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ヤンデレ男の娘の取り扱い方  作者: 下妻 憂
ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~
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93.恋と戦争

「……それロージュニア向けじゃん」


 三郎が訝しげに結城の差し出した浴衣を睨む。

 どうも、その小柄な成りや相応の服装をしている割に、本人は背伸びをしたいらしい。

 目の前にある3着は、どれも小学校中学年~高学年くらいの体格に合わせてある。


「身の丈に合ったのにしろって言ってんの。文字通りね。ファッションは着たい服より似合う服。そのダルダルの浴衣であーちゃんの隣りを歩いて魅了できるわけ?」


「……ふん」


 軽く鼻を鳴らすと、三郎は結城から浴衣を奪うように取りカーテンを閉めた。

 無礼千万。ありがとうの一言もない。


 しかし結城は肩をすくめただけで、静かに僕の左横に位置取る。

 眉一つ動かさず冷静そのものだ。

 心中慌ただしく取り乱していた僕と対照的に、実に落ち着いていた。


「助かったよ」


 どうやら悪意を持って姿をくらました訳でも、恐怖から逃げ出した訳でもなく、わざわざ三郎の体格に合致する浴衣を取りに行っていただけのようだ。


「困ったままのあーちゃんを見続けるのは忍びないからだよ」


「優しいじゃん」


「あいつの為じゃない、あーちゃんの為だから。それに、あんなみっともない姿の奴に、隣りを歩いて欲しくないだけ。ボクたちまで変な目で見られちゃうじゃない」


「でも結果的には助けてる」


 行動原理がどうであれ、結城が三郎の為になることをしてあげた、の一点は事実だけなら非常に友好的だ。

 変な柄物を持ってきて、嫌がらせをした訳でもない。結果だけ見れば善意なのだ。

 下手に裏側をつついて真意を知ろうとしなければ、それは美談で終わることができる。真実を白日の下に引き摺り出すのが必ずしも正解ではない。


「……ボクとあいつを仲良くさせようとしてる?」


「そうなると、とても助かる。色々な意味で」


「お生憎様、それは有り得ない。恋は戦争と似てるの。どちらかが負けるか、どちらかが焦土になるまで決着はつかない。息の根が止まるまでね」


「……戦争にだって仲直りはあるだろう?」


「だからそこが『似てる』なの。引き分けや和平はない。勝つか負けるか、生きるか死ぬか。武器無制限ルール無用ジャッジ不在の残虐ファイト。世の中に恋愛ほど、残酷で冷徹で不条理な物はない。もしかしたら勝敗すら明確な線引きがないのかも。永遠に続く血まみれのノーガード殴り合い……かもね」


 それらを結城は涼しい顔で言い放った。


 やはり、どこか様子がおかしい。

 彼はこのように直情的な物言いや行動をしない人間性を持ち合わせている。

 今吐いた言動とて、言葉にすれば僕からの心象はマイナスだ。例え冗談めかしていたとしても。

 思っても言わなければ良い。言わないで飲み込むくらい出来る余裕はあるはずだ。


 三郎の浴衣の件についても、理由はどうあれ結果的に彼を助けたことに違いない。

 別の手段で陥れることも出来たかもしれない。

 それが結城の優しさや横を歩きたくないという合理的理由ではなく、もっとちぐはぐな言動と行動の不一致によるものに思えてならない。


 また1つだけ解せないこともある。

 結城は最初に三郎が持ってきた浴衣を細かく分析していた。もしかするとサイズが合わないことも知っていたかもしれない。

 そうなると、三郎が試着を終えて出てきて、それから取りに行ったのでは辻褄が合わない。分かっていたなら、三郎が試着に手間取っている間に持ってくることだって出来たはずだ。

 あるいは、当初は困らせてやろうという腹積もりだったが、途中で考えを改めたということなのか。

 しかし、それによって僕が当惑するのも容易に予想できたはずだ。事実そうなった。「あーちゃんが困っているのを見続けるのは忍びない」という言動もやはり不可解だ。


 それとも、僕は彼を買い被り過ぎているのだろうか。


「今日の結城……ちょっと重いね」


「そんなことない。ボクは何も変わらないよ」


「いいや、そんなことあるね。三郎か……お祭り気分のせいかな」


 俯く彼の頬に、化粧ではない紅が仄かに差していた。


「……だって、負けたくないんだもん」

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