一晩寝たら海に誘われた件 #5
7月21日、この日は亮平にとって二度と忘れられない日となっていた。理由は単純明快で今までに四回のループを繰り返したものの残念ながらそのループから未だ抜け出していない。しかし、亮平はちゃんとした確証があった。それは今現在起きている奇妙な事件の打開及びループへの脱出である。己を信じ、作戦を練り終え、そして五回目のループに持ち越されたのは、この五回目のループで7月21日ループ人生の終止符への決心であった。
午前六時。亮平の部屋にスマホの着信音が流れた。アラームと区別しかねない音、しかし亮平はその音に気付くと電話を取った。
「もしもし、会原です」
声は完全に起きており目は完全に開いている。まるでかなり前から起きていたかのようだ。
「あ、もしもし亮平くん、おはよー!」
一度目と同じ挨拶を交わす若葉。そして、
「今日さ、海行かない?和ちゃんとか誘ってさ」
と、元気そうに言った。亮平は、
「勿論!あと、まこ連れていっていいか?あいつも行きたがってるだろうし」
「勿論いいよ!じゃあ8時に高校の近くの駅前に集合ね」
と若葉は言って電話を切った。そしてすぐにまこのいる部屋に行くと大声で、
「海に行きたい奴は起きろ-!」
と叫んだ。まこはすぐに跳ね起きると、
「行きたい!おはよう!お兄ちゃん!」
と声高らかにそう叫んだ。まこの目は輝いており海に行く事が待ちきれないようだ。
「うし、起きたな。海に行くから急いで準備していくぞ!」
「押忍!」
と、朝からテンション100%の二人は一軒家中に響き渡るような大きな声で叫んだ。そしてすぐに亮平はスマホを取り出して、
「あ、もしもし、若葉から電話来たと思うんだけど、今日海行くって知ってる?」
と、電話を掛けた。そして、
「ああ、聞いたぜ。で、どうした?」
と、少年の声が返ってくる。その答えを聞いて亮平は安心したような顔を一瞬して返答した。
「まこいるだろ。多分ねーと思うんだけど、まこと同じサイズの水着持ってねーか?まこの水着買ってなくて」
「何故だかわかんねーけど妹の水着を多分とってある。ぜってー要らねぇのにな」
まさにこのときのために用意されたかのようなアイテムに亮平は苦笑し、
「サンキューな!岡島」
と礼を言った。岡島と呼ばれた少年は「おうよ」とだけ返答し電話を切った。そして、
「何度も何度も思うんだけど八時駅前集合ってキツすぎないか」
と愚痴った。
それでも亮平とまこは集合時刻の午前八時より少し前に駅前に着くことが出来た。既に若葉と和と岡島と沖根と飯山がいた。
各々に朝の挨拶を交わし、コホンと若葉が咳払いしみんなの先頭に立ち、そして、声高らかに宣言した。
「今日はみんな急だけど来てくれてありがとう!それじゃあ行こー!」
「「「「「オー!」」」」」と、全員が元気に声をあげた。
「お前ら、元気だな…」
苦笑いをしている飯山を除いては。
そして勿論のこと、周囲の人間はそれを見て何事かと目を向けたが去っていった。
電車を乗り継いで到着したのは江ノ島が一望できる綺麗な海岸である。海開きを迎えた後のその海岸には多くの人が集まっており、それぞれ夏の海を体感している。
そんな中既に海水パンツを穿いた男子が三人、海の家の壁に寄り掛かりながら待っていた。しばらくして、
「お待たせー!」
「お待たせられました…!」
と、亮平は四人の女子の水着姿を見た瞬間、半ばみとれた。若葉は黄緑のビキニを、和は黄色のワンピ水着を、守は水色のフリフリのついたビキニを、まこはピンク色のワンピ水着を着ていた。
いち早く亮平の視線に気付いた若葉は微笑を浮かべながら声をかけた。
「なにじろじろ見てんだよ、男子たち」
「いやー、四人とも水着似合ってて、チョー可愛いって思ってただけだよ。な、お前ら?」
と、男子二人に同意を求めて、「おう!」という威勢の良い声と無言で頷く反応が返ってきた。
男子たちの反応に拍子抜けする四人衆。そしてみるみる顔を赤く染め始め、特に沖根は耳が真っ赤になるほど顔が赤くなった。若葉も似たような感じに仕上がっている。和とまこは一瞬の照れて、そして笑顔になった。
「さてと、んじゃ、大いにはしゃいじゃおーぜ」
亮平の一声でみんなが元気に叫んだ。まるでこの元気をみんなに分け与えるような叫びを。そして一人苦笑した者がいた。
「まったく、元気な奴らだなぁ」
この後は今までのループと同じ行動を辿った。海で水をかけあったり、泳いだり、亮平を砂浜に埋めたと思ったら次は和が埋められたりと、まるで今までのループを忘れるくらいに亮平ははしゃぎ、遊んだ。
太陽がちょうど頭上の上にやって来る頃、亮平達は若葉の用意した昼御飯を美味しく食べていた。
「「うまっ!」」
「美味しいねぇ」
「う、うまっ!」
「お、美味しいです、若葉さん」
という亮平達の称賛の言葉と飯山がその言葉に頷く。そんなことされると、
「え、えへへ~(*´∀`)♪ありがと、みんな」
と、若葉が照れるのはもはや自明的であった。
「お、岡島、は、反則級に強すぎだろ!」
「お、お兄ちゃん!私身体ちっちゃすぎる!」
「へっへ~負っけないよ(^-^)」
「ふぎゃ!」
「ごめん!亮くん、顔に当てちゃって」
「うりゃーー!!!」
「なんというか、壮絶ダナ…」
そんな声がビーチの方から聞こえる。毎度恒例のビーチバレーは飯山が引くほど壮絶な戦いとなった。チームは毎度同じで、亮平、和、まこチームと若葉、岡島、守チームである。
しかし、いつものような展開を変えようと奮迅としている者がいた。
「うりゃあー!!何度も何度も負けてたまるかぁあ!!!」
試合は12-24。前のパターンだと7-25なので、いつも以上に点数は取れている亮平チームなのだが、それでも劣勢となった。
さて、サーブは亮平チーム。そして、和がローテーションでサーブ権を引き当てている。
「和!思い知らせてくれ!このチームが最強なのだと!」
「あったりめーよ!!」
威勢の良い声を返す和に少し笑顔になる。そして相手の若葉チームはいつ、どこにボールが来てもいいように構えている。
そして、和がサーブをする。ボールと手が当たる良い音を響かせたあと、ボールはコートを外れ、そして、
「ふわぁぁー、ふがっ!」
審判を任されているあくび中の飯山の顔面に直撃した。そのまま仰向きに倒れた。衝撃を吸収した砂浜の砂が辺りに舞った。
顔面を押さえて寝そべる飯山に、
「ごめん!飯山。顔に当てちゃって」
「このシーン、さっきもあったよな」
「大丈夫か、飯山!」
と、和と亮平と岡島がそれぞれ声をかける。まこは佇み、若葉と守は笑っている。
「ったく…まあ、眠気覚ましになったからいいけど…それにしても」
「12-25。俺たちの勝ちだよな!」
岡島が飯山が言おうとしていたことを言った。そして、飯山が溜め息をついた。
ビーチバレーは和が審判に攻撃したことで12-25となり、若葉チームが勝利するという亮平にとってとても悲しい結末を迎えた。
その後海の家でかき氷を食べ、再び海ではしゃぐ。守が意外とはしゃいでいるのを見てみんなが笑って守は照れ笑いした。
そんなことをしているうちに太陽は西に傾き江ノ島をより輝かせている。それが夕刻を伝えている。そして、
「そろそろ帰る準備しようか」
とはしゃぎ疲れている和が海ではしゃぐ亮平達に呼び掛けた。いつもだと「そうだな!さすがに俺は疲れたわ」とはしゃぎ疲れた声で言うのだが、今回の場合は違った。
「わりぃ、先に帰る準備をしてくれ。ちょっと若葉借りるぞ」
「…っ!」
若葉はいきなり亮平に誘われ驚き、そして顔を赤くさせる。そしてそのまま二人は浜辺にいこうとする。その後ろ姿に、
「あいあい、そして若葉ちゃん。ファイト」
と小声で応援する声が喧騒の中に消えた。
二人は浜辺につくまで一切会話を交わさなかった。若葉はチラチラと亮平を見るが、亮平はその視線に答えなかった。
人がまばらな浜辺の上に亮平は座った。それにならって若葉も隣に座る。南寄りの風が二人の顔にまとわりつき、潮の香りが鼻孔をくすぐった。
「若葉、ここ気持ちいいだろ」
「うん」
若葉が小さな声で答え、首を僅かに縦に動かす。亮平は水平線を見つめたまま口を開いた。
「海ってさ、陸と違ってさ、暖まりにくくて、そして冷めにくいんだよな。逆に陸は暖まりやすくて、冷めやすい」
「へぇ…。そうなんだ。で、なんでそんな話を?」
首を傾げる若葉を一瞬見て、そして、視線を水平線にまた戻して、言った。
「俺は、どちらかと言えば陸のように暖まりやすくて、冷めやすい性格なんだけどさ。でも、恋心だけは海のように暖まりにくくて、冷めにくい。いや、暖まりやすくて、冷めにくいと思うんだよな」
「そ…それって、どういうこと?」
「一人の人に恋したら、多分一途に恋する性格なんだと思う。若葉はどう?」
「どうって?私?」
無言で頷く亮平の目には真剣な眼差しであった。そして、若葉は亮平のように真剣な眼差しで水平線を見つめる。
「私の場合は…、そうだなぁ…、」
一瞬だけ言葉を詰まらせる若葉。そんな若葉に亮平は無言で次の言葉を待った。そして、
「普通の性格なら、暑くなりやすくてほどほどに冷めると思う。けど、私は人を好きになったら多分その人の事しか考えられなくなると思う」
そっか、と、亮平はそれだけ言った。若葉もこれ以上なにも話さない。一分ほど二人は話さなかった。海風を心地よく感じて、そして、亮平の方が先に口を開いた。
「もう少し、俺をさ、頼って欲しかったな」
「何を言っ…。はぁ~。もう、無駄なんだよね、隠すの」
「折れるのが早くて助かるよ」
若葉はついに若葉自身もループに巻き込まれていることを自白した。そして、
「心残り、あるんだろ。しかも俺絡みで」
「……………」
そして、無言で頷く若葉。そして、
「これだけは聞きたい。なんで俺への心残りがあるの?そして、なんで俺を頼ってくれなかったの?」
と、若葉のためを思い、そして、解決のチャンスを掴むために亮平なりに優しく質問した。が、
「……そんな…こと…」
「そんなこと?」
「そんなこと、出来るわけねーじゃねーかよ!!!」
プチンと何かが弾けた。そして同時に大声で怒鳴った。大きく開かれた目はさながら赤く光っているようであった。その声に驚き、反射で若葉を見、少し離れる。が、徐々に距離は詰め寄られる。
「亮平に頼る?言葉と行動は違ぇんだよ!!そりゃさ、頼ろうと考えたさ。けどな、怖くて出来なかったんだよ!」
「わ、若葉さん?ちょっと、落ち着いて、ね」
「落ち着くだぁ~?落ち着けるわけねぇんだよ!!!!」
遂に若葉がキレてしまった。周りを通る人全員の視線が亮平と若葉に集中し、「喧嘩~?」とか、「どうしたのかしら」等とヒソヒソと言っている。
その大声は海岸中に響き渡って、女子更衣室で着替えていた和と若葉といった亮平の友達の耳にも届いた。
既に着替え終えている和はその声に反応して、
「ねぇ、今のって若葉ちゃんじゃない!?ちょっと確かめに行こうかな」
と、心配そうな事を言って、そして、さっきの声の発生源を確認しようと更衣室を出ようとする。それを、
「和ちゃん。若葉ちゃんには心配する必要はないんじゃないかな」
と、守が和の行動を止めようとする。
「で、でも、」
「大丈夫。絶対に。だからここは待ってよう」
「そ、そう?大丈夫かな…」
それでも心配そうにする和に、
「ぼ、ボクは和ちゃんは心配そうな顔をするより笑顔を見せて欲しいな」
「うん、そうだよね…ッ!!」
和の前には守がいる。そう、ビキニを脱いで、全裸姿となった守である。華奢で艶やかな体つきで、胸は和より大きくて、大事なところも露になっている。しかし、手で隠したりといったことはしなかった。恥じらいもなかった。しかし、そのあられもない姿に和は、
「守ちゃんの裸やっぱいい!」
「うぅ~」
前言撤回、守は目の前の変態に大いに恥じらった。
若葉の声は男子更衣室にもやはり微かに聞こえていて、
(何が起きたかは知らんが、あいつはあいつなりに勝負しているんだな)
と、飯山は脱衣しながら亮平の健闘を心の中で祈った。
「なんでいつもいつも私に優しくするの?なんでこんなことをされてまで怒ってないの?なんで、なんで…」
若葉は怒鳴りながら、けれど最後は涙声になりながらも亮平に問いかけてきた。
しばしの沈黙。そして、ゆっくりと亮平の口は開かれた。
「逆にさ、何で俺が怒ると思ったの?困っている人を目の前にして俺が怒ると思う?もしそう思うんだったら、俺のことわかっちゃいねーなー」
「……………」
「五日間お互いループしている仲だろ。困ったときはお互い様だろ」
と、亮平は少し晴れた顔でそう言った。が、それで若葉の顔が晴れるどころか、亮平を涙ながらに睨んでいた。
「亮平くんも、私のことわかってないもん。五日間ループしている仲?何で私が五日間ループしているって断言するの?」
「なっ……。お前、まさか!」
亮平が目を開かせながら驚愕する。そして、
「そうだよ!私は、九回目なんだよ!この7月21日が!」
と、驚愕な事実を暴露した。亮平はループ回数の誤差に混乱していた。
「最初の四回は誘いを断ったのよ!ほんと、意味わかんない!!」
なんで断ったんだよ!と、心中亮平は叫ぶのだが、記憶がないためにその理由を知ることは二度となかった。
「ほんと最悪!なんで今日が終わらないの!なんで…」
嗚咽を出し、心の悲鳴をあげる若葉。その言葉に亮平は平然を保ちつつ、真剣な眼差しで若葉、そして海を見やった。
「若葉。自分の気持ちを言葉にするのはとても勇気がいるんだ。心の準備が整わないと俺だってひよる。けどな、それでも頑張ってやってみると、結果はどうであれ心は晴れると思うぜ」
かつて、勇気を振り絞ってその気持ちを一人の男子に告げた女の子がいた。その子はその勇気ある行動の末見事その男子の心に届き、今ではその二人は周りも認めるラブラブカップルとなった。まるでそれが自分の過去の話、いや、本当は過去の話なのだけれども、亮平はその話を若葉にして、そして、
「心残りをここに置き続けるよりかはさ、前向いて突き進んだ方が良いと思うぜ」
その時、若葉はその言葉に反応し、そして自分の中で自問自答する。周りの喧騒とした中、ここだけ静寂が訪れていた。
そして、一回頷き、亮平の方を向き、一回深呼吸をして、そして、ゆっくりと、口に出した。
「私さ、好きな人が出来たの。その人はさ、もう手のつけようのないくらいバカで、抜けているところがって、トラブルメーカーなところもあるんだけど」
亮平は相槌をうちながら、若葉の方を見て聞いている。
「けどさ、素直で、ムードメーカーで、困っている人を見つけたら絶対に助けたがる性格で、褒めるのが雑だけどちゃんと嬉しいこと、言うし」
「……………」
「もう、好きになっちゃったじゃん!」
一拍の間。響き渡る心臓の鼓動。乱れる息遣い。それすらが場を作っている。そして、一回止まった口が再び動いた。
「つ、付き合ってくれーー!!!会原亮平ー!!」
「ありがとう、とても嬉しい。けど、俺好きな人いるんだ。だから、その、ごめん」
フラれた。わかってはいたつもりではいたが、ここまで辛いものだったとはと、若葉は涙を流しながら、
「う、失恋だぁ~」
と、嗚咽混じりにそう言った。そんな若葉の頭を亮平は自然に撫でて、
「けど若葉、お前はよく頑張ったと思う。勇気を振り絞って、心残りを捨てたんだからさ」
若葉は告白の緊張が緩み、滝のように涙を流し始め、嗚咽を漏らし、号泣し始める。その失恋の悲しさを共有するかのように、亮平は若葉を抱擁した。
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」
若葉はその時だけ亮平に甘え、失恋の悲しみの涙をしばらくの間流し続けた。
* * *
午前六時、今日も日本某所のこの街は平和な朝を迎えていた。雀の朝チュンが各家庭の部屋にまで朝を届け、そして、それは亮平の家にまで届いていた。
そして、亮平はいつものごとく部屋で寝ていた。7月21日ループ事件の疲労を癒すためにゆっくり起きることを決意した亮平だったのだがそれは携帯の着信音で阻止されてしまった。
寝ぼけた顔で携帯に出る亮平は相手が誰かを見ていなかった。なので、
「もしもーし、おっはよー!亮平くん!!」
と、向日葵若葉が快活に挨拶したことに少し反応した。目を擦り、寝ぼけた声で、
「もしもし、何の用だ?」
と返した。ただ、返ってきたのは、
「何の用?カレンダーに相談してみれば」
という意味深なことだけであり、それだけ言って若葉は電話を切った。亮平は意味が全くわからないままスマホのカレンダーを見た。そこに書いてあったのは7月21日という、
「お、おい。嘘だろ。嘘だと言ってくれよ!」
六回目のループの突入という事実だけだった。
後書き
若葉「ども!第六章一晩寝たら海に誘われた件後書き&次回予告担当の向日葵若葉と、」
和「野中和でーす」
若葉「終わったよー」
和「そして私たちの物語も」
若葉「終わってませんて、でもここまで来たんだね」
和「そうだよー、次回からまた新章」
若葉「そういえば今回は第三十一部目記念だよ」
和「中途半端!」
若葉「ご読了ありがとうございました。ブクマ、評価、感想などよろしく!by作者」
和「自分で言えばいいのに、あ、次回予告入りまーす」
次回予告
若葉「暑い」
和「夏だからねー」
若葉「夏といえば祭りにプール、花火に海だー」
和「あと山ねー」
若葉「暑いから、次回予告するねー」
次回 「一晩寝たら野球部のマネージャーに抜擢された件」
若葉「まじ暑い~」




