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ヤンデレ男の娘の取り扱い方  作者: 下妻 憂
ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~
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50.鬼っ子

「何言ってんの、あーちゃん?」


「お……鬼三郎が……帰ってきた……」


「鬼……さぶ? さっきの奴のこと? やっぱり知り合い?」


 結城は今一つピンとこない様子で、汗まみれのハンカチを雑巾絞りしている。

 圧力で絞りだされた水分が地面に落ち、フライパン同然に熱せられたアスファルトで一瞬にして蒸発する。


「ヤバいよ結城……彼女……彼は、4年前に引っ越した……危険な不良だよ」


 不良。

 その一言で片付けるにはあまりに凶悪過ぎ、それ以上にしっくりくる単語も思いつかない。


「は? なにそれ?」


 彼はまだ危機感なく、ハンカチをパンパンと引っ張り水分を飛ばす。


「知らないの?」


 鬼三郎といえば、この界隈で知らない人間は赤子くらいのものだ。

 犬や猫だって知っている。


 かつて、子供であるにも関わらず、不良グループに混じって喧嘩沙汰の限りを尽くした悪たれである。


 事実か無根か、尾ひれか眉唾か、奇想天外なものまで含めて様々な噂が飛び交った。

 不良を数人まとめて十数メートルも殴り飛ばしたとか、大岩をかついて山の上に投げ上げたとか、ヤクザに銃弾を撃ち込まれてかすり傷も負わなかったとか。

 山から降りてきた鬼を喰らったとか、十数メートルの化け物に変身したとか、街中の電信柱を圧し折ったとかとかとか。


 曰く鬼の子、曰く人の姿を借りた怪物、曰く人間悪意の権化。


 反社会集団には所属していなかったようだが、暴力団や暴走族の抗争に何度も殴り込んで暴れ狂ったらしい。

 腕っぷしも狂暴性も凄まじく、刃物や銃でさえ彼を止めるには至らなかったようだ。


 味方も敵もない。

 目的も動機も、ようとして知れない破壊衝動の塊。

 ただひたすら暴力を奮い続ける理解不能の暴れん坊。


 警察が彼を鑑別所にぶち込んでおかなかったのは、鉄柵もない軟な監禁部屋では力づくで破られてしまうだけとか。

 仮に少年院の檻の中でも、彼を抑え込めたかは怪しいところであるが。


 あるいは噂の1つに、当時の暴対法による暴力団取り潰しの為に警察が結託して三郎をけしかけた、なんて話もある。

 恩赦どころか裏取引も良いとこな陰謀論である。


「つまり、チンピラってこと?」


「チンピラって…」


 結城が身も蓋もない一言で一蹴した。


 間違っていない。

 だがそれは猫科だからと、イエネコとライオンを混在するようなものだ。


「まぁ、不良くらい平気だよ。ボクが守ってあげるから」


 背中をポンポン叩かれる。

 危機感の薄い結城の安請け合い。


 そこではたと気付く。

 彼が三郎を知らない理由。


 三郎の話が小学校で具体的に回っていたのは、主に教師と男子側だった。

 対して女子側は『不審者が出るから気をつけましょう』と告知し、ガチガチの新校則で危険な場所に近づけなかった。


 ならば何故男子側に話が出回っていたかと言えば、一部の蛮勇が面白半分で物見遊山気分のちょっかいをかけ、返り討ちで血を見るハメになったからである。


 病院送りになったちびっこ帰還兵の証言が、男子の口コミネットワークを通じて雷光の如く駆け抜けた。

 まさに人の口に戸は立てられず。


 当時、既に女子グループと行動を共にしていた結城は知らなくても当然かもしれない。

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