一晩寝たら透明少女になってて生活が不便過ぎる件 その2
始業式を適当に聞きつつ俺はどうするかと考えていた。透明少女、前にまこが存在を亡くしたり、なのはのようにお亡くなりになっている訳ではなく、ちゃんと存在している。つまり、周りの人に観測されない。どうするよ。もし周りから気付かれずに生活するって。家に帰っても家の人はどうかは知らないが見えなかったら色々と面倒だぞ。
「これまでをもちまして令和元年度二学期始業式を終わります」
何故令和元年度を強調して言う。確かに新しくなったのはわかるけどさ。終わったと同時に生徒は体育館外に出始める。
「亮。私の心配をせずに呑気に過ごしているとは、私、すっっごく嫌な気分なんですが」
横からちっこいのが出てくる。今日の朝初めて出会ったような少女、斎藤朋子だ。ボブヘアーの低身長な彼女は今、超超超不機嫌ナウだった。
「すまん。すまん。てか、俺も色々考えていたんだぜ」
「いつもの通り、答えが出ずに誰かを頼ろうという安易な考えではありませんよね?」
残念ながら俺は解決方法まで考えてなかったんだけど。この先のことを考えたり、透明人間って大変そうだなと思ってただけなんだけど。
「まあ、似たようなもんだ」
俺はそう言った。そして朋子ことともちんの横を見る。何もない空間を俺は両手で掴んだ。そしたらどうなったと思う。
――――ペチン
「いだ!こんにゃろ、何しやがる!」
「ご、ごめんなさい。ついさっき誰かが私を触ろうとしたため防衛させていただきました~」
確かに。そう易々と少女の身体を触ってはいけない。ごもっともすぎてぐうの音もでねぇ。俺は叩かれたところを手で撫でながら、
「でもな、透明人間となると見えないから何処にどんな姿なのかわからん」
と、思っていることを口にした。
「それもそうですね。少なくとも貴女が全裸になり公共の場所に出たとしても誰も咎めません。あと、テストの時にはカンニングし放題です」
後者はなかなか使えるが、前者の例えが酷すぎる。
「お二人とも、私の気持ちを考えて意見を言ってよ」
おや、怒られた。まあ、そうか。身体不規則症候群になんら関係ない人がこの状況ってのはとても戸惑うはずだ。
「悪ぃ、悪ぃ」「ご、ごめんなさい」
「分かれば良いの。ってか、これってどうしたら元に戻ると思う?」
それが分かれば提案してるっちゅの、一学期の俺ならそう答えただろう。けどな、舐めるなよ。今の俺はひと味違うぜ。
「それはだな、自分の心に聞いてみろ。何か消えたくなるようなことが過去にあったんじゃないか。その気持ちが引き起こした身体不規則症候群だと俺は思うぞ」
素直にそう述べた。身体不規則症候群、原因不明ではあるが今まで二パターン存在している。一つはその人の悩みとかなんとか。もう一つはとある二人の魂やらなんやらが何かの弾みで入れ替わったりすること。これを踏まえ、俺は前者じゃないかと思った。しかし、その真意を探ることは残念ながら出来ない。これは時間がかかりそうだな。
俺達は教室までやって来る。そして全員が席に着く。一人だけ登校していない人がいる。それを俺は見つけた。しかし、俺はその人の名前を知らない。俺ってあんまりクラスメートの名前を知らねーんだな。
「では、これにてホームルームをおしまいにする」
というわけで二学期最初の日は無事終了しま
「亮。透明少女はどうします?」
せんよね!とっとと帰らせてくんねーかな。和とゆっくりおしゃべりたいんだが。勿論朋子は俺を帰さない気満々だ。
「どうするって、普通にまずはお家に」
「それでご家庭の方々はその透明少女という境遇に正面から向き合っていけるとお思いで?」
だと思った。だってしゃべらなければここにいることすら疑えるし、なにもないところから声をかけられたらそれはそれはホラーだし、身内が透明人間とわかった日にゃ大パニックを引き起こしかねない。
「ここは一つ私に案を出させてはもらいませんか?」
「なんだ?」
「ここは亮のご自宅にお引き取りさせてもらいませんか?」
「断固拒否する」「な、何で私がこんな奴と?」
「でもですね、私のお家に引き取ることになりますとね、なにかと面倒なことが起きますよ。可愛い娘が透明少女になって帰ってきたら身体不規則症候群に関わってない人が受け入れると思います?」
自分で可愛い娘とか言うのかよ。確かに、それは受け入れ難いものではあるな。
「しかもですよ、あなたのご自宅には身体不規則症候群、この病名長すぎ。こほん、そんな人たちがなんともう二人いるじゃないですか!」
身体不規則症候群の病名の長さはともかく、確かに俺の家には身体不規則症候群に関わったやつしかいない。
「と言うわけで、消去法で亮のご自宅にお引き取りさせて頂くしか方法はありません!レッツ、トライ!」
「言っとくけど、別に私は会原君のお宅に行きたいわけじゃないんだからね!」
「それは私はツンデレです!って言いたいのか?」
俺達は今帰路にいる。ただ残念なことに自転車で帰るのが不可能となったため、今は電車に乗っている。
「ふざけないでもらえます?」
「周りに人がいて変な目で見られているのでしばらく黙ってもらえます?」
「チィッ」
おい、今こいつ舌打ちしたか?気のせいだよな、そうだとも。俺はそう自問自答してから最寄り駅に着くのを待った。
最寄りの駅についたあと俺の家まで当然ながら歩くわけだが、
「……………」
この空気重すぎるよ!この会話のなさは俺の心をじわじわと圧迫してもう……!
「わかった!俺が悪かった!だからこの空気感にするのはやめてくれ!」
「今度からは自分の言葉に気を付けることね」
言葉からは不機嫌極まりない声が聞こえるがどんな様子で言っているかは想像し難い。お、そういえば。
「そういや、俺お前の名前知らないんだけど、お名前教えてくださる?」
「姪浜夕夏梨、夕夏梨って呼んで」
「俺は会原亮平な。ってわかるか」
「この世界で男から女に替わってまた男に替わるやつなんて早々いないよ」
「見たこともねーしな」
「じゃあ会原、最近野中さんとどんな感じ?」
「どんな感じ?フツーな感じ」
「ふーん」
興味をなくしたのか黙り込む夕夏梨。しかし、それも長くは続かなかった。
「はい着いたと。ほんじゃ事情説明するから俺に話を合わせてくれよな」
「はいはい」
そして、俺は家のドアを開けた。そして、二人の幼女が出迎えてくれる。
「お帰り~」「おかえりなさい」
「ただいま。今日はちょっと大事な話があるぞ」
「亮平、『再始動』と違う」
「なのは、朝俺が言ったことを思い出せ。とにかく大事なお話だ。今日は一人泊めなきゃなんねぇ奴がいるから。なのはみたいなやつだ。今目の前にいる」
と、俺はおそらく夕夏梨のいそうなところを指差しながらそう言った。しかし、
「目の前にいるって言われてもいないよ、お兄ちゃん。とうとう暑さで頭壊れちゃった?」「なのは、目の前亮平しか見えない」
「俺はなのはみたいなやつって言ったよな?」
なのはは今現在は誰も見えないはず。多分。
「じゃあ、証拠は?」
「証拠?うーん、多分ここら辺にいる…グハ!」
手を伸ばし夕夏梨の身体を探し始めたらいきなり殴られた(と思う)。激痛がみぞおちにはしり俺は倒れてしまった。
「変態、変態、変態、変態、変態!この馬鹿、ほんとサイテー、マジ最悪!(*`Д´*)」
二撃、三撃と踏んづけてくる。マジいてぇ。俺は殴られる度に悲鳴をあげざるを得なかった。
「お、お兄ちゃんが一人でボコボコにされてる」
違う!俺は今殴られナウなんだって!
「ゆ゛か゛り゛、近所迷惑に゛な゛る゛か゛ら゛や゛め゛、ぎゃん!」
「うわ、変態が私に話しかけてくる。マジ逝きなさいよ!」
この仕打ちは酷すぎるのではないだろうか?
「お、お兄ちゃん。そろそろ話進めたいんだけど大丈夫かな?」
やっと状況を把握したのか、まこが心配そうにそう言った。しかし、それにしてはニマニマとした顔をしている。なのはは今の俺にドン引きしているが。
「勿論だぜ!ほら夕夏梨、って、帰ろうとしてんじゃねぇ!」
門が勝手に開いたことから夕夏梨が逃走しそうになる。実際逃走したら二度と見つけられる自信はない。俺はどうにか夕夏梨を捕まえた。勿論ボロボロの体で。
「放せ変態!通報するわよ!」
「通報したけりゃすりゃいいさ。でもまずこの状況をどう説明するってんだ!」
「無垢な体が犯されそうになったと言うわ!」
「透明人間相手に欲情する奴があるかー!」
その後約五分俺達は本気の殴り合いの喧嘩にもつれ込んだのであった。
「んで、お兄ちゃんは透明人間を引き取らざるを得なくなったというわけか。夕夏梨さんはその事をご両親に伝えてるわけ?」
「ええ、友達の家に急に泊まりに行くといったら二言で承諾したわ。しかも私の両親は仕事でいつも忙しいからなにも心配は要らないわ。特に明日からは父さんは北海道に、母さんは沖縄に出張だから一週間くらいは帰ってこないわ」
両親が出張中の事故でお亡くなりになったことを思い出して俺の顔はおそらく苦渋に満ちていることと思われる。それより、タイムリミットは一週間ということが確定した。
「なら大丈夫だな。あと夕夏梨、両親にいつでもいいから感謝の気持ちを伝えた方がいいぜ。気持ちなんてあとで伝えようとすると後悔するぜ」
「会原の言葉を今は聞きたくないんだけど、この心は?」
「俺は、直接伝えられなかったからだよ。それを俺はめちゃくちゃ後悔してるからさ」
あくまで間接的。しかも両親はそれを知らずに生きたと思う。俺は覚えていても両親が忘れてりゃ感謝が伝わっていないも同然かもしれないが。
「言葉だけは受け取っておく」
そう返された言葉には含みのある言い方だと俺は一瞬思った。勿論俺はそれを逃す男ではない。それは海のループで嫌なほど学んでいる。
「んじゃあ料理は一応俺が作るとして、寝る場所は俺の部屋を好きに使ってくれ。俺はソファーで寝るから」
「勿論よ。わかってると思うけど変なことしたらただじゃ済まないからね。今度こそ逝かせるから」
「逝かされないよう気を付けなきゃだな、これは」
ひとつひとつの言葉が重すぎんだよ。あと透明少女を相手に変なことできるのだろうか?
「亮平、これからどうするの?」
「わかんねぇよ。とりあえず解決案を」
「今回は聞くのなしでいかない?」
「なのは、つまり今回は自力でと?」
「夕夏梨さんを見つけたのは亮平。だから他の人に相談して物事を大きくしない方がいい」
「ちょっといい会原、今誰と話してるの?」
やはりか。どうやらなのはは夕夏梨には見えていないようだ。不思議そうに聞いてくる夕夏梨に俺は、
「まこのとなりにいるなのはと話している。誰もいないじゃんはなしな。あと、」
「……………」
夕夏梨は黙り込んだので俺はなのはの方に向き直りながら、
「わかったよ。今回は俺自身で打開策を考えるよ」
と渋々そう言った。
次回予告
「向日葵若葉と」
「沖根守の」
「「次回予告ターイム!!!」」
「さて、あともう少しでクリスマス!さて、私はそれまでにリア充になれるのかな?」
「確か若葉ちゃんは一度亮平に失恋してるからね~。彼氏候補いる?」
「うぅぅ…。それこそ守ちゃんも彼氏候補いるの?」
「尺的にもこれくらいまでかな。次回『一晩寝たら透明少女になってて生活が不便すぎる件 その3』お楽しみに~。」
「ああ!勝手に締めるな!守ちゃんの恋バナがぁ~!」




