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ヤンデレ男の娘の取り扱い方  作者: 下妻 憂
ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~
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159.責任

「でも元気そうで安心したよ。夏季講習にも出てこないし。まだ停学とけないの?」


 結城の声に繊細な優しさがある。

 彼は普段から他者へ気配りを忘れないが、彼女らに対する語調は一段と身を案じている。

 特に咎咲を気遣っている節がある。


「うん、しばらく未定。秋ごろかなって話もしてるけど、もしかしたらそのまま退学にするかも」


 深刻な内容をこともなげに口にする咎咲。

 頭を掻いてへへと苦笑した。

 悪戯がバレた子供のような態度だ。

 退学になる、ではなくするとはいったい。


「え、何でさ。相手だってもう復学してきてるんだよ。入院させた訳でもないのに。2人が何で退学しなくちゃならないの!」


 咎咲にそっと景山が寄り添う。

 彼女は先ほどから一言も発しない。

 寡黙な性格でもなかったはずだ。

 にも関わらず、ずっと咎咲を心配そうに見守るだけだった。


 そして2人の間には、ただの友人のみならない、ただならぬ親密さが漂っている。

 彼女らが”そういう関係”であるのは知っていたが、眼前にすると酷く生々しい。

 自分とは別種の異次元の住人のように感じる。

 つい最近まで、同じ教室の空気を吸っていたと信じられない。


 この場で一切動じず態度を変えないのは咎咲だけだ。

 後ろで結わえたお団子の型崩れを気にしている。

 元々の毛量が多いので重そうだ。


「ボコボコにしちゃったのは事実だもん。良い悪いじゃなくてさ。浅慮だったなって。悔しいなとか、むかつくなとも思うよ。そこは譲れない。でも、自分たちの正しさに後悔はない」


「だったら……何も咎咲ちゃん達だけ退学にならなくたって……」


「主義主張を通す為に使ったのが暴力だからねぇ。私たちも子供じゃないんだ。自分のやらかしたことで世間様を騒がしちゃったんなら、そこの責任はどうしたって取らなくちゃならないよ。同じ土俵に立っているんだもの。意見を言う権利もあれば、相手を受け止める義務もある。正義の味方だろうと英雄だろうと、拳に訴えるなら相応の罰や責務は是非もないってこと」


 状況だけまた聞きするなら、冷やかした側に非がある、と思う。

 喧嘩は引き起こした方が悪いに決まっている。

 暴力に訴えるのも良くないが、理屈ではなく感情が問題の起点となるなら、相応にぶん殴られたとしても無理はない。

 左脳で思春期の喧嘩は止められない。


「ボクたち中学生だもん、子供じゃん……。自由恋愛だなんだって時代に、好きな相手が同性ってだけで、なんで差別されなくちゃならないの? 疎まれなくちゃならないの? バカバカしいよ」


 結城は口を尖らせる。納得しかねているようだ。

 眉根を寄せて下唇を噛む。

 社会の下した喧嘩両成敗がお気に召さないらしい。


「年齢を逃げ口上にはできない。それをしたら私たちの考えを、誰も本気にしてくれなくなる。むしろ良かったんだよ、これで。自分のやったことに責任を取る。それが大人の証さ。だからこそ、私たちは大人と同じテーブルについて自分たちの考えを話し合うことができる。ようやく対等な立場になった。失うばかりじゃない。1人の人間として、将来を相談して、歩いて行けるようになったんだ。前進だよ」


「…………」


「はは、最後まで応援してくれた結城ちゃんには悪いけどさ。勝ち戦じゃなくても負けてないってこともある。1人でも理解者がいてくれた。それだけでも、私たちには百万人の味方がついてる気分なんだから」


 結城はまだ首を振りあぐねているようだったが、どこか安堵していた。

 友人の心身の安否が確かめられた。それだけで充分だと。

 あるいは自身も持つ疑問の答えの一つに、か。

 軽く息を吐く。


「それも1つの結論なんだね。茨の道だけれど。逃げ隠れるんじゃなくて戦い続けるんだもの」


「戦い方は人それぞれだよ、結城ちゃん」


「……そうだね。今も2人はシェアハウスにいるの?」


「うん、お父さんお母さんと一緒にね。理解してもらうのには、時間が必要だから」


 驚いた。

 学校から姿を消し、休学退学の噂だけが独り歩きしていた咎咲景山両名と結城が親交を持っていたとは。

 友人レベルの付き合いは元々あったのだろうが、話を聞く限りかなり深い事情にまで関与している。

 結城は、そんな話を一言もしてはくれなかった。


 もちろん、彼女らが親を含めて住処を共有しているなど初耳。

 暴力沙汰を起こしておいて同居しているというのも妙な話だが、それも協議した末なのだろう。

 人生に関わる問題が白日の下に曝け出された。親も子も、関係者は腹を括って腹を割って話をすべきとしたなら、あながち悪手ではないのかも。

 およそ本件を知っているのは、非常に限られた人間のみに違いない。

 僕も他言は控えよう。

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