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ヤンデレ男の娘の取り扱い方  作者: 下妻 憂
ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~
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86.ブティック

 ブティック「ラポール」。

 東海地方を中心に20以上の支店を持つ、チェーンのアパレルメーカーである。

 大衆向け安価をスローガンに、特に若者をターゲットとした企業理念を持っているそうだ。

 キャッチワードは「ナウなヤングにバカウケばか売れ」。

 という、今ひとつ狙っているのかズレているのか判断に困る、あたりがそこそこの支持を得ている秘訣かもしれない。



 店は横広の、白を基調とした直方体の箱形。

 屋根や壁は元より、柱も白色である。


 特筆すべきは正面玄関を含めた、横いっぱいのガラス張り。

 左右に10メートルを超えるショーウインドウがあり、緑の芝を模した作り物のシートの上にマネキンが並んで立っている。

 中心が玄関になっていた。その玄関までも透明なガラスである。


 なので正面から見ると、店の内部は丸見えなのだ。

 ショーウインドウのマネキンが遮る視界など幾らもない。

 店内の商品棚やハンガーラックなどの備品や、買い物客や店員も外からの視界に晒されている。


 何故このような奇妙な構造をしているかと言うと、企業ラポールがこの建物を買収する前の所有が自動車ディーラーだったからだ。

 以前ここに並んでいたのは服やマネキンではなく、セダンやSUVなのだ。

 名残として、店の左側には広めの駐車場と、店内外を車が行き来する為の開閉ドアが残っている。


 店内が見渡せるのは、お客の入りやすさや従業員への心理効果、また清潔感を狙ったものだろう。

 何が売っているのか人目で分かるし、店内と店外を隔てるのが透明なガラスであるので壁を感じにくい。


 こういったブティックは決して少なくないのだが、大抵は正方形や奥行に長い。

 この店は幾らなんでも横長すぎる。

 比較的安い衣料品を大量に置くという機能美は満たしているのだが、服屋としてはかなり奇妙な形状の店舗だ。


 少なくとも、僕は入りにくい。

 屋外からの視線に晒されながら、ゆっくり服選びなど出来ようはずもなかった。




 玄関前では、若い男性店員がドアマットの汚れを落としているところだった。

 僕らに気づき、静かに微笑んで頭を下げた。

 いらっしゃいませとは言われなかったが、より好印象だった。


 三郎が物珍しげにショーウインドウのマネキンを眺めている。

 幾体かのマネキンは浴衣や甚平を着ていた。


 その横を、結城はショーウインドウを一瞥しただけで通り過ぎてさっさと玄関から入る。

 もしかするとお目当ては既に決まっているのかもしれない。

 僕が彼に続いて入店すると、三郎も気づいて後を追ってきた。


 玄関を挟む左右2対のマネキンだけは、何故か内側を向いていた。

 入店する客への出迎えの意なのかもしれないが、無機質で瞳さえない顔に見下ろされるのはただただ不気味である。




 店内に入る。遠くから配慮した声で、いらっしゃいませーと聞こえてきた。


 冷房が弱めに効いている。体感温度が緩やかに下がる。

 室温は28℃ほど。適温だった。


 猛暑で火照った体から熱を一気に弾き飛ばすほどではない。

 一般的な小売店はもう2~3℃低いだろう。

 しかし外との寒暖差で、冷房病や熱中症による体調不良を引き起こすリスクを考えると、こちらの方が体に優しい。


 店内は大衆店らしく、胸くらいの高さの陳列棚が、中央と壁際に整然と置かれている。

 秩序だった陳列棚の配置に比べ、商品衣類は綺麗に畳まれているものの、種別だけ分けられそれとなく雑多な配置をされているように見受けられる。

 おそらく客が手に取りやすいようにだろう。

 あまり几帳面に置かれていても、整頓された物を崩し難いという躊躇が働いてしまうからだ。

 ショーケースに入ったブランド物より、ワゴンに大量に放り込まれたバッグの方が手に取りやすいのと同じだ。


 結城が僕の肩をポンと叩く。


「何着か見繕って持ってくるから、後で見てもらえる?」


「見るって?」


「見立て。似合うかどうか」


「分かったよ」


 ファッションセンスも審美眼もあまり自信はない。女性物の衣類となれば尚更だ。

 過去の服選びでも、彼から意見を求められることはあった。

 その都度、それなりに考えて答えを出すのだが、彼が素直に頷くこともあれば、最終的に自分で選んでしまうこともある。


 結城には彼なりのポリシーがあり、それは僕の返答で曲げられるものではない。

 あくまで一考の材料にする程度の話だ。


「えーと、浴衣浴衣っと……」


 結城が買い物籠を持って、「夏の定番! 浴衣セール! 最大20%OFF!」とポップが貼られたコーナーへと、それとなく早い足取りで歩を進める。

 手近なところには見向きもせず、やや奥まった棚を覗き込む。何か既にお目当ての商品があるのかもしれない。

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