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一晩寝たら奇想天外なことが起きていていつの間にか青春していた件  作者: モグポク
第八章 一晩寝たら本世界に転移していた件
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一晩寝たら本世界に転移していた件 その1ー1

 今、目の前にある光景を見て俺は驚愕ではなく帰ってきたという思いがあった。ここは俺の住んでいる所ではない。しかも俺の住んでいる世界ではない。目の前の光景がそれを証明していた。鬱蒼とした森のなか、それらは全て朽ち果てていた。全焼一歩手前の廃墟、恐竜のような生き物の白骨残骸がそこにはあった。今俺に何が起きているかは過去を語らないで語ることは出来ない。過去の俺に何が起きたのか、俺は記憶を巡らせ始めた。


        *  *  *


7月21日

 夕闇のなか走る電車のなかで会原(あいはら)亮平(りょうへい)はうつらうつらとしていた。意識は飛びかけカクッと頭を垂らした瞬間意識が戻る。それを幾分か繰り返している。数回その行為を繰り返して、ふと亮平はあるエピソードを思い出して完全に意識が覚醒した。

 横を見ると四人の女子がそれぞれ寝息をたてている。藤沢駅から電車に乗り即行寝てしまったのだ。隣の席に座っていた野中(のなか)(なごみ)の頭はついに亮平の腕に寄りかかり気持ち良さそうに寝ている。

 そして亮平は反対側を見てスマホをいじっていた飯山(いいやま)(はじめ)を見た。

 「ん?どうした?僕の顔が変か?」

 「俺はお前の顔が変じゃないと見ちゃいけねーのかよ」

 皮肉たっぷりにそう言われ肩をすくめる飯山。そして、

 「じゃあなんだ?」

 と聞いてきた。たいした用はなく亮平は「なーんもないよ」と言おうとした。が、先程の思い出したエピソードが脳裏から離れようとしないので、

 「別にたいした用じゃねーんだが、ある夢を思い出してな」

 「夢?」

 首をかしげる飯山。それに亮平は頷くと、続けた。

 「そう。とある夢でな、もう十年くらい前の話かな」

 「十年前、か。相当印象に残ってたんだな」

 それを聞き亮平は首を縦に振り、そしてその時のことを思い出しながら「そうなんだろうな」と呟いた。

 「それはどんな話なんだ?」

 珍しく興味を持つ飯山に一瞬反応が鈍る。そして、思案した上、言葉を選びながらそれに答える。

 「えっと、じゃあ、それを話す前にこんな童話知ってるか?『ドラゴン竜のはなし』」

 「『ドラゴンドラゴンのはなし』?知らないな。何故そのタイトルなんだ?」

 「尻尾が二つついてるツインテイルドラゴンだからじゃねーか?そこについてはあまり触れるな」

 ぴしゃりと言いタイトルネーミングセンスの話は一旦打ち切りとなった。

 咳払いし、話を続ける。

 「まあ簡単に説明すると、俺は五歳くらいのときに一回その童話の世界に入った()を見たってわけ」

 「で、その夢とは一体何なんだ?」

 あまりに食いつくので、亮平はその夢の話をするために一呼吸した。鉄道のアナウンスがまもなく戸塚に到着することを乗客に伝えた。

 「飯山が興味津々なところは珍しいけど、んじゃま、一から語らせてもらおうかな」

 そして亮平は当時の実体験をありのままに語り始めた。その時、電車のドアが開いた。


        *  *  *


 「ここはどこ?俺は誰?」

 目が覚めると辺り一面にはログハウスが見えた。亮平がいつも生活する一軒家とは異なっていて窓の外を覗くと朝陽が射し込んでいるものの辺り一面鬱蒼とした山景色が連なっている。森林からは小鳥のさえずりがあちこちで聞こえ、当時の亮平おろか高校生になった亮平すらも驚嘆するような別世界感。

 亮平が混乱する理由はそれだけではなかった。身なりが違うのだ。いつもならパジャマを着ているのだが、着ているものは古びた布で作られた衣服であり、あちらこちらで黄ばんでいる。

 「お父さん?お母さん?」

 五歳くらいの幼児だから両親の存在は気になってしかたがない。亮平はベッドから降り、ドアを開けると、そこにいたのは、

 「おや、起きたのかい、マキリ」

 と呼ぶ老婆であった。

 「だ、誰?お、俺はマキリ?」

 受け入れ難い事実に驚愕の色を見せる亮平。しかし老婆には意味が理解できなかったようで、

 「何を言っておるのじゃ?お前はマキリじゃろ?」

 亮平は全てを理解することは出来なかった。当たり前のことである。いきなり意味のわからないところに居て自分を『マキリ』と呼ぶのだから。

 呆然と立っている亮平を前に老婆は何か思い付いたような顔を見せ、口を開く。

 「ははーん。さてはお前寝ぼけておるな。儂の名前を忘れるなんて事は有り得んからな」

 だから俺は会原亮平なんだって!そう亮平が突っ込んだのは数年後のことである。

 「儂の名前はタシロ。どうじゃ、思い出したろ」

 タシロ。それを聞いて思い出したのは一つの童話であった。タイトルはそう『ドラゴン竜のはなし』である。確かその童話の主人公は『マキリ』という五歳くらいの少年である。よって、

 「嘘だろ?俺は本の世界に来てしまったのか!?」

 全てを知った亮平を混乱させた。



 亮平ことマキリは意味なく泣いているわけではない。本の世界に来るのはいいが元の世界に戻る術を知るわけもなく考える前に寂しさに押し潰れてしまった。泣きわめくマキリを前にタシロはマキリの頭を撫で、言った。

 「おや、何か怖いこともあったべか?よしよし。んじゃ、儂が一つお話をしてやろう。ドゥラーケの話じゃ」

 何故こんなに泣いているのにドゥラーケの話をしたのか疑問に思うのだが、それも数年後のことであり、今のマキリはただただ頷く他なかった。

 タシロは咳払いし、語り始めた。

 「今は昔、ドゥラーケという竜がいたのじゃ。その竜はな、度々人間を襲って喰らってたそうな。なぁ、怖いじゃろう」

 そう聞かれ頷くマキリ。老婆は語り続けた。 

 「けどなぁ、それと同時にドゥラーケは村の守り神なのじゃよ。ドゥラーケがいるとなぁ、他の動物たちが恐れて近づかなくなるのじゃよ。だから村が荒らされることはないし、ドゥラーケはなくてはならぬ存在なのじゃよ」


 こんな辺鄙なところに来客とは、珍しいこともあることだ。マキリとタシロが朝食を済ませたところに一人の来客が現れた。中に入れてみるとそこには屈強そうな好青年がいた。青の冒険服と背中に帯刀しているところが印象的であり、見た目だけだと勇者にも見える。

 来客理由は旅路の途中休憩であり昼には出発するとのこと。推測するにここ周辺で野宿をしたのだろう。

 青年がマキリと目が合い笑顔になる。そして、タシロに再び向くとこんな質問をした。

 「最近ここ近辺でドラゴンが出るという噂を耳にしたが真か?」

 「ドラゴン?そんなものは知らぬ」

 タシロは恐らくドラゴンというものを知らない。まさかドゥラーケがドラゴンであるということも。だから大きな咆哮を聞いたときはその場にいた全員が戦々恐々した。見るとそこには大型の竜が、『ドゥラーケ』がそこにはいた。

次回予告

亮平「次回予告ターイム、お届けは会原亮平と、」

夏々「塩見夏々だ!」

亮平「なっ!なんで夏々刑事がここに?」

夏々「あたしが刑事になった覚えはないんやけど」

亮平「それ以前に今日は記念日だぜ。モグポク活動一周年記念日だぜ~」

夏々「ふーん」

亮平「ま、俺もぶっちゃけ興味はあんまないっていうか」

夏々「あたしもそう思う。んじゃま次回予告いきますか。次回『一晩寝たら本世界に転移していた件 その1ー2』」


    *  *  *


モグポク「これからもよろしくでーす」

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