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ヤンデレ男の娘の取り扱い方  作者: 下妻 憂
ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~
103/238

100.変

 僕は財布から100円硬貨を2枚取り出す。

 後から店員が手書きして貼り付けたと思われる紙に、1プレイ100円とあった。

 安くも高くもない。普通の料金体系だ。


 硬貨を投入口に入れる。

 縦長の穴に200円が飲みこまれた。カシャンと音が内部から発せられる。

 その一部始終を、僕の手元を、三郎がじっと見ているのでやりづらい。


 最初に音が聞こえた。

 幻聴と勘違いするほどに、小さな音だった。

 コーン……コーン……と、鍾乳洞で反響するような澄んだ単音。


 次に画面が赤白くぼんやり発光する。あちこちで緑色の火花が散っている。

 ゲームタイトルがジワリと浮かび上がってきた。

 同時にドン……ドン……ドン……とサブウーファーの低音に似たような音も響き始める。


 やはり変なゲームだと感想を抱いた時、一瞬、頭がクラリとした。

 軽い立ちくらみのような。

 視界の像が二重にブレた。


 変な気分とはこれか?

 このゲームのおかしなエフェクト演出や音が、脳を揺さぶったのだろうか。

 隣の三郎はボーッと画面に向かって、頭をポリポリ掻いているだけだった。

 何か不調はなかったか聞いてみたかったが、何と尋ねるべきか迷った。


「変なの……」


 彼が小声でそう呟いた気がした。


 ドォォォン……!

 爆発に類似した破裂音が響く。

 「Psycho-Gestital-Modality!」。無理やりネイティヴに似せようとした下手くそなイントネーションでタイトルコール。

 どこかで見たような、モード選択のインターフェースが表示された。


「あーくん、これどうするの?」


「ちょっと待ってね、プレイできるようにするから」


 ガンコントローラーを画面に向けて、引き金を引く。

 2人プレイ。難易度はノーマル。

 「Methyl Nodeを有効にしますか?」と意味不明な選択を迫られたので、いいえを選ぶ。メチルノードって何だ?


 画面が暗転する。

 フェードを挟んで、3Dモデリングで構築された、どこかの外国の廃村が映し出された。

 新しい筐体のわりに、粗くチープな作りのモデルデータだった。ところどころジャギーやノイズが走っていて、演出なのかそうでないのか。

 十数年くらい前だったらありふれていたかもしれない品質。


 Get Ready。

 Go!。


 画面内の景色がゆっくりと前進していく。

 説明もなかったが、この廃村を進んでいくというシチュエーションらしいと想像が付いた。


 前進・後退のフットペダルがなく、ガンコントローラーにも引き金しか付いていない。

 自動で移動が行われ、登場した敵キャラクターを射殺したら次のステージへと進む。典型的なレール式と呼ばれるタイプだ。


「ねぇねぇ、もう出来る?」


「あぁ、青色のレティクル……丸と線があるだろう? それがさーやの照準。僕のは赤色。銃口を合わせて引き金を引けば撃てるはずだよ」


 バスバスバス!

 僕の説明を聞き終わらないうちに、三郎が3発立て続けに発射した。

 画面の何もない空間に着弾表示。

 右下の残弾を示す数字カウントが減少する。


「あはははは!」


 まだ敵が出てきていないよ、弾の無駄遣いだ、そう注意しようとして止める。

 最初にあまりあれこれ言わない方が良い。好きにやらせよう。

 くどく説明されると嫌になってしまうかもしれない。

 娯楽とは得てしてそういうもの。

 手とり足とりが必ずしも親切ではない。


『オォォオォ……』


 やがて不気味な効果音と共に、ステージの前進が停止し、敵キャラクターが地面からせり上がるように現れた。

 おそらく立ち上がった、という表現なのだろうが、ただ上体を煩雑に起こしただけのモーションで下からスライドしただけだった。

 舞台のせりを彷彿とさせる。


 敵キャラクターは麻の服を着た農夫風の男性。

 上着もズボンも麦わら帽も全身ボロボロで血のりが付着し、目は血走り、右手に持った草刈鎌を振り上げている。

 それが左右に揺れながら、少しずつこちらに近づいてくる。

 こちらも背景同様、粗い3Dモデリングだった。表情は顔に貼り付けたように変わらず、まばたきさえしない。

 しかし中途半端に作りが粗い分、高精度でなめらかな近年のホラーゲームより不気味さが増している。


 何事か、英語でもない言語で台詞を発した。

 妙に篭った、質の悪い録音音声だった。


 肌色は白人なのか黒人なのか判然としない。いったい何人種なのだろうか。

 一見ゾンビのようにも見えるが、体に欠損もないので異常者や野盗という設定かもしれない。

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