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ヤンデレ男の娘の取り扱い方  作者: 下妻 憂
ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~
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188.-Case三郎-心の鬼

 目を疑うようなことが起きた。

 心中の一言と共に、三郎の姿が変貌した。

 全身を葉脈状に赤黒い血管が走る。

 皮膚を盛り上がらせ、心拍に合わせて脈動する。


 手が膨張した。

 指が倍の太さに膨れ上がり硬質化する。

 皮膚が墨のように黒染む。


 比率が拡大したのは手だけであったが、膨張は全身に回っている。

 三郎の体が一回り大きくなっていた。

 体格が変わらないままに肥大化したので距離感が狂う。


 頭部左右から小さな突起が隆起した。

 根元から数センチ程度。

 それもまた真っ黒で視認性が悪いが、円錐形をしているのだと判別できる。


 角だった。

 小さいが確かにツノが生えていた。

 かつて童話や昔話で目にした鬼の頭部に生えていたアレ。

 おかしな方向に折れ曲がり、凸凹した酷く歪な角ではあるが、まぎれもなく人ならざるモノとしての象徴だ。


「さ……さーや……?」


「うっそ……冗談。ホントに鬼になっちゃった」


 三郎の体からバキゴキと音が鳴る。

 急激な身体変化に対して筋肉や骨が悲鳴を上げているのだ。

 明らかに質量が増えた肉はいったいどこから発生した物なのだろう。

 外から補充した訳もなく、内側から膨張していた。


「人の心には鬼が棲んでいる。怒り、欲望、ワガママ……五色の鬼だ」


 三郎の声ではなかった。

 さーやのかんだかい猫撫で声でも、時折垣間見せる掠れの混じった三郎の声でもない。

 地の底から這い上がってくる、獣の唸りにも似た空気の震え。


 絶句している僕らに三郎が続ける。


「だが、実際は5つの色なんかじゃ足りない。赤と黒とが混ざり合う。白と黄色が混ざり合う。緑と、ピンクと、茶色が。愛と憎しみが混じり合えば愛憎。喜びと涙が混じり合えば嬉し泣き。人の情動は複雑に、膨大に人の数だけ存在する。その、複雑多彩な想いこそ、人の心に棲む鬼」


 三郎が一歩こちらに近づく。

 それだけで澱んでいた霧が流れを作り渦を巻く。

 赤と黒と紫のそれが、彼の周囲だけを避けていった。


「あたしの五体に流れる穢れも、あーくんの命も、罪として自分の物にする! それがあたしの願いであり想い。それが、あたしの心の鬼だ!」


 ビリビリくる。

 三郎から発せられる”悪意”で肌が焼け付くようだ。

 同時に血管の中を氷水が流れるように冷たい。


 彼の悪意を浴びているだけで具合が悪くなってくる。

 吐き気がして頭痛がして、立っているのもしんどい。

 何もされていないのに、彼から伝わる悪感情が僕を、周囲を汚染している。


 悪意の影響を受けた、周辺の非存在の曼殊沙華が急速に枯れた。

 水分が蒸発ししおれる。

 老いた花弁が地面に散りながら砕けた。


「心中しよ、なんてチープな言い草。そんな昔の悲恋劇みたいの流行んないよ。ナウでトレンディなメロドラマはハッピーエンドが当たり前なんだから」


 結城が庇うように僕の前に進み出る。

 両脚の裾を捲り、太もものバンドに固定されていた二振りの折りたたみ包丁を引き抜いた。

 刃渡り21センチの牛刀包丁と15センチの出刃包丁。

 手首で一回転させ、二刀流のように浅く構えた。


「結城、喧嘩相手にするには分が悪すぎる。逃げよう……」


 僕は腰が引けていた。

 鬼三郎と喧嘩するなんてどう考えても無理だ。

 比喩でもなんでもなく殺されてもおかしくない。


 彼の腕っ節を直接見たことがなくても分かる。

 本能で生物的な戦闘力の違いとおぞましさを理解できる。

 彼我戦力差は鼠と獅子でも上等なところだ。


 最近の結城の異常性を考慮しても、数秒で叩きのめされるだろう。

 正面切ってのド付き合いに勝機はない。


 しかし結城は涼しげだった。

 恐怖どころか動揺もない。

 薄ら笑みさえ浮かべているほどだ。


「逃げたところで追ってくるよ。地獄の果てまでもね。この手のタイプはしつこいんだから。ここできっちりナシつけて、キッパリふってやるべきだよ。ダラダラ結論を先延ばしにするなんてサイテーなんだから」


 ……最後の一言は、なんだか僕へのあてつけのような。

 だが結城の言うことも、もっともだ。

 脚力だって僕らと三郎では話にならない。鬼三郎の噂では3km離れた場所に30秒で現れたとも伝わっている。

 馬鹿力だからと足が遅いなんてことはない。

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