2日目 エルフの女の子を助けました
1
翌朝、意味不明召喚リストの実験をするために王都外れの森に向かった。その途中で衛兵隊長に会う。
正直、あれだけ盛大に魔王討伐に送り出されたのに、自分だけクビになり戻って来た事実が、恥ずかしく気まずい。
その事を深く突っ込まれるのが嫌だったため、壊れてしまった召喚リストの相談へと直ぐに切り替えた。
隊長は宮廷召喚士に相談する約束をしてくれた。何て良い人なんだろう。
隊長と別れ、目的の森に着き奥へと入って行く。王都からあまり離れないのは、何かあった時直ぐ助けを呼べるようにしておくためだ。
「この辺まで来れば大丈夫かな」
一人そう呟くと、召喚リストを開き準備に入る。
が、その瞬間、森の奥で悲鳴が聞こえた。本能的に声が聞こえた方向へ走っていく。
「ト、トロール!? なんで中級モンスターがこんな所にいるんだよ!?」
足が竦んだ。普通に考えてレベル6の自分が倒せる相手ではない。まして戦士系がいない。それを考慮するならレベル20は欲しい所だった。
トロールの視線の先にいる女の子を見る。少女は腰が抜けてしまっていた。
――放っておけるわけないよな。
ぶっつけ本番である。召喚リストを開き、攻撃力の数値だけを頼りに呼び出す召喚獣を決める。
『ロケットランチャー装備歩兵:攻撃力420』
全く何が出てくるのか予想すらつかないが、攻撃力で見る限りトロールが相手ならこれ位の数値があれば何とかなるはずだ。自分が嘗て習得していた低級精霊の10倍近い攻撃力がある。前まで消費MPがあった所には5と言う数値が刻まれていた。
何かが消費されることは間違いないようだ。
けれど、昨日以来自分の中にあるはずの魔力の波動が感じられない。果たして呼び出せるか?
「行け!」
杖を大地に突き立てる。所持金が5ルビー減った。
「え? MPの代りにお金使うの?」
思わず声に出してしまったが、視線の先で現象は構わず進行して行く。
地に魔法陣がり、何かが現れる。それは変な服を着ている以外は極めて普通の人間に見えた。霊圧が微塵も感じられない。
「だ、大丈夫か!? これ」
魔法陣の光によってトロールが此方に気付いてしまう。そしてそれが、振り返る刹那、召喚された男が手にしていた『何か』を肩に構えた。
「ファイア!」
次の瞬間、トロールの顔面が盛大に大爆発を起こした。
その巨体が地響きと共に倒れる。
「え? 終わったの? すごっ……」
召喚された男が、此方まで走り寄ってきて、ピシっと姿勢を正した。そして手をおでこのあたりに持って行く。
「任務完了であります!」
「あ、有難う……」
「では、私はこれで!」
召喚した男が消える。
視線の先では頭部を無くしたトロールが、黒い煙となって消え去ろうとしていた。
トロールを倒した事で、300ルビーを手に入れ、おまけにレベルまで上がった。思わずテンションが上がるが、襲われていた少女を思い出し首をブルブルと横に振る。
少女は気を失ってしまっていた。
「エルフ……」
――可愛い子だな……
思わずそんな事を考えてしまう。けれど、それよりも気になった事がある。
見れば少女はボロボロだった。余程の何かがあったのかもしれない。
ゆすっても起きないので、仕方なく背負う事にする。召喚士の非力な自分には正直堪えた。
2
王都に戻ると街が何やら騒がしい。盗み聞きした情報によると、城の牢獄から研究用に捉えていたモンスターが逃げ出したのだと言う。
――それって、俺が倒したトロールなんじゃ?
焦った顔で街を徘徊する衛兵を一人捕まえ、トロールを倒した事を伝えると。その衛兵は自分の事を上から下まで舐めるように見た挙句、ステータスの開示を要求してきた。
それを見せた結果、鼻で笑われてしまう。
「レベル7? そんなんでトロール倒したとか嘘をつくな」
信じてもらえなかった。本当は背中に背負った少女を預けたかったのだが、それどころでは無いらしい。
そんなこんなで宿についてしまう。
事情を説明したにも関わらず、目ざといオーナーにきっちりもう一人分請求された。
「シーツ汚したら弁償だからな!」
さらにそんな事を言わる。
――いや、そうじゃなくてこの少女を何とかしてくれよっ。
言っても無駄そうなので、少女を連れてそのまま部屋にもどり、彼女をベッドの上に寝かせる。
――さて、どうしたものか。
少女は全身ボロボロだったが、致命傷になりそうな傷を負っていそうにも見えなかった。
取りあえず起きるまで待つしかないか、と諦める。
そして召喚リストを見つめた。
今回の戦闘で分かったことは、こいつを召喚するとお金がかかるという事だ。
それを知った上で、見てみると。支払う金額に対して、その攻撃力の高さはお釣りが来そうなものだ。現に今日は5ルビー支払って召喚した召喚獣がトロールを倒し、300ルビーも手に入れたのだ。いや、召喚獣と言うより、ただの謎な武器を持ったヒトにしか見えなかったが。
けれど、リストの下の方に行くにつれて、だんだん手におえる金額ではなくなってくる。攻撃力630万を誇る謎の召喚獣『戦略核ミサイル』に至っては、目玉が飛び出る程の額だ。普通の個人がどうこう出来る額を遥かに超えている。
「世の中そんなに上手く行かないか。でも、これは十分以上に使えるな」
テンション上がりまくりである。
3
少女が目覚めたのは夜になっての事だ。
少女はミリアと名乗った。聞けば村がモンスターの群に襲われたのだと言う。
村人たちは散り散りに逃げ出し、さらに不幸な事にミリアは、一緒に逃げた家族もろとも野盗に襲われ捕らえられてしまったらしい。
奴隷商に売り払われそうになった所を、両親が自身を犠牲にして自分だけを逃がしたのだそうだ。
なんとも不遇な話だ。
「今日だけは、ここに泊めてください」
と懇願する彼女に、代金を既に二人分支払っている事を伝えると、安心したように微笑んだ。
それから、自分の事も語った。勇者のパーティーを早々にクビになってしまったこと。一発逆転を狙って神獣級精霊との契約を試みるも、大失敗してしまったこと。
彼女のはその度に整った顔に色々な表情を浮かべた。
壊れてしまった召喚獣リストの話になると。
「すごい! すごい!」
と言って、興味津々と言った感じで聞いていた。
何だか、この子といると勇者のパーティーをクビになってしまった事などどうでも良い事のように思えてくる。
こうして今日は終わりを迎えた。