一晩寝たら透明少女になってて生活が不便すぎる件 その5
9月6日
この日の放課後、俺は体育館裏で仁王立ちしていた。周りには誰もおらず、何のために立っているかなんて他の人にはわからない。分かるのは俺と俺の友達だけである。
今日だけは夏の暑さが他の日よりも抑えられていて、爽やかな風が俺の頬を撫でていく。そんな時間が約十分流れていった。
しかし、そんな静寂もそう長くは続かない。話し声がだんだんと近づいている。声からして女子三人、今流行りのタピオカミルクティーのことで盛り上がっている。そんなテンションの高い女子の前に俺はそのまま仁王立ちで待ち受けた。
「ありゃ、差出人いないと思ったら、公開告白事件の張本人会原亮平だよね?」
真ん中のリーダー格みたいな人がそう言った。その周りで、「これって告白?」とか言っている。俺はそれをさらりと無視し「そうだ」と肯定した。
「で、大丈夫なの?」
「なにが?」
「男子が体育館裏で女子を呼び出すのって」
「その行為になんか問題あんのか?」
俺は一切ぶれなかった。それが意外だったのだろう。「ふーん」と言ったリーダー格。みんなに聞く。この行為に問題なんてあるのか?
「いやー。野中和だっけ?そいつに半殺しに合うんじゃないかしら?」
「合わねーよ。なんで俺が和に半殺しに会うんだよ」
「いや、これって、完全にこれから告白されるやつじゃん」
「うん。するよ。告白」
ざわつく三人。当たり前だろう。告白宣言したんだから。でもな。顔に朱入れてるところ悪いんだけど、
「告白って言ってもな、夕夏梨をいじめるの止めてくれないかってことなんだけど」
三人は一瞬目をぱちくりさせる。しかし状況を察したのだろう。
「はぁ?テメェに関係ねーだろ」
一瞬で豹変しやがりました。関係ねえ、だと?
「気に入らねーだけだよ。これでも夕夏梨は俺の友達だ。ほっとけねーよ」
「なに正義面してんだと聞ィてるんだけど」
確かに端から見たら正義面した第三者だ。けどこれでも夕夏梨は苦痛のあまり透明化したんだぜ。だからさ。
「だから気に入らねぇってだけだよ」
「へぇ、ならなおさらやめねーよ。あたしらがあいつに何されたかを知らねーくせに口を出すんじゃねぇってことを教えてやるぜ」
はりつめた空気、しかしそれも長くは続かなかった。
「おい、何してるんだ!」
まるで正義の味方が登場したようなシチュエーション。そこには一人の男子生徒が立っている。変貌しきった女子組が急に性格を軟化させ、
「きゃあ、助けてー!」「今さっきこいつに喧嘩吹っ掛けられそうになったの」「やっつけてー」
と各々正義の味方に助けを求めた。正義の味方は俺の方を見て、
「おい、女子の敵。覚悟はできてるよな?」
と俺の背筋を凍らせるように言い放った。俺このあと生きてるよね?
そんなことを思案しているうちにとうとう正義の味方が飛びかかり俺の顔面に拳を向け、殴ろうとした瞬間だった。
「「「きゃあ!なにすんのよ!」」」
急に女子三人が叫んだ。見るとそこには羽交い締めされた三人の女子がいた。しかし誰が羽交い締めしているのだろう。答えは簡単だ。
「ごめんねぇ~、亮平くんに頼まれてねぇ~」「ちょっとおとなしくしてよっか」「ムネモミタイ」
一人だけ欲求不満なやつがいるが無視するとして、『飯山囮作戦(仮)』は成功である。さて。
俺は羽交い締めされた女子三人を見て言う。
「さあ、説明してもらおうか」
※
「おい、夕夏梨。俺達を巻き込ませたくないのは分かるけどなぜ言わなかったのか説明してくれ」
「……………」
リビング中央にて声高らかに言い放った。帰ってくるのは虚無のみ。ったく、むず痒いんだよ!
「俺から言うことはこれだけだ。いじめっ子三人は俺達で厳重注意した。これ以上するのなら音声データを公表するという脅しまで使ったぞ」
「……………」
「彼奴らが夕夏梨にひどいことをすることはないんだ」
「……………」
「だからひとつ質問する。これからお前はどうするんだ?」
「…か」
「聞こえねぇな。はっきりせい!」
「バカ!なに勝手に人の問題に首突っ込んでくるワケ?意味わかんない!」
激昂する夕夏梨を目の前に俺は怯まずに次の言葉を待つ。
「逆に会原、お前は何をしたいんだ?勝手に私の抱えてる問題を解決して良い気味か?」
追撃を含む質問に俺は迷いなく答えた。
「ああ、そうかもしれない。ただしこれだけは言える。俺は後悔していない。それに俺は早々にお前を元に戻して明日の和との勉強会を楽しくやりたい。ただそれだけだよ」
夕夏梨を助けたい、そんなニュアンスを含めた言い方。しかし夕夏梨から帰ってくるのは「そんなの知るか!」だけであった。
暫しの静寂。しかしそれも長くは続かない。
「とある男子からの告白が原因だって?」
「……………ッ!」
姿は見えない。しかし気配で夕夏梨の顔に驚愕の色が指しているに違いない。俺はそう思った。
「とある男子からの告白を振った噂は瞬く間に広がった。しかしとある男子が夕夏梨に告白する直前とある女子が告白してその男子はその子を振った。それが許せなかったらしい」
自分と夕夏梨との優劣が気に入らなかったのだろう。その子は翌日から夕夏梨をいじめかかったのだそうだ。時期的には五月中旬。当時俺は女体化事件に巻き込まれている最中だった。そんなときから夕夏梨は相当苛められていたそうだ。
「それに加え両親が常時家にいないっていうのは結構メンタルくるよな」
「うっさいわね」
彼女の両親は常に日本国内や世界的に飛び回る仕事に就いており、夕夏梨はいわば独り暮らし状態を強いられていた。しかもそれは小さいときからであり、それはそれはとても寂しかったに違いない、そう俺は推測した。
しかも俺自身も同じ状況下にいた。交通事故により両親を亡くした俺の心は未だ完治していない。おそらく一生涯この傷を負うことになるだろう。
「でもな、前にも言ったように伝えたいことは早く伝えないと機会逃しちまうぜ」
「……………」
帰ってくるのは静寂のみ。しかし彼女が何を思いどうするか、そんな決意がひしひしと伝わってくるような気がした。
「夕夏梨はさ、もうちょい素直になっても良いんじゃねーか?我慢しすぎだぜ」
我慢のしすぎで存在を消されては最悪な展開である。
「夕夏梨はしたいようにすりゃいいんだよ。自分のペースでさ」
「私のペース?」
「そ、自分のペースで」
そして俺は夕夏梨の頭を撫でた。迷うことなく、探ることなく。
「自分のやりたいこと見つけたろ?かわいい面してんじゃねーか。そりゃ告白されるわ。たまに暴力的なことを除けば」
俺はすでに夕夏梨の顔が、身体が見えていた。ボブヘアーの少女は目尻に涙を浮かばせながら上目遣いで微笑している。向こうの方でまことなのはが驚嘆している。いきなり人が現れるんだからそりゃそうか。
「暴力的は余計よ。けど、ふふ。確かにやりたいことは見つけたかな。ありがとね(^_^)」
「夕夏梨のかわいさに俺の顔がだんだん赤くなっていくんだけど!?」
「それは私もよ。なんだろ、この気持ち」
言葉通りみるみる顔を赤くしていく夕夏梨。
「さあ?自分に酔ってるんじゃね?」
「さっきの感動を返しなさい」
どうやら回答が違うらしい。そんなことはさておき、無事透明化現象は解決した。イエイ!今回は俺の大大大活躍だったっしょ!
「それとそうと、明日和さんと勉強会するんでしょ。それに私も混ぜなさい。いいわね?」
「ええ~。折角の和との勉強会デートなんだから、やなんだけど」
「それにともちんも混ぜるの。おねがぁい」
「収集つかなくなるんだけど。このままだと俺の友達全員が押し寄せてくる未来しか見えないんだけど」
「いいじゃない。んじゃ、よろしく~」
「俺の意見なんて聞いちゃいねぇよな、クソォ」
どうせこんなことになるだろうとは若干だけど思っていたさ。でも、俺は和と二人っきりでやりたかったなぁ~。
夕夏梨はそんな俺に近付き頭に手をやると、
「よしよし。大丈夫、大丈夫」
「俺は子供かっ!」
家に響くような大声でそう突っ込んだ。
9月7日
あの騒動から翌日の出来事である。今目の前には俺のプリティーエンジェル和と夕夏梨と、
「亮平は本当にハーレム野郎だね」
ジト目で見てくる朋子がいた。それぞれ椅子に座って、目の前のテーブルには勉強道具が置かれていた。
「ともちん。それは誤解を招くぜ。俺は和一筋だ!」
その言葉を聞いて和は赤面しながら微笑を浮かべた。
「ならなおさらじゃないですか!この目の前の状況を見て貴方はなんと説明するんですか?」
「大丈夫、大丈夫。俺に恋してる人なんてここには和以外いないでしょ」
「確かに私には愛すべき彼氏いますけど。じゃあ亮平。右側をご覧ください」
珍しくほんのりと顔を朱に染める朋子はおいといて、その言葉通り俺は右側、夕夏梨の方を見る。そこには既に顔を赤くしている夕夏梨が上目遣いに俺の方を見ていた。
「そんなキラキラな目されてもなにもあげねーぞ。お菓子なら出すけど」
「期待した私がバカだった!」
「ったく、なんなんだ……ッ!」
前を向こうとした瞬間である。急に右頬に柔らかいものが押しつけられた。見るとそこには夕夏梨が、夕夏梨が俺の右頬にキスしていた!
目を閉じながらキスする夕夏梨。それはそれはとても艶やかだった。早くなっていく心臓の鼓動が聞こえる。
「ゆ、夕夏梨ちゃん?何してるの?」「あちゃー。亮平はやっぱりハーレム野郎ですね」
一瞬でイラつき全開になった和と溜め息をつく朋子。そこに俺は、
「えっと、俺には和というかわゆい彼女がいてですね」
「勇気を搾り取ってキスしたのに玉砕!?」
「私はやっぱり亮くんを選んで正解かな!」
失恋をしたであろう夕夏梨と一瞬でご機嫌になる和。しかし夕夏梨は、
「別に大丈夫です!私は私のペースで亮平を惚れさせてみせますから覚悟しててね!」
と決意表明する。それに、
「んー、夕夏梨ちゃんは私に勝てるのかな?」
椅子から立ちにやけながら俺に接近する和。そして、
「亮くん。私亮くんのこと大好きだよ!」
目を閉じながらみんなの前で俺の唇を奪った。その場にいる全員が呆気にとられる。和を見ると今までに見たことないくらい顔を赤く染めあげて、そして気持ち良さそうにキスしている。そして俺自身も溶かされそうな快感を感じていた。しかしその時間も長くは続かなかった。
夢中にキスしていた時ドアチャイムが鳴った。我に返り二人はそっと離れる。
「えっと、ごちそうさま、かな?」
「お粗末様でしたってか??悪ぃ、ちょっと見てくる」
「亮平。今のって」
「勿論他言無用だぞ!」
「それは言えってことですか?」
ニマニマしながら聞いてくるともちんはからかおうとしているに違いない。だから俺は、
「勝手にしやがれ」
と吐き捨てた。
* * *
「はい、会原です」
インターホンにでる亮平を待ち受けていたのは長身の女子一人だった。亮平はその人の顔を見、そして誰だか一瞬で理解した。そして、
「鏡水月花と言います。会原亮平くん。貴方に用があって来ました」
と、自己紹介され予想的中した亮平であった。鏡水月花、最近転入してきたクラスメイトである。
しかし亮平は何故月花が自分に用があるのか全く予想できなかった。聞きたいことは山ほどあるのでインターホンを切った亮平はすぐさま玄関に向かいドアを開ける。
「会原亮平くん、一緒に未来を変えませんか?」
挨拶なしに開口一番に月花から告げられた一言に亮平は、
「は、はい?」
と混乱の渦のなかに放り込まれた。
後書き
後書きあみだくじ
ルールは簡単!数字を選んで線をたどって途中で横の道との分かれ道に出会ったら横に曲がる。そして、下に書いてあるアルファベットの所の後書きを読もう!
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A
ども!モグポクです!今回の後書きは『あみだくじ』です!楽しんで頂けたでしょうか?
今回の第七章『一晩寝たら奇想天外なことが起きていていつの間にか青春していた件』を振り返って、自由に書けた章だったのではないかなーって思いますね。今までは一章につき一つのお話が多いのですが、今回は四つのお話がありますよ!どれも面白いと思うんで是非過去に投稿した物も見てくださると超嬉しいっす!
最後に謝辞の方を。読者の皆様方、ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!それでは、ではまた!
B
若葉「後書きの時間ですよー。どーも、向日葵若葉と、」
守「沖根守です」
若葉「今回はあみだくじってことだけど、何かあみだくじに関するエピソードとかってない?」
守「ボクはあまりあみだくじってしないかな。若葉ちゃんは?」
若葉「それが私もほぼやったことないのよ。でもなんか、だからこそ新鮮味があるくない?」
守「そうかな?まあ、それは人それぞれじゃない?」
若葉「そうだよね。ということでもう尺的に終わりらしいのよ」
守「なにも面白味がないまま終わりを迎えるってここまでつまらない後書きってあるのかな?」
若葉「じゃあ次回の後書きの内容をあみだくじで決める?」
守「ボクはそれでもいいけど、大丈夫なのかな?」
C
次回予告
ひかり「他作品の後書きに登場するってどういうこと?つばさ」
つばさ「知らないよ。それを聞くならモグポク辺りに聞けばいいんじゃないかなぁ。それにここは次回予告。前にもあったよね、似たようなこと」
ひかり「謎の手紙事件。読み上げて次回予告するっていう意味不明なやつだよね。何でそうしようと思ったんだろう。他作品のは他作品に任せるべし」
つばさ「そうだねぇ。じゃあ次回は『一晩寝たらモグポクが身体不規則症候群になっていた件』かな」
ひかり「違うし可哀想!」
つばさ「ひかりは優しいんだね。正確には『一晩寝たら本世界に転移していた件 その1-1』かな」
ひかり「思ったんだけど、これって次回のネタバレとかに当たらないのかな?」
D
「というのが今回の後書きとなってます」
「キャラに任せるに加え他作品のキャラにまで任せるところ、嫌いじゃありませんよ」
「だよね、だよね!」
「でも任された側の批判が殺到しています。早急にどうにかしてください」
「眠い、寝る」
「私に全部丸投げなんていい度胸してるじゃない。覚悟はできてるんでしょうね?」
「zzz」
パチン!
「いたい!ビンタ痛いよ!」
「痛いと思うのは構いませんが、せめて更新したらどうですか」
「うー。ねたい」
「あとちょっと頑張りましょ」
「うぃー」
ここまで読んでくださった皆様、この下は感想を書くところですぞ!




