一晩寝たら透明少女になってて生活が不便すぎる件 その3
9月3日
「で、関与しているのが私ぐらいしかいないからどうすればいいかと一緒に考えてほしいと。まあ、いいでしょう。頼られるのはそう悪い気もしませんしね」
飯山辺りに相談すれば絶対に飛んでこない言葉が今飛んできて俺は反応に困っていた。透明少女に出会った翌日の朝、俺はこの件に関与している斎藤朋子を朝少し早く例の体育館裏に呼び出し相談を持ちかけた。なぜ体育館裏なのかと言うと、実際誰も来ないからである。今も体育館での朝練の声が聞こえる。朋子に関与しているからと相談を持ちかけたはいいが、いつものように自力で考えろ(俺は相談に至るまで案を考えてはいるつもりではあるが)と言われ渋々相談に乗るって言うパターンが多かった。しかし、彼女はどうやら積極的に相談に乗ってくれた。なんだ、今度から朋子に相談すれば…
「言っときますけど、今回だけだからねぇ~」
先に釘を打たれた。まあ、結果オーライ。心強い味方も居て、今回はサクッと解決しそうである。
朋子は咳払いすると、微笑みながら言った。
「では、現時点での状況説明からよろしくお願いします。亮」
※
9月2日
透明少女と俺とロリ二人のミーティング兼顔合わせも済み、俺は夕食を作る準備を始める。まことなのははトランプしている。夕夏梨はどこにいるのかわからないけれど、おそらくそのなかに混ざっているのだろう。ほら、空気の中からトランプが出てきた。俺もその中に混ざりたかったものの、夕食の時間が延びるので渋々準備を進める。
まず米を4合、いや5合洗って炊飯器にセット、その後、まな板と包丁と冷蔵庫の中に入っていた野菜類を準備する。まず玉ねぎ一個ををくし切りにする。その後人参を半月切り、じゃがいもを乱切りにする。玉ねぎを炒め、しんなりしたら他の野菜と肉を炒め水を入れて煮込む。そして、じゃがいもに箸が通るほど煮込んだ後カレーのルーを入れたら、
「俺特製カレーライスの出来上がり!」
同時に炊飯器がご飯が炊き上がった事を音で伝えると、俺はさらに炊き上がったご飯を四人分皿に乗せ、カレーを乗せる。それをダイニングテーブルに持っていってスプーン、コップ等を準備する。カレーライスの香ばしい臭いが辺りを包んだ頃に準備を終え声高らかに言う。
「おい、トランプを止めて俺のカレーを食べやがれ」
四人がダイニングテーブルの椅子に座り、カレーライスを食べ始める。なのはは俺の手料理をあんまり知らないのだが一口食べた瞬間「お、おいひー」とか言いながらばくばく食べている。ただ面白かったのは、いただきますと夕夏梨が言ったときに、
キュ~~~
とお腹が鳴っていたことだ。その瞬間夕夏梨の顔がみるみる紅くなって(実際には見えないが)、みんなが笑って、そのなかで夕夏梨が笑ってて__
※
「亮、亮の料理の腕前の自慢を聞きに朝早く来たんじゃないんですけど」
ふてくされながら、そして、頬を膨らませながら朋子は言う。
「けどこれはあったことだぜ。事実をそのまま話してるだけなんだけど」
「自分でも考えてみなかったのですか?ここに何一つもこの事件の解決策に繋がるポイントがひとつもないことを」
「……………」
確かに、これは俺のカレーを作ったお話で夕夏梨はほぼ関係ない。
「ひとまず、これはいいですから続きを話してください」
「へいへい」
今度は俺がふてくされながらも続きを話した。
※
カレーを食べた後の事だ。俺はシンクに重ねてあった皿を洗い終え、風呂のセットをした後に御三方とトランプをした。夕夏梨はどうやら触れたものが生き物でなければその物体も透明化できるらしい。実際にババ抜きやろうとしたところ、
「夕夏梨、お願いだからトランプまでは透明化するの止めてくれ」
「私に言われても出来るわけないでしょ!」
と言い争いが起きるが為に大富豪でなんとか勝負ができた。
トランプの腕はまこが一番良く、なのははルールを覚えたてで若干弱いもののもっと弱い者が居た。
「ちょっとみんな強者過ぎない?」
と声を荒げて言うのは勿論夕夏梨だ。毎度毎度最下位争いを繰り広げる夕夏梨はだんだんと飽き始めたのだろう。お風呂が沸いたことを知らせるアラームがなった途端、
「やめだ、やめ。後はあんたらで楽しくやったら」
と言いながらお風呂に向かおうとした。ただその時に「あっ!」という声が聞こえてきた。
「やば、着替え持ってくんの忘れてた」
「着替え?そしたら俺の…」
「着るわけねーだろ!」
いちいちうるせーな。勿論今の俺の着替えなんざ貸すわけねーだろ!
「違ぇーよ!俺が女体化してたときのやつを貸すって言ってるだけだっちゅーの!」
しかもセレクトは和や若葉だぜ。感謝しやがれ!
「うっ、じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ。か、勘違いしないでよね。仕方なく着替えがないから借りるだけだから!」
「一体なんなんだよ…」
「ツンデレ…」
なのはがそう呟くのとリビングのドアが閉まるのが同時だった。しかしすぐにリビングのドアが再び開いた。
「あんたの服どこよ」
俺は夕夏梨を俺の部屋まで連れていった。本来ならクラスの女子と二人っきりであるが、全然ドキドキしねぇー!しかもその女子が見えないとなると実質俺しかいないじゃん!悲しすぎるだろ。
こういうシチュエーションは和と楽しむとして、俺はクローゼットにぶちこんでいた使わなくなった女性用服を取り出している最中だった。適当にまとめてあった服や下着を出してベッドの上に置いた。
「この中から適当に選んで。安心して、ちゃんと洗ってあるから」
「それは当たり前のことでしょ。にしてもこんな服着てたのね。結構センスあるじゃない」
「若葉のセンスなんだけど」
あの時若葉が来てくれて本当によかったと俺は今になってそう思った。感謝の辞は後程若葉に言うとして俺はある考えを思い付いた。
「あ、そうだ。まことなのはとも入ってくんね。その方が嬉しがると思うし俺的には時間の効率がいいし」
了解という声を聞いてから俺は一人自室からリビングに向かった。
夕夏梨たちが風呂に入る頃の話である。その頃の俺はというとのんびりテレビを見ていたのだが、そんななか彼女らが着替えている途中まこはとある光景に驚きを隠せないでいた。
「えっ、えっ?急に服が現れたんだけど」
なんとなにもない空間からなんと制服、下着、その他諸々とどんどんかごに出現した。なのはも声にならない驚きの声が出たのらしいがそれはお互い様らしく、
「私も急に幼児服が出てくるのはビックリしたんだけど」
なのはは他の人には見えていない故同じことが起きている。身体不規則症候群に全く関係のない人が見たら仰天するほどだろう。
それからまず幼女達の身体を夕夏梨が洗ってあげたり背中を流したりと、どうやら面倒見がよかったらしかった。その証拠に俺がかごから溢れるほどの洗濯物を洗濯機にぶちこんでいる時に「う~、背中気持ちいい。夕夏梨さんありがとう!」という声が聞こえたから間違いない。
しかし、そんな平穏な入浴シーンも長くは続かなかった。それは夕夏梨が身体(又は頭かもしれない)を洗っているときのこと、なのはが俺が前どこかで買った水鉄砲で夕夏梨の方に向けて撃った。発車された水は勢い良く直線的に進んでいき、
「ふにゃあぁ!」
夕夏梨の身体のどこかに命中した。しかもなのはは撃つのを止めずどんどん夕夏梨めがけて撃っていく。その度に無抵抗の夕夏梨の変な声が俺のところまで聞こえた。あまりに変な声だったから気が散り早々に最近流行りのボールタイプの洗剤&柔軟剤を一個入れて蓋を閉め、起動させ、まこが応戦するのと同時に俺はリビングに逃げた。
しかしなんということか、夕夏梨も黙って攻撃を受けられてばかりではなかった。勢い最大限のシャワーでいきなり二人を奇襲したのだ。ずっと黙って攻撃を受け続けていたため二人が油断した隙を狙っての攻撃だった。言うなれば水機関銃というべきだろう。水道代がかかるので俺的には早急にやめてほしいものなのだが。しかし、シャワーを持ってるお陰で位置を把握され隙を見て二人は反撃を試みる。結果は上々。放たれた水は夕夏梨の体に吸い込まれて夕夏梨の変な声と共にシャワーの弾道がそれた。それを好機に猛反撃を続けるが弾道が再び二人に定まり二人の腹部に命中していく。しかも残念なことにくすぐりの弱い方が一人ここに存在した。
「きゃあ、ちょ、そこだけは、アハハハハwwwwww」
まこが家中に響き渡るような笑い声が出るくらい笑った。
そんなバトルが繰り広げられている最中俺は何をしていたかというと、
「あ、もしもし、亮くん。今週の土曜日暇?」
「久しぶりのデートの約束だと思って良いよね?俺メッチャ嬉しいんだけど」
和から電話を受けていた。その証拠にスマホにはちゃんと『野中和』と書かれている。
俺の発言がおかしかったのかくすくすと笑う和。俺は続きの言葉を胸高ぶらせながら待った。
「デートかどうかはわからないけれど、もし暇なら私と勉強会しない?」
勉強会、だと!
「しよう!しよう!よし、じゃあ今週の土曜日は勉強会すると俺のスケジュールに加えておくぜ」
俺はそう即答した。そして、続ける。
「しかし、何で勉強会を開くんだ?まあ、成績優秀者から教えられるのは効率的にも俺的にも嬉しいんだけど」
「それはね。亮くん前回のテスト悲惨だったじゃん。だからなんとか成績を今よりもマシにしてやろうと思って」
「俺は運の偏りひでぇな」
前回のテストは勉強以前に非常事態が発生した為に赤点ギリギリの点数を連続してとるという悲しい事件が発生したのだ。おそらく両親も呆れ果てていることだろう。
和はまたくすくすと笑っている。そのときだった。
「きゃあ、ちょ、そこだけは、アハハハハwwwwww」
と上品とは言えないような笑い声が会原家中に響き渡った。その声に和は「ワッ!」と小さな驚きの声を上げ、俺は声の主、まこに呆れていた。
「えっと亮くん?今の声って」
「多分、まこだな。弱点を突かれたんだろう」
俺はなるべく冷静にそう返したものの、それは一瞬にして崩壊することとなった。
「きゃああぁあ!!!冷たぁあい!!」
おそらくシャワーを盗られ冷水を浴びさせられているのだろう、夕夏梨の大声が俺の自室まで聞こえた。
しかし残念な事が発生した。夕夏梨が今俺の家にいることは和はまだ知らない。和はその声にもまた驚いたものの、その声の主があの幼女二人じゃないとすぐに気付いたのだろう。
「ねえ亮くん。今の声ってだあれ?」
さっきよりも声のトーンを落として質問してきた。その声に俺は冷や汗が止まらないままなんとか言葉を選びつつ答えようと努力した。
「えっと、普段絶対こんな声を出さないなのはじゃ、ないかな」
ふうん、と和は納得したのかしてないのかがわからないような声を出した。しかし早く俺は切らなければならない。本来は後数分話したいが事情が事情だ。
「じゃ、土曜日は俺が暇なら勉強会な。じゃな」
俺はそう言うとすぐに切りボタンをプッシュした。
「お前ら滅茶苦茶うるせーぞ!!」
※
「亮。ここまでの話を聞いて私が思うことを正直に言いますけど、ここまでの話と透明化現象との因果関係が見つからないんですけど」
ジト目の彼女が呆れた声を出しながらそう言う。それに俺は無言しか返せなかった。
「ちなみにこのあと透明化現象との因果関係は発生しましたか?」
「全くというほどありませんでした」
俺は即答した。朋子が何をしてるのですかと、さらに呆れたご様子でそう言った。
「はぁ~。仕方ありませんね。このあと夕夏梨さんに突撃するしかありませんね」
「あ、そう言えば今日は夕夏梨は登校拒否しやがったから今日は来ないと思うぞ」
「今気づきましたが突撃の仕様がありませんでしたしね。ではここは亮のご自宅に突撃するしかありませんね」
どうしてどいつもこいつも俺の家に突撃したがるんだ?俺はそんな疑問を持ちながら予鈴が鳴るのを聞いた。
次回予告
「向日葵若葉と」
「沖根守の」
「「次回予告ターイム!」」
「さあ、守ちゃん。前回の続きということで、恋バナ聞いちゃうよ~」
「ククク、そう来ると思ったよ。だから究極の言葉としてこう言おう。ネタバレの為言えません、とね」
「ふふ、そんなこと予想済みよ。だから次回予告があるんじゃない?さあ、黙れば読者のワクワクを裏切ることとなるけど、さあ、好きな人を白状してもらいましょうか」
「あ、ちょっと尺的にここまでかな」
「ふふ、終わらせるか!しかも尺なんて後書きは『小説家になろう』だと二万文字以内なのよ」
「あのね、読者の皆様が読みやすい後書きとしてもう締めないといけないんだよ。だからこう言っとく。読者のご想像にお任せします、とね。ということで、次回『一晩寝たら透明少女になってて生活が不便すぎる件 その4』次回もお楽しみに」
「ほんと、誰だろう。守ちゃんの好きな人」




