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ヤンデレ男の娘の取り扱い方  作者: 下妻 憂
ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~
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175.吉凶

 開いたみくじ紙に印刷された、赤罫線の中の小吉。

 吉凶の序列は全国各々の地方で違う。

 大吉がもっとも良く、大凶がもっとも悪く、ブービーが凶であることが共通。

 小吉や中吉といった吉それぞれの善し悪しはバラバラである。


 この社務所の店頭に貼り付けられた序列表の並びなら、大吉、中吉、吉、小吉、末吉、凶、大凶。

 ほぼ中間に位置する。

 良くも悪くもない。

 当たるも八卦当たらぬも八卦。

 降水確率50%に値する、あてにならない指標だ。


 良縁易し人付き合いに注意、との啓示だった。

 良縁に恵まれるのに人付き合いに注意とは、なんだか矛盾している。

 気になるのはその一文くらいだ。

 学問や商いや失物は概ね無難なことが書かれており、占い術の誰にでも当てはまるあてずっぽうとあまり変わらない。


「運勢どうだった?」


 みくじ紙に食い入るようように見入る結城の肩後ろから、ひょいっと覗き込もうとする。

 食……という一語だけが見えたが、吉だったのか凶だったのかまで判別できない。

 結城がくしゃっと手で丸めてしまったからだ。


「人のおみくじ覗くなんてデリカシーないよ!」


「ごめん……そんなに悪いことだった?」


 結城は軽く身を翻して距離を取る。

 大切そうに袖に入れて半身を隠す。

 テストの答案だって見せてくれるのにおみくじはダメらしい。

 携帯電話のメール覗き見に似た拒絶の仕方だった。

 プライベートな秘密扱いなのかもしれない。


「僕は末吉だったよ、ほら」


「あーちゃんが見られても良くてもボクはイヤなの。人によってパーソナルスペースは違うんだから。仲良くても無神経はダメだよ。親しき仲にも礼儀ありでしょ」


「ご……ごめんなさい……」


「はぁ……それ、ボクが木に結んできてあげる。これと交換しよう。確か好きだったよね」


 自分のおみくじ紙を結城に渡しながら、彼からビニール小袋3つを受け取る。

 甘納豆だった。

 ちょっとオシャレな巾着型に加工され、松の木とうぐいすのイラストが入っている。

 合成着色料で塗装された小豆、金時、うぐいす、白花の大豆粒に白のざらめ砂糖がまぶしてある。


 1袋5粒入り、70円税別。

 6袋入り300円のスーパー徳用の個包装をバラして考えると割高。

 小袋がオーダーメイドで観光地料金と思えばまぁそれなり。

 社務所で販売されている物だった。

 いつの間にか買っていたらしい。


 結城が社務所から離れたみくじ掛けの方に歩いていく。

 人の手で植えられた3本の細木の間に、木綿紐が12本張られている。

 そこにびっしり結ばれたみくじ紙。


 みくじ掛けは比較的新しく作られた物である。

 元々はみくじ掛けの後ろ、生えた1本の木瓜の枝に客が勝手に結び始めたのが理由だった。

 高さも低い場所は大人の腰くらいで、細く無数に枝分かれした木瓜はみくじ紙を結ぶのに最適だ。

 みくじ掛けよりもさらに大量のおみくじが結ばれている。

 枝周辺が真っ白になるほどで遠目からは花と見間違うほどだ。


 おみくじを木に結ぶというのは、実のところ何の根拠もない。

 むしろ持ち帰り、自らの戒めとして読み返すべきだという。自宅で。

 しかし無意識に刷り込まれるほどに流布された風説が、何の疑問も抱かせず客に木に結ばせる。


 割れ窓理論もいいとこだ。

 当初神社はそれを放置していたし、後から来た客も結ばれたみくじ紙を見て、無根拠な安心と共に結んで帰るようになる。

 神社側も特にそれを止めさせることもせず、持ち帰りを推進しつつもみくじ掛けを作るという矛盾行動をしている。

 その結果が縁もゆかりも罪もない、何の変哲もない木瓜の木に白無垢を着せることになり、みくじ掛けが新設されても依然として木瓜に結ぼうとする客が後を絶たないのだ。


 結城もまた、迷いのない足取りでみくじ掛けを素通りし、木瓜へと歩いて行った。

 人工的な紐に括るより、自然物である木に結んだ方がご利益がありそうだという勝手な解釈は僕も否定しない。

 例えそれが霊木でもなんでもない、ただの一介の木瓜の木だとしても、

 いつか大量に募った人の想いが、凡百の植木を北向観音境内の愛染かつらのような霊木か、はたまた呪いの木に変貌させる可能性もある。

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