果ての庭にて
魔女のりんご 第二幕
「ん......」どのくらい時間が経ったのか、少女は目を覚めた。目を開いたら、見慣れない空間が目に見えた、。いつの侭に力が戻った体を起こし、少女は自分が置かれてる状況を探ろうとする。そこで、少女の目に映ったのは、夢のような世界だった
少女の赤い瞳に写っているのは、一遍真っ白な、花に満ちている庭だった。真っ白な庭にきれいに咲いている花、塵のない机と椅子に自分が乗っているふかふかなベッド。どれも彼女が生まれてから初めて素晴らしく感じたもの。
「うわぁ............すごいよ......花がこんなに咲いて、庭がこんなにもきれいで......ここが天国かな」信じられない景色を目にして、彼女は驚きながら、目をぐるぐると回して、周囲を堪能していた。まるでいままでの記憶を上書きするような勢いで。
「天国ならまだよかったかもしれないけれど、残念だけどはずれよ」どこぞなく、少女は唐突に声をかけられた。その声は優しく感じるものの、底なしさも感じ取った。
少女は振り返る。後ろに、一人の女性が座っている。腰まで伸ばした真っ黒な髪に宝石が嵌めてある髪飾り、女性でも羨ましがる体つきに体のラインを極致まで暴く黒いドレス、赤く透き通った白い肌に整いすぎる顔。そしてなにより印象深く感じさせるのは、女性の眼窩にある真っ青に輝いている瞳。その瞳はまるで光がついてるよう、燦々に輝いている。儚くて底なく感じさせる。少女から見れば、その女性はまるで「美しさ」の具現だった。
女性もそうだが、椅子にされている存在も少女の気を奪って行った。外見は獅子に似ているが、生物に見えない真っ黒な皮膚に見ればわかるほどの大きい翼、光が折るほど磨き尖っている牙に迫力のある紫色の瞳。女性はその背に座っている。まるで魔女とその使い魔だ、と少女は考えている。
「あなたは・・・・誰なの?ここは・・・?」
「答える必要あるのかしら、わたしの庭に迷い込んだ子羊さん?」女性は艶やかに笑い、青い瞳で少女を測る。
「それにしても、七百年渡ってようやく新しい生きにえをご馳走できると思ったけど、これ貧弱すぎないかしら。」
「わたしを・・・・食べるの?」
「そうよ?骨の髄までじっくり食い尽くしてあげるわ。貧しい体つきとはいえ、内臓はさぞかし美味しいでしょうね。」女性は獣から降りて、ベッドの横まで足を運び、そこで体を起こしている少女の頬をなでる。
女性の指は冷たく、まるで少女全身を舐め回すように指を走らせたが、少女の心は今までにないくらい満ちている。
「うん、いいよ。お姉ちゃんとワンコに食べられたら・・・・・わたしはやっと死ねるよね?」少女はおびえることなく、自分の顔を撫でている手を握りだした。
「え?」命乞えではなく、泣き出すのでもなく、ただ純粋に頷いた少女に女性は驚きを隠せなかった。
「もしそうなら、私を食べて?私を・・・・・殺して?もう生きたくないの・・・・」
「ふん・・・・」
「最後はこんな綺麗な場所で死ねるなら、もう思い残すことはないよぉ。もう苦しいのはいや、腹ぺこぺこのもいやなの。」
「・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・」魔女と獣はそんな言葉を口にしている彼女を見つめながら、なにかを考えているよう、眉を顰めた。
「ありがとう、素敵な魔女さん、わたしを殺してくれて。ありがとう、素敵な風景を見させてくれて。」
「・・・・・・・・あなた、名前は?」女性は両手を胸の前に交わし、澄んだ声で少女の尋ねる。
「わからないの。親は私を生まれたらすぐどっか行っちゃった。この紅い目のせいで、誰も私の事をクソガキしか呼ばないの。」
「そっか」女性は少女の赤い瞳を自分の青い瞳で見つめる。
それはまるで宝石のような、赤くて輝かしい瞳だった。たとえ体はボロボロで、意識が途切れそうであっても、その瞳はそれらと一切関わらず、ただただ赤く瞬いている。
そんな瞳を何分か、それとも何十分を見つめたら、女性は嘆いた。
「気が変わったわ。食べたくなくなったわ。」
「え?」
「だって、あなたの体貧しいすぎるもの。肉もついてないし、歯ごたえなさすぎ」
「そんな・・・・・・・・」
「そのかわりに、あなたはここに残りなさい。しっかり育ててから食べるわ。それまでは、わたしの世話しなさい。あなたの手や足にタコが数え切れないほどついてるから、家事得意でしょ?」女性は少女の指を軽く撫でだした。
「そうだけど・・・・・・・・」
「だけど、じゃない。食べられたいなら、ここでしっかり食べて、おいしくなりなさい。それまでは、あなたはわたしの世話係よ?」
「うん!わかった!ちゃんとおいしくなって、食べてもらうから!」少女は可愛らしい笑顔を女性に見せる。その赤い瞳には一切の迷いや躊躇いはなかった。
「そう」女性は目の前にいる少女の笑顔をみて、まるで呆れたように微笑んで、頷いた。
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「ならまず、あなたに名前をつけましょうか。私のものになる以上、名前がないのは寂しいもの。」
「名前?」少女は首を傾ける。
「そうね。ミーア・・・・・はしっかりこないわね」女性は指を噛みながら少女に与える名前を考えている。
少女はベッドから降りて、タタっと女性の後ろについていく。屋敷に扉の前に着くや否や、女性は少女の方に振り返って、その赤い瞳をまっすぐ見つめる。
「???????」急に振返られ、まっすぐ見つめられているが、その行動の意味を見出せないように、少女は惑っている。
すると、女性は赤い瞳と庭に咲いている花を相互見ていく。そしたら、女性はまるでなにかを思い浮かんだのように、艶やかな笑いを見せた。
「これから、あなたの名前はアマリリス。庭に咲いている花と同じ名前よ」
「アマリリス?」
「うん、あなたのその禍々しい瞳と同じ色をしている花よ?」
「???????????」その言葉の意味がわからなく、少女は首を傾けた。
「うふふ。これからあなたを食べるまで、わたしの世話をしてもらうから。わたしの名前を教えてあげる。」女性はゴホンっと喉を清める。
「わたしはオキザリス、そしてあっちに座ってる子はナナカマド。あの子はあなたを森から拾ってきた。あとで礼でも言ってきなさい」
「オキザリスとナナカマド・・・・・なの?」
「ええ、充分に育てたら食べちゃうけど。それまでは、まぁ、よろしくね?」
「うん、ちゃんと育てて、食べられるようにがんばるから」少女はガッツポーズをし、心意気を示したら、女性に連れられて、屋敷に入った。
これが、魔女と少女の話の始まりだった。
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今回もここまで読んでいただいて、ありがとうございました。
カタログに書いてあった通り、
基本は気ままに書きますが、
ご意見かフィードバックを頂ければ、
投稿スピードを上げる感じで更新していくつもりです
物語の最後まで付き合っていただけたら幸いです