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ヤンデレ男の娘の取り扱い方  作者: 下妻 憂
ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~
179/238

176.文字

 三郎はどうだったのだろう。

 彼は自分のおみくじを開いたまま、木に結ぼうともせず眺めているだけだった。

 興味もなく感慨もなさそうだ。

 つまらなさそうにさえしている。


 何が書かれているのだろう。

 悪い運勢が出ていたとか。

 気になったが、先の結城とのやり取りを思い出し躊躇する。


「…………」


「……ん? 見る?」


「いいの?」


「見ても、つまんないと思うけど」


 結城とは打って変わって、すんなりみくじ紙を渡してきた。

 占いの結果など信じていないのかもしれない。

 彼に信心などなさそうだ。

 なにしろ鬼三郎である。

 神仏に対して唾を吐きかける姿の方が似合う。


「……なんだ、これ」


 三郎から渡されたおみくじは僕を混乱させるに足る代物だった。

 文字が暴れていた。

 印刷された楷書体かいしょたいの一文字一文字が、てんでバラバラな場所に散っている。

 囲われた罫線の中に収まらない。上下左右も無視し、統一の一切がなく好き放題グチャグチャに配置されていた。


 中にはへんやつくりまでも分解されている文字もある。

 文字の上に文字が乗って潰れただのシミになっているのもある。

 読むことすらままならなかった。

 

 印刷ミスだろうか。

 インクジェットの下で紙が固定されなかったとか。

 そんなことあるのか。

 あったとして検品を通過してみくじ紙に混ぜてしまうことなど。


「不良品、かな……新しいのに取り替えて貰ってあげようか?」


「いや、いいよ。別のを貰っても同じだもん」


 三郎が僕の持っているみくじ紙の上から指を這わせる。

 表面の真ん中をなぞりながら、ついっと手前に引いた。

 みくじ紙が前面に傾斜する。


 ザーッと、音なき音がした。

 バラバラだった文字が傾斜に従って滑り落ちていった。

 自らがインクであることを忘れ、文字の形をした個体であるかのように。

 動いた跡には何も残らず、文字だけが形を保ったまま紙から落ちていく。


 地面に落下した文字は、液体であったことを思い出し赤いインクの水滴に溶けると、地面へ水分を吸い込まれていった。

 文字の消えたみくじ紙に、後に残ったのは赤い罫線の長方形枠だけだった。

 

 指の腹で紙を撫でてみる。

 ほんの僅かなインクの凹凸の形跡すらない。

 まっさらな、最初から何も書かれていない紙も同然だった。


「どう……して……」


 三郎が乾いた笑い声を上げる。

 僕と違って何も驚いていない。

 当たり前だと言わんばかりに。


「さーやは神様に嫌われてるからね。御神託の文字も逃げちゃうよ」


「神様に……嫌われてる?」


「あーくんは、神様がいるとしたらどんな形してると思う?」


 神様の形?

 一般的に広くイメージされるのは、ウールの白いトガ(ローマ帝国時代の服装)を纏い、先端の膨らんだ杖を持った白ヒゲの老人。

 海外ではキリスト・ユダヤの主は固有の形を持たない。インド神話は像頭の神だし、ヒンズーのシヴァは青肌多腕だ。

 日本の八百万に至っては物の数だけ神の形が存在する。


「おじいさん……かな。白ヒゲのさ」


「うん、さーやもあーくんと同じ意見」

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