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一晩寝たら海に誘われた件 #3

7月21日


 プルルルル、プルルルル…


 携帯電話から音が鳴り響く。静かにその音が流れていて、少々不気味だ。


 そして、数秒後ぷつっという音がした。


 「今度はどんな面倒ごとを僕に持ち込もうとしてんだ。会原亮平」


 「飯山(いいやま)は俺が電話したら毎回面倒ごとだと思ってるのかよ」


 「実際そうだろ」


 飯山(はじめ)は鬱陶しそうに返答する。亮平と肇が電話するときには、いつも身体不規則症候群がらみの話だったからそういう返答するのか仕方のないことだった。


 「そうか?」


 ただし、亮平にそんな意識はないらしい。肇は大きくため息をついた。


 「見えない幼女のときとかあっただろう」


 「……………」


 「お前の体が女の子になった時も電話してきただろ」


 「そうだったか?」


 わざとらしく全然感じていない様子に言う亮平にまたあきれてため息がこぼれた。


 「で、今度は何があったんだ?話だけだったら聞いてやる」


 「実は…」



 「お前は何度変なことに巻き込まれば気が済むんだ?」


 「『身体不規則症候群になると一生付き物になる』とか言ったよな?」


 唸る肇。女体化のときに確かそんなことを言った覚えはもちろんあるので、何も言えなくなってしまった。

 

 「話を戻すぞ」


 「おう」


 「つまり、お前が今日7月21日が三回目と言いたいのか?」


 「それがそうなんだよ。信じてもらえないかもしれないが」


 「それじゃあ信じない」


 「おい、今のは信じてくれるというシチュエーションだろ!」


 「ふんっ」


 息を鳴らし、また面倒ごとを持ってきたなこいつと思いつつ話を聞いてくれる肇は優しい奴だ。


 今日亮平はまた独特な着信音で目が覚めた。寝ぼけつつ電話に出たら、またしても若葉だったのだ。前回みたいに「俺の和デートを邪魔しやがって」というくだりから始まり、海に誘われたこと、今日が7月21日であることに気づき、ようやく7月21日に縛り付けられていることに気づいた。さすがに三回目となると夢の中の世界でないと気付くのか、普通ではないだろうか。


 若葉や和が来ている服も前回と同じ。皆が来ている水着も同じ。今までと同じ電車に乗るのも、亮平が変態呼ばわりされているのも同じだ。ビーチバレーをした時のチームや点数までもが同じだった。


 同じことが二回三回繰り返され、頭は混乱し、考えただけで気分が悪くなる。それでもどうにかしようと考えた結果、ギブアップし肇に電話をかけたわけである。


 「要は、お前だけ7月21日に囚われているからどうにかしてほしいと」


 「おう」


 「端的に言おう。無理だ」


 「諦め早っ!いつもだったら考えてくれた挙句に俺を導いてくれるじゃないか」


 「導いているだけでも感謝しろ」


 「サンキュー、飯山」


 「お、おう」


 「かわいいなぁ、飯山は」


 すぐに亮平に聞こえてきたのはプツッという音だった。



 「ごめん、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだよ~」


 「は?きもいんだけど。話しかけんじゃねーよ」


 「素直じゃないなあ。電話出てくれたくせに」


 「もう二度とお前の話なんて聞かねーよ」


 「ごめんて~」


 平謝りする亮平に苛立ちが積もる肇。なぜ亮平からの電話なんかとってしまったのだろうか。こんなことになることはわかりきっていたはずなのに。


 「話を戻すぞ。お前の身体に何かあった訳じゃないんだろ?」


 「そりゃそうだけど」


 「じゃあ身体不規則症候群とはいえないだろ。身体に影響がないとくれば、それはもうSFの話だ」


 「……………」


 身体不規則症候群の定義として、身体が意識レベルで不規則に変化し、摩訶不思議な状態になることを今まで指していた。


 しかし、今回の場合、身体には何も変化がなく、タイムループのようなことは身体不規則症候群の定義外だ。しかも、タイムループなんて今の時代では起きるはずのない、空想な話だ。だが、


 「だが確実に身体不規則症候群ではないとは言い切れないな」


 「なんだ?さっきと話が矛盾しているぞ」


 「見方によりけりだよ、こんなこと。よくある話だろ。ループものっていうのは。でもループものは身体不規則症候群ではない。小説だったら誰かの心残りが紐となってそれが時間、いや、ここでいう世界の時間軸を紐が巻き付いた始まりのところまで戻される、みたいなのがある」


 「そんな小説があるのか」


 「お前も小説くらい読め。話を戻すぞ。このSFものを今回に置き換えると、今回は身体不規則症候群と考えるならば自分の身体が7月21日の時間軸の終わりから始まりまで瞬間的に移動する、いわば時のテレポーテーションだよ」


 「だとしたら疑問が生まれるぞ。精神的の疲れは出ているけれど肉体的な疲れは何度回数を重ねても疲れが残っていないまま朝を迎えるんだ。肉体が瞬間移動したなら肉体的な疲れも出ているだろ」


 「案外そう疲れていなかったのかもしれない。それに魂連動説、つまり入れ替わりのように魂のようなものが働いているかもしれない」


 「魂って。科学的じゃないなぁ」


 「身体不規則症候群はなんでもありの病気だからな。ただ、魂なんて人の気分的存在だから人が観測していない限りは存在を肯定することも否定することもできないからな。もっといえば魂なんてただの人の記憶や意識でしかない。7月21日のお前とその次の日のお前が入れ替わったというのもあり得ることではある。ただ、2019年7月21日以降のお前が存在しているかなんて確定した訳じゃないし、その入れ替わりのお前はいったいどこに行ったのか説明ができないから違う可能性が高い」


 「なら…」


 「間違いなく身体不規則症候群ではないなにかだ。前者である誰かの心残り、、とは限らないけれど、なにかの紐が7月21日の時間軸に捕まった。それが7月22日から7月21日の世界にまでお前を引っ張りあげた。時間の流れという流れに逆らうように、SFの話のように」


 「だとしたらおかしい話だぜ。俺はすぐにでも7月22日が来ればいいと思っている」


 「運命の赤い糸って聞いたことはあるか?」


 「まあ聞いたことはあるけど。運命の赤い糸に結ばれたカップルは将来結ばれている的なやつだよな」


 「そうだ。つまり第三者の糸にお前が奇跡的に結びついた。または、お前自身が糸の権化なのか」


 「だから、俺はもう7月21日に未練なんてないよ」


 「水着姿に見とれているわけじゃないのか?」


 「俺がそんなことで興奮すると思うか?」


 「……………そんなわけないよな、すまん」


 「俺は少なくとも若葉、和、まこの裸体なら見たことがあるのに興奮するわけないだろ!」


 「これだけは言わせてくれ。お前は最低な変態だ」


 唸る亮平。少しくらいのダメージを負った。


 「で、俺はどうすればいい?」


 「僕が知るわけないだろ。他を当たれ。ただ仮定することはできる」


 「仮定、か」


 「僕が考えるに、方法は二つ。まず一つ目に、世界を7月21日と同じ状態にせず7月21日ではない別の日を作り出す。そうすることで2019年7月21日という日付は物理的に終了する」


 「そんなこと出来るのか?」


 「まさか」


 「だよな」


 「毎日毎日それが起きているのに?」


 「はい?」


 亮平は素っ頓狂な声を上げた。無理だと言っていることがまさか実際毎日起きている、そんなことを言われれば驚くに決まっている。


 「だって考えてみろ。同じことが違う日に起きたことなんてあるか?」


 「なるほど」


 「つまり世界を、7月21日の世界をお前が変えるしかない」


 「二つ目を頼む」


 (神様でない限りそんなことはできそうになさそうだ)


 「簡単なことさ。運命の糸を、7月21日という紐の束縛から解放すればいい」


 「まるで俺以外にも同じ目に遭っているような言い方だな」


 「あくまで仮定だけどな。考えるのは自由だ。お前は誰かに縛られている。そういう考えだってできる」


 「……………」


 「しかし、だれが縛っているかなんてわからない。この七十億人もいる人類の中からその一人を探さなければならない」


 「七十億人…」


 亮平はついに黙ってしまった。全人類の中から運命の糸を探すのは、ほぼほぼ不可能なことだった。ただすぐに、「はっ!」という何かを思いついたような声が聞こえた。


 「運命の赤い糸ってことは和ってことはないか」


 「確かに、そう仮定することもできるな」


 「だとしたら何故なんだ。困ったことがあったならまずこの俺に相談してくれてもいいはずなんだけどな」


 「彼氏だからこそ相談できないことだってあるさ。それに、お前は少々頼りがいがない」


 「なんだと」


 「少しだけかっこよくても他の人に頼りすぎてるとそう思われるぞ」


 ぐぬぬ、と唸る亮平。確かにと思うところがあったのだろう。特に目の前の事とか。


 「じゃあ、もしまた7月21日が訪れたら聞いてみるか」


 「まあ頑張りたまえ。だけど、また電話してくるなよ。その時の僕は今の僕ではないだろうけれど」


 「ああ。あと、最後に伝えたいことがあるんだけど」


 「なんだ?」


 「実は…」



後書き

若葉 「ども、第六章後書き担当の向日葵若葉と、」


和 「野中和でーす、ってあれ?最終回だったっけ?」


若葉 「そう、そして話は新章に…じゃないよ。なにもう解決したことになっているの。今回は特別版だから後書きがついてるの」


和 「あれ?今回特別版だっけ?」


若葉 「正確にはお伝えすることがたくさんあるから次回予告に収まらないだけってことね」


和 「なるほど」


若葉 「では始めに新作発表からスタートしていこー」


和 「新作!?」


若葉 「そそ、新作、新作~7月20日に新作の一本目7月21日はこの一晩寝たら海に誘われた件の最終回、7月22日にはまたもう一つの新作を発表!」


和 「あれ?次回って最終回だっけ?」


若葉 「一応違うみたい」


和 「一応これだけ言わせてください。確実にこれをこなせるわけではありません」


若葉 「本当はこの話が7月13日に出る予定だったからねぇー」


和 「以上新作のお話でした~」


若葉 「まだまだお伝えすることが!なんとこの一晩寝たら奇想天外なことが起きていていつの間にか青春していた件のpvが5000突破、ならびにユニーク数が1000突破、ならびにブクマが10件突破!」


和 「光栄だねー、きっとこの次回予告のお陰かな?」


若葉 「いやー、和ちゃんのギャップ萌じゃないかなぁ?」


和 「ん?私のどこがギャップ?」


若葉 「ご読了ありがとうございました~、続いて次回予告へどうぞ!まさか私たちが次回予告をするとでも?」


和 「素直に次回予告担当が私たちじゃないっていえばいいのに」


次回予告

 「早く7月21日にならないかなぁ?」

 一人の少女が一人の少年に向かってそう言った。少女の顔には笑みがこぼれていて、そうとう7月21日を待ちわびているらしい。

 「そんなに楽しみなんですか?僕とのデート」

 「楽しみに決まってんじゃん、てゆーか勝手にデートっていうのやめれ、恥ずかしい」

 少女が顔を赤めかせたが、すぐに何か気づいたような顔をした。

 「いやいや端から見ればデー…」

 「あれ、なにこの紙?」

 少年は下に落ちていた紙を拾った。

 「なになに~?次回『一晩寝たら海に誘われた件 #4』?」

 「えへへ、私海に誘われた」

 「僕じゃないからね」

 一人の少女がまた微笑むように笑った。

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