと世論が騒ぎ出すだろう。そこで生まれたのが我々職業安定所安定職員である。

 表向きは単なる求職者だが、これでもれっきとした公務員だ。利用者の減少が著しい地域へ出向き、ハローワークの斡旋を受けて就職、その時点で仕事は完了なのだが流石に一日も出社せずじゃ、いくらなんでも怪しいので三~六か月の就業を経て、また別の地域へ出向く、ということを繰り返している。公務員が働く施設を支えるために公務員がサクラをやっているわけだ。

 

 最初のうちは気楽な仕事だと喜んでいたが、最近は何の生産性もないこの日々に嫌気がさしてきた。私のやっていることは体に自由の利かなくなった老人の足を持ち、無理やり歩かせているようなもの。それが善行であるとは思えないし、事情を知らない歩かさせられている老人から罵倒されることだってある。胸が痛い。


 公務員になれてもこんな毎日じゃどうしようもない。

 あぁ、誰か良い職でも紹介してくれないだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ