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ヤンデレ男の娘の取り扱い方  作者: 下妻 憂
ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~
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59.魂の洗浄

 リビングのソファーでニュース番組を子守唄に、知らぬ間に寝入ってしまっていた。

 ふっと一瞬脳みそのブレーカーが落ち、再度目を覚ました時には小1時間が経過していた。

 ほんの数秒目を閉じただけのつもりが、時間感覚がタイムリープしてしまったらしい。


 頭に乗せていた氷枕は、いつの間にか床に落下している。

 ハンドタオルが外れて、表面に付いた水滴が床を湿らせていた。


 代わりに、長めで薄めのタオルケットが肩から足にかけてかけられていた。

 寝入った後に冷房で冷えすぎないようにしてくれたようだ。


 熱中症の余波か短時間睡眠のせいか、まだ少しフラフラするが、頭はスッキリ晴れている。


 起き上がり、床の氷枕とハンドタオルとタオルケットを一纏めに掴む。


 テーブルの上に置かれた飲みかけのスポーツドリンクを口にする。

 よほど喉が渇いていたようで、一息で残量半分が胃に消えた。


 服はまだ着替えておらず、汗でビシャビシャのままだった。

 もう動けるのだから、早く着替えた方が良さそうだ。


 結城……はいない。

 家事か私用か、自宅に帰宅した可能性もある。



 洗面所へ行き、上着とズボンと下着、つまり全部脱いでスッポンポンになった後、それらをタオルケットやハンドタオルとまとめて洗濯機に放り入れる。洗剤と柔軟剤を投入して標準モード。


 着替えようと、棚にあったパジャマに手を伸ばして止める。


 念の為と風呂場の引き戸を開ける。

 浴室に熱いくらいの湯気が充満している。

 都合良く湯船に湯が張られていた。

 自分で沸かしたはずはないから、結城が湯はりした後に保温してくれてたのだろう。


 汗まみれのままパジャマを着れば汚してしまう。

 せっかく沸かしてくれたのだから、このまま入浴も済ませてしまった方が無駄がない。


 片隅に片付けられていたバスチェアに乗っていた風呂桶をどかして座る。

 壁の据付金具に引っ掛けられたシャワーヘッドを取り、湯口の捻りをシャワーに、温度を程よく合わせる。


 一瞬、シャワーから出た冷水の温度差にビクリとした。

 肌に優しい湯温へ上昇したのを確認し、頭から被り浴び湯をする。


 頭と体を軽く洗って、前準備は終わり。

 バスチェアと風呂桶は軽く濯いで元の位置に戻す。


 湯船の蓋を取る。

 よく清掃の行き届いた乳白色のFRP。

 7分の高さに張られた湯は薄緑色をしている。

 仄かに香るミントは入浴剤だろう。


 足先から入れ、ピリピリ痺れる41度に末端神経から慣れさせていく。


 飽和した湯が淵から溢れて床へ、排水口へと吸い込まれていった。


「ふ……あぁ~……」


 全身を浸からせ、意図せずそんな感嘆の声が漏れる。

 温かさに包まれる。

 皮膚、神経、肉、骨を突き抜けて内蔵まで染み入る。


 指先が痺れる。

 足先が痺れる。

 しびびびびびびびび。


 両手で湯を掬い顔に浴びせて擦る。

 言う所なし。


「生き返るなぁ……」


 汗まみれで立ち上がるのもままならないゾンビだった。

 それが今や人間へと蘇生する。

 肉体の甦生ではない。

 精神の再生なのだ。


 とろけていく。

 風呂の湯と入浴剤の炭酸に疲れが、僕が、意識が融解する。

 目に見えない体の悪い何かが滲み出して消えていくようだ。


 何も考えたくない。

 何も考えられない。


 それは人の産まれる前の安らぎ。

 湯船は胎内、湯は羊水。

 沈めた耳に聞こえる水音は、遥か遠い失われた物心前の記憶。


 擬似的な生の前の体験。

 直径2メートルの箱が輪廻を遡らせるのだ。


 風呂はまさに魂魄の洗浄装置だ。

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