1日目 パーティーを追放されました
「お前は今日でクビだ」
唐突にそう切り出したのは勇者のラスクだった。
突然の事に開いた口が塞がらない。ようやくその意味を理解し、
「そんな、まだ冒険を始めたばかりじゃないか」
と掠れた声が漏れる。
「てかさ、召喚魔法って、俺が思ってたのと違うんだよな。もっと便利なものかと思ってた」
「そうそう、呼び出すのに呪文長いし」
更に戦士のライザップが重ねた。
「俺が一番ムカついてるのは、新しい召喚獣と契約するとき、たまに戦闘になるって言うじゃねぇか? 何で俺等が命はってお前を強くしねぇとなんねぇんだ?」
「そんな、一緒に魔王を倒そうって、誓ったじゃないか。親友だろ?」
「あ? そんなの親に、『お前は勇者になる子なんだから、今のうちにめぼしい奴とは仲良くなっとけ』って言われたから、友達やってただけだ。たく、とんだ期待外れだったぜ」
「そもそも、私は召喚士と言うのが嫌いでね。自らが戦わず霊獣に戦闘を委託するなど下衆の極み。最初から共に旅をすることに反対だった」
魔導士のルディーまでもが被せてきた。
「とにかく、そう言う事だ。冒険始めたばかりで結論出してやってんだ。後に引けなくなってからより、よっぽど良いだろう? じゃぁな」
ラスクの言葉が切っ掛けになり、全員が背を向けた。
そして一人その場に取り残される。後を追う気にはなれなかった。
2
あんまりだと思った。なんだか泣けてくる。
悔しい悔しい悔しい。
夕暮れ時、一人でとぼとぼ歩く王都への帰路途中、足を止めた。
不意にバカげた考えが頭によぎったのだ。神獣級精霊との契約である。
レベル6の今の自分では無謀としか言いようがないだろう。戦闘になったら死ぬかもしれない。けど、対話によって契約が成立する場合だってある。
――やってやる。
どのみち、このままじゃ未来は無いのだ。成功すればあいつ等を見返してやれるに違いない。
魔導書を見ながら地面に魔法陣を書き上げる。
そして何度も魔導書と比べて確認をした。普通は魔法陣に間違っても、術式が実行出来ないだけで終わってしまうが、自分がやると中途半端に成功してしまう。
『曖昧術式実行』という、自分のスキルに起因してるのだけど、これが便利そうに見えてとんでもない外れスキルで、大抵意図しない結果になってしまうのだ。
とかく召喚魔法の場合、これは大変な事になる可能性があると習った。
召喚獣との契約は別の世界の住人との契約であり、それを間違えると本来と違う世界に繋がってしまう可能性があるのだそうだ。
それによって恐ろしい魔物を呼び出してしまったり、稀に異世界の影響を受けてステータスが壊れてしまう事もあるらしい。
酷い場合には世界に災厄をばらまいてしまう可能性もあるのだとか。
とにかく絶対に間違えてはいけない。
「合ってるよな。うん大丈夫。良し行くぞぉ!」
魔法陣の上に杖を突き立てた瞬間、それが輝き出した。
それは今まで感じたことの無い凄まじいまでの、霊圧だった。
それも桁違いだった。
自分なんかにどうこう出来る代物ではないと直ぐに悟る。激しく後悔するがもう遅い。
あまりの恐怖に思わず尻もちをついてしまう。それによって魔法陣の一部が消えてしまった。
途端に魔法陣から稲妻が走り抜け、不安定に光り出す。
ステータスに『危険!魔法陣破損、直ちに修復してください!』とアラートが浮んだ。
慌てて魔導書を開き、魔法陣の欠けた個所に埋めるべき図柄を探す。
――早くしないと!――
けれど一度閉じてしまった分厚い魔導書は、焦れば焦る程ページが探し出せない。
さらに、魔法陣から発せられた稲光が魔導書に直撃し、燃え上った。
「うわぁ!」
思わずそれを投げ捨ててしまう。
「まずい! まずい!」
半ば悲鳴のように裏返った声を発し、パニックになる中、記憶だけで魔法陣の修復を試みる。
「これでどうだ!?」
『危険! 型が一致しません。直ちに修復してください』
「え!? 違う!? じゃぁこれでどうだ!?」
『ロードを再開します』
「ふぅ……」
『世界大戦争2をロード中』
「えぇ!? なんか違う! なんか違う! しかも戦争って!?」
――魔法陣を間違えると大変な事になる。場合によっては世界に災厄を……
師匠の言葉が頭に蘇る。
「駄目! それ駄目! 早く変えないと! えっと、これでどうだ!」
『メガシティー4をロード中』
「何かこれも違う!! ヤバイ! ヤバイ! これならどうだ!?」
『スターウォー銀河帝国の野望をロード中』
「これも違う!! しかも何かヤバそう! どうしたら良いの!?」
『負荷増大中』
魔法陣が放つ稲光がさらに激しさを増す。そしてそれは唐突に爆発した。
「ケホッケホッ。死ぬかと思った……」
周りを見渡す。どうやら魔獣などが召喚されてしまった形跡はない。
「よかった……」
ほっとしたのもつかの間、そこから一転して自分の駄目さ加減に打ちひしがれる。
思わず出た溜め息。そしてステータスの一部がバグっている事に気付く。MPの数値が文字化けを起こして読めない。
「うっそ、これ壊れちゃったんじゃ……? って事は俺、魔力失っちゃったの? そんなぁー」
絶望感にかられながら、更にステータスをチェックしていく。
魔力を失ったなら、召喚魔法リストはどうなっているのだろうか。
「何……これ……」
全く見たことも聞いたことも無い名前が大量にリスト入りしていた。
その攻撃力の高さに、目玉が飛び出る程驚いた。なかでも一つ異常な値を示しているのがある。
自分が契約しようとしていた神獣級精霊の攻撃力は6000だ。それに対してこれはどうだろうか。
「ろ、ろ、630万!!? 戦略核ミサイルって何!?」
いったいこれを使ったら何が起こると言うのか。
他のも色々数値がやばい。自分が契約しようとしていた6000代のものなどゴロゴロあるのだ。
「これは、ひょっとするのでは!?」
急に気分が明るくなってくるのを感じた。
「よし! 色々試そう!でもその前に一度、王都に帰ろっと」